ある居酒屋で、鈴木君と木村君がある企業の研修企画を考えています。マーケティングがテーマで、お客さまの研究を受講者にしてもらおうとする内容です。つまみを頼むのも忘れて、話し合っています。

ショウガ焼き用豚肉スライスの量はどう決める?

木村「先日、スーパーマーケットのバイヤー研修を行ったとき、バイヤーのお客さまへの気配りがいろいろ聞けて、面白かったよ」

鈴木「へえ、どんな研修をしたの?」

木村「売場でのお客さまの行動、声情報を集め、そこから提供価値を設計して……」

鈴木「もう、木村君は言葉が難しいんだから、もっと簡単に言ってよ」

木村「平たく言えば、お客さまの行動を観察、声をつぶさに聴いて、お客さまが言葉にできていない要望を想定して、売場、商品を変更する案を立案する研修だよ」

鈴木「もう少し、具体的に教えて!」

木村「お客さまは売場で、いろんな不思議な行動をとるでしょ? 例えば、売場の前には立つけど、商品には触らないとか。商品をひっくり返して見るとか」

鈴木「うん、お客さまというのは、ほんと、変な行動を取るときがある」

木村「そう、その変な行動を分析することで、売場・商品改善案を考えるんだ。この研修時も面白いことに気が付いたバイヤーがいたよ」

鈴木「木村君が面白いと自慢するくらいだから、相当愉快なことにバイヤーは気が付いたんでしょう?」

木村「精肉のバイヤーが自社の精肉売場でお客さまを観察していたら、不思議な行動に気が付いた。お客さまがショウガ焼き用豚肉スライスのパックをひっくり返して、裏から中身を見ている」

鈴木「その商品のトレイは透明だったの? だとしたら、そのお客さまはスライスの枚数を数えているぞ!」

木村「当たり、スライスの枚数を数えていた。実はこの企業ではショウガ焼き用豚肉スライスをグラム売りしていたんだ。大きいアイテムは700グラム入り、中アイテムは400グラム入り、小アイテムは200グラム入りとね」

鈴木「それじゃあ、お客さまは裏から見て、枚数を数えるはずだ、お客さまは豚肉のショウガ焼きを自分の家族の数に応じてほしいはずだ。3人家族なら、1人2枚で6枚とね」

木村「このバイヤーはまずいと思い、ライバルのスーパーマーケットに見にいった。そしたら、ライバルは枚数でアイテムを作っていた。小アイテムは4枚、中アイテムは8枚という具合」

鈴木「あちゃあ、ライバルは既にやっていた。困ったもんだ」

木村「でも、このバイヤー、転んでもただでは起きない。もう1つ、気が付いた」

鈴木「どんなこと?」

木村「お肉の売場を引き続き見ていたら、老夫婦がやってきた。そして、牛肉の大パックを見ながら、『こういう売り方されるとつい買っちゃうんだ』と言い、牛の大パックをカゴに入れたそうだ」

鈴木「老夫婦であれば、小食だから、小パックがちょうどよいという思い込みを排除してくれたわけだ。お肉は買うとほとんど人が冷凍するから、必ずしも老夫婦=小パックとは限らないんだね」

行動観察で「定貫売り」の常識を排除できた

 このスーパーマーケットでは、豚肉ショウガ焼き用パックのアイテムを重量で区分しています。小パックは300グラム、中パックは500グラム、大パックは700グラムといった具合です。

 しかし、この主婦はパックの中に豚肉スライスが何枚入っているか確かめているのです。主婦が自分の家族の人数を考え、豚肉スライスが何枚必要か考えるのは当たり前のことです。

 ところが、精肉売場では定貫売りが常識になっています。豚肉ショウガ焼き用のパック詰めも300グラムちょうどに合わせるため、盛り付け時、量りで計量しながら行っています。時には重量を300グラムちょうどに合わせるため、ショウガ焼き用豚肉を半分に切って商品を作っていたのではないでしょうか? そうした商品にあたった経験のあるお客さまはだまされたと思い、豚肉の枚数確認を始めたのです。

 このバイヤーは豚肉ショウガ焼き用パックのアイテムづくりをグラム売り表示から、枚数表示に変えたそうです。小パックは4枚入り、中パックは6枚入り、大パックは10枚入りといったものです。お客さまの買物行動を観察することで、『アイテムづくりは定貫売り』という思い込みを排除することができたのでした。