強みを生かし、他のアジアの国にも進出を考えている

「私たちの強みは工具を世界中から調達できるネットワークがあること。日本にはモノがあふれていますが、ファクトリーギアには世界の工具に通じたプロがたくさんいるので、どの道具をどの作業、どんな場面で使えばいいのかを的確にアドバイスできる。効率を上げ、収益を押し上げる工具を選んで提供できるんです」

「FACTORY GEAR」が開発を手掛ける「DEEN」の「フレア&クイックレンチ」はタイでも売れ筋の1つ。

 タイのFC店のスタッフは、日本の店に派遣し、2カ月ほど研修して知識や接客技術を学んでいるが、さらに研さんを積んで工具のコンシェルジュ役をこなせる従業員が育てば、タイでもBtoBの売上げを切り開くことができるはずだ。

 将来的には、日本人が店に立つ直営店の構想もある。タイには、自動車をはじめ、日系製造業の工場が集結している。現地で働き、工具の購買に関して裁量を持つ日本人も少なくない。だが、既に閉めてしまったアマタ店の例からも分かるようにタイ人従業員しかいないFC店では、日本人のニーズを取り込むことは難しい。日本人相手には日本語での対応が不可欠だからだ。

「タイだけではない。他のアジアの店への進出も考えたいですね。タイ以外の国からのオファーも寄せられていますから。ただし、今は5月に台湾にオープンした直営店で、海外で店を運営するノウハウを蓄積するのが先決です。台湾とは既に20年以上取引を行っているので台湾でのビジネスについてはよく知っているつもりでしたが、建築の打ち合わせから会計のシステムまで戸惑うことばかり。日本とは要領が全く違う。台湾でこうですから、タイをはじめ、他の国ではもっと大変でしょう」

 状況を見ながら慎重に歩を進め、それでいて必要なときには一気に動く髙野倉氏の経営センスは、これまでの歩みからも明らかだ。

世の中の流れにあえて逆行することで得たもの

 ファクトリーギアの前身は、髙野倉氏の実家である工場用品販売店。周辺の工場から注文が入ると工場で使う消耗品などを届けるほそぼそとしたスタイルにメスを入れ、髙野倉氏は世界のブランド工具をそろえた工具専門店へと業態を刷新。1996年にファクトリーギアを始動した。

 なぜファクトリーギアが唯一無二の業態なのかといえば、商売の仕組み自体が全て世の中の流れに逆行しているからだ。

「幅広いラインアップをそろえ、在庫を持ち、豊富な知識をそろえたスタッフを置く属人的なビジネスに踏み切ろうとするところなどありません(笑)。工具業界は保守的ですからね。ファクトリーギアで販売しているのは、ホームセンターにはない工具ばかり。ネットには多少、こうした工具を扱うショップもありますが、実店舗を構えてこれだけの品揃えと専門のスタッフをそろえるのはハードルが高過ぎる。もうからないので誰もやりたがらなかったんですよ」

 誰もやりたがらないビジネスにあえて挑戦したのは、髙野倉氏が若かったからという理由ではもちろんない。そこには勝算があり、勝算を支える努力が積み重ねられている。髙野倉氏は、車やバイクを整備する人が憧れてやまないブランド工具を輸入し、ブランド側との信頼関係を深めてきた。現在、ファクトリーギアは米国やドイツ、スイス、フランス、日本など世界の多くのブランド工具で日本一のディーラーだ。

日本で人気の「DEEN」ブランドの工具セットはタイでもやはりよく売れている。

 さらに、自社ブランド「DEEN TOOLS」で収益を確保しつつ、ディーラーとしての実績も重ね、輸入商品を安く仕入れることにも成功している。

 加えて、ツールジャーナリストとしての髙野倉氏の地道な啓蒙活動もファクトリーギアの人気と業績を押し上げた。「ガレージライフ」のような専門誌に連載を持ち、その他、テレビやラジオなど複数のメディアを通して、現在進行系で一級品の工具の魅力を今も多くの人に伝えている。 

YouTube公式チャンネル「高野倉匡人のファクトリーギアTV」。毎回、高野倉氏が工具愛を熱く語り、ファンが急増中。

 髙野倉氏がとっておきの工具情報を紹介するYouTubeの公式チャンネル「ファクトリーギアTV」の登録会員数は既に1万7000人を超えた。二重三重の取り組みがファクトリーギアの独自性を際立たせ、ビジネスとしての確実性も担保している。

「次の10年。私たちは完全にアジアを向いてやりますよ。国境を超えてアジアのために何ができるかに挑戦したい。そのためにも今の動きが鍵ですね。20年後の目標は、売上げの80%を海外マーケットで上げる会社。そうでなければ生き残れません」と髙野倉氏。前例にとらわれず、挑戦を恐れず、数字にも敏感な髙野倉氏が率いるファクトリーギアが、工具を愛するアジアの人々を魅了する未来は夢ではない。