ワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)のある呉服店からの、歴史と絆、商いの本質を感じさせるご報告。

 この呉服店は店売り100%、外商はしない方針で、月に1回のイベントを核にして売上げを組み立てる商いをしている。そのイベントも、広く集客はせず、長年に渡って絆を育んできた顧客を中心にお声掛けし、来場記念品やプレゼントを使った動員は一切行わない主義で通してきた。

 そんな中、毎年大きな売上げを作る月が近づいてきた。今年は何をやろうかと考えていたところ、ふと、先代である今は亡き父を思った。生きていれば、ちょうど今年のその月で90歳。卒寿の年だ。この機会に、染色研究家でもあった父の功績をお客さんにも知ってもらい、普段、全く記念品やプレゼントをしない代わりに、長年お店をかわいがってくれているお客さんに何かできたらと。

 古い染織品のコレクターでもあった先代のコレクションは2万点にも及び、今でも整理が続けられている。その中でかつて彼に譲られたものの1つが夜具の生地だった。しかし当時の彼はどうしていいものか分からず、そのまま段ボール箱に詰め、しまったままになっていた。

「そうだ、あの生地を額装して、お客さんにプレゼントしよう!」。そう思った彼は、今回のイベントを、父のコレクションになぞらえ、自分のコレクション展としようと考えた。彼自身も相当な着物マニア。産地や作家さんをまわったときに、お店で売る自信はないがとにかく惚れ込んで、私費で買い集めた着物も相当数ある。父の偉業と自分のコレクションを重ね合わせ、記念のイベントとすることにしたのだった。

 そうしてこの額とイベントの案内状を送る特別な顧客をリストアップ。あくまでも長年お世話になった方へ送る記念品なので、イベント会場での引き渡しでなく、ご案内と共に先に送った。すると、それらがお客さんの手元に届くや否やお礼とイベント参加予約の電話が次々と入り、イベントの8日間は大盛況。売上げの方も、この8日間で、何と普段の年商の4分の1を売り上げる結果となったのだった。

 長年、良い商売を続けているお店や会社には、良い顧客がついていることが多い。商いが長続きするかどうかは、目先の売上げを効率よく作ることではなく、長くお付き合いできる顧客をいかに多く持ち、長く愛されるかにかかっている。そんな豊かな土壌に、時にこのような大輪の花が咲く。そしてまた、その土壌は次代へと引き継がれていく。今、呉服業界は決して明るくない。それでもこの店の土壌は引き継がれていくだろう。それこそが“商い”というものなのである。

※小阪裕司先生の連載最新回は、毎週金曜日の午前5時に公開します。「これまで公開した記事」と併せてお読みください