昨年7月、ウォルマートの西友売却が報じられてウォルマートは売却を否定したが、ファンド、商社、流通大手などの名前がささやかれ、ドンキホーテホールディングス(現パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)が関心を示すなど、業界に波紋が広がった。

 その後も水面下で交渉が進められているといった臆測も呼んでいたが、6月26日、東京で開催された西友のアソシエイト(従業員)向けの対話集会で、約600人のアソシエイトに対して西友の今後3年間の事業計画を発表する中、ウォルマートは西友の再上場を目指す方針を明らかにした。

 ウォルマート・ジャパン・ホールディングスと西友のリオネル・デスクリーCEOは「私たちは西友を、ウォルマートの力強い支援の下、先進的で、地域に密着した革新的なバリュー・リテイラーにすることを長期的な目標に掲げています。この目標を達成するために、日本の事業に積極的な投資を行っていきます」とも表明した。

 このことから、1年に渡りくすぶり続けてきた売却話は、ウォルマートによる西友の事業継続という形で一応終息したが、今後を考えると一筋縄ではいかない状況が見えてくる。まず、同時に策定された4つの重点領域を定めている中期的な事業計画を見てみよう。

①カスタマー・バリュー・プロポジション(CVP)の向上

『西友が考えるCVPとは、お客様が西友で購入いただく商品やお買い物体験に高い価値を感じていただくことです。価格設定、品ぞろえ、地域のニーズをこれまで以上に売り場に反映させるといったことが、今後の成功のカギを握っています。また、店舗の改装を加速させることもお客様の支持獲得につながると考えています。』

 その前提として、西友ではこれまでEDLP(毎日低価格)を推し進める中で、「みなさまのお墨付き」などユニークなプライベート・ブランド(PB)商品や、利便性の高い好立地の店舗、そしてお客様のために尽くすアソシエイトの接客などが高い評価を受けてきたと振り返る。

 確かにPBでは一定の評価を得てきたことも事実だが、最大の強みであるEDLPでは、3カ月以上値上げをせずに低価格に固定する「プライスロック」、他店のチラシ価格と同額保証する手法や、「KY(カカクヤスク)」のCMキャンペーンなどで安さを訴求してきた。

 しかし、オーケーやトライアルといったディスカウントストア(DS)勢の後塵を拝しており、必ずしも同業他社との優位性を発揮できていないのが実情だ。EDLP実現のため、メーカー直取引も含めてさまざまな場面でウォルマート流を持ち込んだが、西友はウォルマートと異なり日本で絶対的な存在ではないこともあり、日本独自の商慣行にも阻まれて「ハイ&ロー」も常態化し激しい価格競争が行われている状況の中、思うような成果を上げていない。

 品揃えにおいてはこだわりを排除し、基本アイテム中心のベーシックな構成で徹底している。今後もこの方針を堅持していくものと思われ、改めてEDLPの役割が問われることになる。

 取り組みが遅れているのが地域対応だ。そのためには取引先開拓はもちろん、イオンのように組織改革も必要で、速度感も求められる。そもそも西友の顧客がどこまでそれを求めているかといった問題もある。

 店舗の改装は、経年劣化や変化するニーズへの対応に欠かせないものだが、西友では過去にも改装を進めてきたが、その効果はいかほどであったか細かく明らかにしていない。一般的に、近年は改装効果が以前より落ちており、売上げを回復させて、再び上昇軌道に乗せるのは至難の業である。「ユニーからドンキ」といった劇的なものでない限り、改装が業績向上の切り札となるのは難しい。

 事業伸長は、依然として新規出店によるところが多く、成長に向けての明確な出店戦略を描けてない今の状況からすると、この点でも活路を見いだすことはできない。

②生鮮食品と惣菜へのさらなる注力

『お客様のスーパーマーケットに対するニーズが多様化し、競争が激しさを増す中、生鮮食品と惣菜は、お客様の来店動機となる重要な分野です。西友では、都市部において多くの店舗が駅から徒歩圏内という好立地を生かし、駅近の店舗を利用するお客様に特に需要の高い惣菜に注力します。』

