東日本旅客鉄道 執行役員 事業創造本部副本部長/JR東日本リテールネット取締役 表輝幸氏

 2019年、民営化から33年目を迎える東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)。民営化後収益を底上げしてきた生活サービス部門は、同社の連結収益(約3兆円)の約3割を占める。

 人口減少時代も成長を続けるために同社が掲げた次の10年のビジョン(NEXT10)について、従前の売上げ5倍を達成した東京駅のグランスタをはじめ、数々の改革プロジェクトを成功させてきた同社執行役員 事業創造本部副本部長/JR東日本リテールネット取締役の表輝幸氏が『商業界オンライン』主催の「リテール・マネジメント・フォーラム」で語った。

 NEXT10の4本柱は「みがく(既存事業のレベルアップ)」「ひらく(駅を中心とした街づくり)」「つなぐ(地域活性化・交流促進)」「のびる(事業創造・オープンイノベーション)」。本稿では「みがく」の中から、小売業の既存店の底上げのヒントともなる表氏の既存事業改革の視点と実際の施策をお届けする。

※本記事は、2019年4月23日(火)に開催された『商業界オンライン』主催「リテール・マネジメント・フォーラム」における表氏の講演内容を抜粋してまとめたものです。

低迷原因を外部環境に求める企業は伸びない

 私は生活サービス関連の企業を分析し、既存事業を伸ばしている会社と低迷している企業の共通項を洗い出しました。

 既存事業を伸ばしている企業の大きな特長を3つ挙げると、1つ目は、徹底した顧客志向と変革の挑戦をしているということ。2つ目は増収増益が当たり前という風土があること。3つ目が業績低迷の原因を常に内部に求めているということでした。逆に低迷している企業は、天候、競合、乗降客数、イベント開催状況など外部に理由を求めます。そして、マーケティングの収益向上施策の議論が乏しいという特徴がありました。

 この点について、私が2000年にJR東日本グループの駅弁事業を担う会社の社長に就任し、その再建に挑んだ際の話をします。

 1999年当時、駅弁の売上げは46億円。90億円あった93年から毎年1~2割減という状況でした。その原因を外部に求めるとすれば、新幹線など列車のスピードアップで駅弁を食べられる時間が減った。ボックスシートからロングシートへの移行が進み、駅弁を食べる環境が減った。駅弁以外の選択肢が増えたといったさまざまなことが出てくるでしょう。

 しかし、私は売上げ減少の根本的な原因は、駅弁がおいしくない割に高いのではないか。そして、種類が少ない、という駅弁自体に問題があるのではないかと考えました。外部に責任を求めたらそれ以上、何も改革できないからです。

 そこで最初に着手したのが徹底した味の改善です。そして価格への挑戦も行いました。例えば、朝の時間限定 450円で販売したのが「朝幕」という小さいサイズの幕の内弁当です。駅弁コーナーに置いた当初こそ、売れ行きがよくなかったのですが、朝食目当てのお客さまが多いサンドイッチコーナーに置くと、一気に売上げが3倍になりました。

 そして、1日100個売れればヒットといわれる駅弁業界で、1日300個売れるヒット商品となったのです。その他、酒のつまみとしてハーフサイズの「さば棒鮨」、子供向けのキャラクター弁当など、さまざまな商品開発を行いました。

「透明のふた」の駅弁の失敗から学んだこと

 そうした中で、失敗した施策を紹介します。「弁当のふたを透明にする」というものです。「駅弁の中身が見える方がいい」というお客さまの声を受けて、透明のふたの駅弁を販売したところ、ほとんど売れなくなってしまったのです。隣に置いてある中身が見えない通常の駅弁と10倍くらい売れ行きに差がつくのです。

 このことから学んだのは、お客さまは駅弁に対して単に「安くておいしいこと」だけを求めているわけではないということです。つまり、駅弁には駅弁でしか味わえない価値を求めているということです。それは、「食べる前、食べているとき、食べた後」の3つの楽しみです。

 まず、食べる前。自分が楽しんで選んだ弁当のふたを開けた瞬間、「わぁ おいしそう!」という感動が味わえるかどうか。そして、食べているときはその地域の味をかみしめる楽しみ、そして食べ終わった後も、思い出として残るかどうかという楽しみです。実際、駅弁の掛け紙を集めてらっしゃる方も多いです。中身が見える透明のふたは、確かに機能的だけどもこうした楽しみが味わえないので支持されなかったというわけです。

 そこで、私は定番駅弁の価格を値下げする一方、こうした駅弁の楽しみを味わえる高付加価値の駅弁を作ることにしました。まず「大人の休日弁當」です。JRの「大人の休日倶楽部」を利用するようなシルバー世代の方々をターゲットに30種類もの季節の厳選食材を使い、旬のおいしいおかずが少量ずついろいろ楽しめるお弁当です。2200円という価格ですが、ピーク時は1日800個売れるヒット商品となりました。

 また、地方の人向けに開発したのが、東京駅だけで売っている「東京弁当」(1600円)です。魚久や浅草今半など、東京にある老舗料理店のおいしい食材を一堂に集めたもので、今も東京駅で最も売れている弁当となっています。

倍の値段でも2時間で完売、駅弁は世界に誇れる文化に

 最も高付加価値に挑戦したのが「極附弁當」です。料亭伝統の技に加え、日本全国の旬素材など中身はもちろん、歌舞伎浮世絵版画掛け紙を使用し、さらに列車座席までお届けするサービスもつけて、3800円という価格にしました。日本一おいしいお米として有名な生産者のお米の調達量の制約から、30食限定としました。

 これが、毎日売り出して10分もしないうちに完売するほどの人気になりました。それと同時に2000円台など、高価格帯の弁当の売上げが約3倍になるという効果をもたらしました。結果、2004年には売上げが約70億円と右肩上がりに回復していきました。

 そして今、駅弁は世界に誇れる食文化になっています。2015年、16年、18年とパリのリヨン駅で販売したところ、大変な人気で期間中は毎日完売しました。18年にはロンドン駅でも販売し、予定数量を2時間で完売しました。どちらも販売価格は日本のほぼ倍です。

 こうした文化価値を、今後もっと追求していかないといけないと考えています。逆に、単なる機能価値だけで値段を決めても、そこで利益は上げられないだろうというのが実感です。

競争相手はお客さまの「心の中」、だから進化できる

講演の様子

 既存事業のレベルアップという観点から、ルミネがなぜ20年間、増収増益の成長トレンドを維持できているかについても触れたいと思います。

 ルミネは既存店を改装したものも多くあります。例えば、ルミネ有楽町はもともと西武百貨店。そのときと比べて売上げは約1.7倍を達成しています。その源泉となる強みは、約3万5000人のショップスタッフへ「お客さまの思いの先をよみ、期待の先をみたす」という理念が浸透していることだと思います。

 その基本となる考え方は、競争相手は同業種や同業他社ではなく、お客さまの心の中にある期待だということです。お客さまの心の中と競争しながら、エキサイティングでエクセレントなモノ・コト・ライフバリューの提供を目指し、「変革のないところに進化はない」という考えが根底にあるから、売上げを伸ばし続けているのだと思います。