まつざき さとる 1954年3月10日千葉県夷隅郡岬町(現いすみ市)生まれ。78年中央大学法学部卒業後、西友ストアー(現西友)入社、2003年同社ファイナンスアジア事業部シニアダイレクター部長。05年良品計画に入社、海外事業部アジア地域担当部長、08年執行役員海外事業部中国担当部長、11年取締役兼執行役員海外事業部長。常務取締役、専務取締役を経て、15年5月社長兼執行役員に就任。趣味はウオーキングと読書 〔Photo〕杉田容子(右)/無印良品は「あなたは自分の生活をどうつくり上げていくのか」と問うている(左、参考写真)。

「消費社会へのアンチテーゼ」としてスタートした無印良品。この世界的なブランドはこれまでさまざまな「進化」を遂げてきた。単品ブランドから総合的なライフスタイルブランドに発展。また華美を嫌ってシンプルな生活を目指し、合理性や素材にこだわってきた。成長の過程では経営手法も進化してきた。無印良品を展開する良品計画の松﨑曉社長に最新の経営戦略と「進化」について聞いた。

――2019年2月期は9期ぶりの減益に陥った。国内の既存店売上高は4月に前年比0.5%減となり、25カ月連続で伸びていた記録もストップした。これは何かのシグナルなのか。

 松﨑:減益になった最大の理由は人件費の増加と北米事業の赤字拡大です。人件費の増加は店舗で必要な人員を確保しようと17年下期から意志を持って取り組んできた結果です。

 米国では人が育っていない状況下で出店を加速し過ぎました。まずは赤字を止めるために出店を凍結し、再び成長軌道に乗せたいと思います。

 既存店売上高は4月も引き続き堅調に客数は増えています。月末4日間の気温が低下し、衣服が止まったという一時的な問題だと思います。

 従って、これらの要因は構造的な問題ではないと考えています。

――今年2月に営業本部を新設し、ユニクロの元幹部の堂前宜夫さんを本部長に据えた。

 松﨑:営業本部を設けた最大の理由は組織として人を育成することです。当社は今後、本部の指示やマニュアルに基づいて店舗営業をするのではなく、店長が自ら考えて営業施策を実行していく「個店経営」に転換していきたいと考えています。長期的なタームで店舗の店長の意思をより反映した個店経営にしていきたい。そのためには人材の育成が必要です。

 現在は本部から店にデータが送られて、その販売データなどを基に店では毎日朝礼をします。週次でも毎週月曜日の営業会議を受けて多くの指示が出ています。それをまずは8割削減しようと。そして最低限の指示事項の下で、店長が自分で考えて店舗を経営していく体制にしたいと考えています。

 この人材を育成するためには堂前さんが持っているリーダーシップや知見が非常に大事であり、生きてくると考えています。

生活雑貨は「生活の基本商品」を強化する

――商品政策について。衣服・雑貨が好調で、食品は絶好調です。それと比べると生活雑貨はやや見劣りする。

 松﨑:春夏、秋冬の半期ごとにシーズンサイクルがある衣服・雑貨や食品とは違って、生活雑貨は商品のライフスタイルが長いので時間をかけて商品の改廃を進めていきます。

 生活の基本となる日常的に使う商品を「生活の基本商品」と呼んでいます。この商品づくりにまず靴下から取り組みましたが、生活雑貨についても昨年下期から開始しました。これが生活雑貨の復権につながると考えています。

 今、タオルや寝装ファブリックなどについて生活の基本商品を強化しています。ただ19年の商品企画は既に終わっていますので、今年は生活雑貨の価格を総点検したいと思います。

 毎年、定性的な顧客調査をしていますが「衣服・雑貨や食品と比べて生活雑貨は価格が高い」というご意見を多く頂いています。特に今年はファブリックとハウスウエアについて価格見直しを積極的に実施し、これによってお客さまが抱く「印象価格」を下げて、売上げを上げていきたいと思います。

 商品開発については来下期から新たな大型商品を含めて、銀座のMUJIホテルで使っているバスマットやアメニティ、ファブリック類、ソファベッドなどをマーケットに出していきます。

――価格見直しの規模はどれくらい。

 松﨑:何アイテムとは言えませんが、価格見直しの主役はファブリックとハウスウエアで、価格見直しをするアイテムの8割を占めます。

SM隣接型出店は「日本中にチャンスがある」

――店舗展開政策について。500坪クラスの大型店を100店体制に拡大するという目標を掲げている。

 松﨑:当初の予定は21年2月期でしたが、22年8月期には達成できると思います。ただ、今期末までに500坪の大型店は合計48店に広がります。今後は500坪クラス店を標準店にしていきたいと考えています。

 今期は大型店が上期に集中し、3月は錦糸町パルコ(東京)、エルミこうのす(埼玉県)、4月も銀座(東京)、浜松遠鉄百貨店(静岡県)などを開店しましたが、非常にスタートがいいので大いに期待しています。

――生活の基本商品にこだわり、購入頻度の高い食品も拡大してきた。4月に開店した「無印良品 野々市明倫通り」(石川県)のようにロードサイド立地にも出店する。すると「小商圏化」というキーワードが浮かんでくる。今後は大型店と小型店、小商圏に向けた店舗など多様なタイプの店を展開していくのか。