 スーパーマーケット(SM)をSMたらしめているのは生鮮であるが、過去に西友はむしろグロサリーで安さを打ち出すことで集客を図ろうとしてきた。生鮮においても、ウォルマート化してから一貫して低価格路線で、品揃えも絞り込んで効率性を重視してきたが、近年は「鮮度強化」を掲げてさまざまな取り組みを行ってきた。

 今のところ劇的な変化が生じていないが、今後こうした施策がどこまで進んで効果を発揮するか見守りたい。その一方で、惣菜は現状ではニーズをつかみ切れておらず、提案力も不十分で高い需要に対して十分に応えられていないのが現状だ。同業他社の先進企業と比較してもそのレベルは高いとはいえない。

 こうした状況から、逆にドラスティックな改革を行えば売上げを伸長させることは可能で、並行してオペレーションの改善も進めば収益性の向上も見込める。いずれにしても抜本的な見直しが必要である。

 都市部のおける駅前の好立地は西友の強みである。駅前で便利だから西友を利用するのではなく、西友に欲しいものがあるから行くに変えることができるか、惣菜と生鮮の強化は急務の課題である。

③オムニチャネル戦略の加速

『2018年1月にウォルマート・インクと楽天株式会社は戦略的提携を締結しました。同年10月には「楽天西友ネットスーパー」をグランドオープンし、売り上げも順調に推移しています。また、楽天市場に出店した「西友楽天市場店」もお客様からの高い支持をいただいています。このような施策により、西友は、さらにオムニチャネルの強化を図っていきます。』

 西友のネットスーパーの歴史は古く、黒字化したと宣言したこともあったが、店舗出荷では店売りと経費をどう分担するかの問題もあり、損益分岐点は明確でなくその信憑性も盤石とはいえない。楽天と組むことで事業スキームを変え、これを契機に飛躍しようとしている。出足は利用者が増えるなど順調だが、真価が問われるのはこれからだ。

 鍵を握るのが物流だ。現在、西友は120余りの店舗を拠点にサービスを展開しているが、千葉県柏市にネットスーパー専用配送センター、都内数カ所に配送拠点も設けた。これに先立ち、16年にはネットスーパー専用のフロアのある「豊玉南店」(東京都練馬区)を出店した。今後も事業の拡大に応じて、専用センターの新設も視野に入れている。

 19年から20年に黒字化を目指しており、ネットスーパーで一番問題とされている収益面を克服できるかで今後の事業展開が左右されるだろう。

 そして、米国と比較して低いネットスーパーのポジショニングがどこまでアップするか、生活者の意識や行動も大きく影響する。ネットスーパーの前にバラ色の世界が広がっているわけではなく、次代の成長エンジンとしての役割を担えるかは不明確である。

④EDLP(エブリデー・ロー・プライス=毎日低価格)のさらなる推進

『EDLP(毎日低価格)を実現するには、EDLC(毎日ローコスト)が必要不可欠です。西友は引き続き徹底した業務の効率化とテクノロジーの導入により、西友の強みである低価格にさらに投資していきます。』

 EDLPの実現にはEDLCは必要不可欠の絶対条件だ。販管費率はそのバロメータだが、西友のそれは明らかになっていない。ウォルマートのEDLCの手法は高く評価されているが、それが西友に移植されどのような効果を上げているかは不明である。

 EDLCは収益力を高める源泉でもあるが、西友の親会社のウォルマート・ジャパン・ホールディングスの18年12月期の当期純利益は、6600万円の赤字であることから推測しても、十分な成果を上げているとはいえない。

 EDLPはEDLCありきである。過去に情報システムで巨額な投資をするなどしてきたが、目に見える成果はなかった。この轍を踏むことなく、EDLCのために効率を上げて有効な手を打てるか、その道のりは決して平たんではない。