 松﨑:無印良品のアイテム数が7000を超え、生活の基本商品が多くなってくると来店頻度が高まります。現在の250坪を標準店にしていると、衣服・雑貨は十分なプレゼンができない。昨年9月に発売した冷凍食品や要冷商品など商品群を拡大すると坪数が必要になってきます。このため店舗を大型化しているのです。

 一方、初のロードサイド店となった野々市の店は売れ行きも客数もすごい。買上客数も都心店に比べて全く遜色がない。私はロードサイドへの出店は小商圏への対応だとは考えていません。商圏の大小でなく、スーパーマーケットと一緒に出店することで日常頻度が高いものを買ってくれるのです。

 例えば、イオンモール堺北花田(大阪府)の店は開業時の食品の売上構成比は13~15%でした。野々市の店は16~18%。開店から5月7日までが16.8%、4月は18%近い。全社の食品の構成比は前期は約7%です。これが今後、当社が地方で取るべき出店パターンではないかと考え、全国に広げていきたいと考えています。

 駅ビルなどに出店する小型店業態の「MUJI com」もあり、これも大切です。今後はより生活に密着したオケージョンやロケーションに店を出します。野々市の店の動向を見て「これは日本中に大きなチャンスがあるな」と感じました。

――小商圏型のフォーマットを開発して中小都市に出店する考えは。

 松﨑:あります。今までは東京、大阪、福岡といった都心に出店していましたが、日常頻度が高く、買い回り性が高い商品を作ることによって、地方都市でも客数が多い場所を選べば十分出店余地があると考えています。

中国・昆明に旗艦店 ムンバイにインド最大店

――海外事業について聞きたい。中国で昨年秋に商品開発部を新設した。

 松﨑:中国ではベッド台、シーツ、枕など現地の生活習慣に合わないサイズがあり、それらのサイズ感を直していくために設けました。今春夏から新サイズ商品を発売します。これによって従来3%前後だった家具の構成比を10%ぐらいまで引き上げたい。

――中国でも価格を見直している。

 松﨑:今後も価格見直しは継続的に進めます。今までは産地の移管や取引先の集約によって原資が出てきた商品について値下げしてきました。今後は中国でもお客さまの印象価格などを考えて価格を見直したいと思います。

 実は今、世界中で、中国では今年から本格的にメンバー限定のセール「良品週間」を実施しようと考えています。つまり、これを一定期間実施することによって多くの商品がセール対象になるので、その買上動向を見て、マーケットに合っていない商品の価格をアジャスト(調整)しようというのです。

――中国では14年12月に開業した成都と15年12月の上海の世界旗艦店に次ぐ旗艦店を、昨年12月に南京、今年1月には杭州と3年ぶりに開いた。

 松﨑:今後は世界旗艦店と同じような面積の店を中国の主要都市に出店していきます。今年秋には昆明に3000㎡クラスの旗艦店を開業する予定です。中国はまだ2桁の成長ができると思いますので、引き続き、年間30店の新規出店と20店のフル改装を進めたいと考えています。

――インド市場には16年8月に進出し、現在4店を展開している。昨年8月にはインド事業部を新設した。

 松﨑:進出したのは16年ですが、インドが本格的に「次の中国」になり得るのは統計などから考えると25年以降です。インドの中間層は他国と比べると非常に少ない。中間層が伸びてくる25年以降に向けて、今はインドで開発した商品を増やすことによって関税で高くなりがちな販売価格をより適価にしていきたいと思います。

 今年はインドのために開発した250アイテムの商品をマーケットに出していきます。そして、これまでで最大の1300㎡の店を来年ムンバイにオープンします。ここで従業員にオペレーションを習熟させます。

 中国と同様にインドでも現地向けの商品開発をしていますが、その規模をより拡大してASEAN(東南アジア諸国連合)近辺の国にも提供できるようにしたい。そして25年にいよいよ「次の中国」の時代を迎えたい。そういう長期ビジョンで取り組んでいます。

――ベトナムへの進出は。

 松﨑:20年に1号店をオープンする予定で進めています。

「基本」は変わる 原点は常に追い続ける

――無印良品はこれまでさまざまな形で「進化」してきた。最近は「役に立つ」とか「地域と関わる」とか「社会を良くする」と言い始め、変わらないはずの理念そのものが当初想定したものよりも深まり、「深化」しているように感じる。無印良品の理念と進化をどう考えている。

 松﨑:われわれは生活の基本領域において商品やサービスを提供しています。ただし、その「基本」が変わってきていて、アジャストする必要がある。

 一方で、アドバイザリーボードの小池一子さんが「くりかえし原点、くりかえし未来。」と表現したように、原点は常に追い続けていないとブランドが変節してしまう。無印良品とは何か、今の社会で無印良品が求められていることは何かを追求していくことがわれわれの使命であり、役割です。

 セゾングループの総帥だった堤清二さんが「無印良品は何のために作られたのか。それは生活者の自由を確保するためだ」と言ったそうです。束縛から解放するというところに無印良品の使用価値があると。

 突き詰めれば「自分はどう生きるか」ということを無印良品は問うているのです。「無印良品を使ってあなたは自分の生活をどうつくり上げていくのか」と。当社はそういう商品やサービスを提供している会社なのだと自覚しなければなりません。

 

 
 

※本記事は『販売革新』2019年6月号の「無印良品の『進化』」という特集の中で掲載されたものです。内容は取材当時のものです。

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