日本の訪日外国人旅行者数は2018年に3111万人を突破し、東京オリンピック・パラリンピックが開催される20年には4000万人を超えると想定されており、右肩上がりに増え続けている。訪日外国人の旅行消費額は18年が4兆5189億円で、20年は8兆円を目標としているが、これを達成するにはこれまで以上に日本で消費をしてもらわない限り、厳しい数値といえる。

 そのためには、訪日外国人が思わず消費をしたくなるような「魅力的な何か」が必要だが、受け入れ態勢を含め、日本のインバウンド対応は遅れている。

 そんな中、札幌市は17年より地元の中小企業に対して、外国人観光客向けの商品支援を行い、地方からインバウンド消費を盛り上げようとする取り組みを行っている。

 6月19日(水)、『インバウンド需要をつかむ!お土産開発』をテーマに、札幌市が行っている取り組みと、現在のインバウンドの状況を解説するセミナーが、北洋大通りセンターで開催された。このセミナーから日本のインバウンド消費を改めて考えてみた。

魅力あるお土産をつくるために必要な工夫とは

ジャパンショッピングツーリズム協会 事務局次長 吉川廣司氏

 セミナーはショッピングを基軸とした訪日観光のプロモーション事業を行っている、ジャパンショッピングツーリズム協会 事務局次長の吉川廣司氏による講演から始まった。内容は今後の日本にインバウンドが必要になってくる理由と、訪日外国人の購買行動についてだ。

なぜ日本にインバウンドが必要なのか

 日本の人口は10年の1億2750万人から年々減少。25年には1億1662万人となり、1000万人以上の人口減が予測される。これを消費額に換算すると、年間で約12兆5000万が減る計算となる。

 その一方で訪日外国人の数は右肩上がりに伸長を続けており、25年には約5000万人と予測され、10年と比べ4139万人増加となる。目標とする消費額(訪日客1人当たり25万円)でみると約12兆4000億円増となり、インバウンド消費で日本の人口減分の消費額をほぼ賄えるのだ。

 このことから吉川氏は「インバウンドとは海外からの純粋な投資で、これをどう獲得していくかがインバウンドの目的となります。これからは訪日外国人に向けた環境の整備が必要となってきます」と語った。

地域でのインバウンドを活性化させるには

 現在、訪日外国人は日本食を食べることや日本の文化を体験することを主な目的として来日している。そのため東京や京都といったメジャーな観光施設だけでなく、より深い文化や食を体験できる地方にも足を伸ばしている。

 地方では主要な観光地よりも商業施設が少なく、消費を十分に喚起できていない場合があり、20時を超えると営業していない店舗が多いため、ホテルや旅館でAmazonなどのネットショッピングをされてしまっている。ネットショッピングは各地域の消費には直結しないため、せっかく地方に訪れた訪日外国人の消費のチャンスを取り逃してしまっているわけだ。

 この問題の解決には、その地域でしか体験できないモノやコトを提供する必要がある。具体的にいえば、その地域の伝統工芸品やご当地食材、つまり「お土産」である。

 しかし、今、売られているお土産は訪日外国人の好みにあまりマッチしていない商品が多い。例えば、お菓子や日本酒などは包装が大きくかさばるため好まれない。茶碗などの食器類は使用シーンが想像できないため、購入にまで至らない。

 従って、訪日外国人が魅力を感じる商品を作り、加えて「商品の魅力をアピールする」「購入するハードルを下げる」「販売のハードルを下げる」3つの工夫が必要になる。

 この成功事例には有田焼のチェスの駒や、京指物のワインクーラーなどがある。これらは、伝統工芸品でありながら訪日外国人の生活シーンで活用できる設計がされており、「日本の理解」を目的に旅する成熟した訪日客との相性が良い。そして、消費額が全て地域に浸透するため、経済効果が高いといえる。

 日本で売れているお土産の多くは、訪日客が日本でこれを買うと決めてきたもの。今以上にインバウンド消費を拡大するためには、「その地域で『何を売るのがベストか』を考え、お土産の開発に新たな視点で知恵を絞り、本当に地域経済に貢献する消費、みんなが得するお土産を作るなど、魅力的な商品の開発を目指していく必要がある。各地でいろんな取り組みが始まっています。できることから始めましょう」と語り、吉川氏は講演を締めた。

デザインの基本とSNS映えの必要性

札幌市立大学 デザイン学部 矢久保空遥氏

 続いて、札幌市立大学 デザイン学部 矢久保空遥氏がデザインについての講演を行った。

 現在の日本人の購買行動では、SNSの口コミや写真などの情報を基に購買意欲を高めてから買うのが当たり前になっているが、この傾向は日本以上に訪日外国人の方が圧倒的に強い。そのため、その商品が「いかに目を引くようなデザインかどうか」が売れるための1つの理由となる。

 お土産品もデザインが非常に重要なのだが、そのポイントは商品を「誰が」「何に」「どうやって」使用するのかをイメージすることだという。これは商品化の際にしかできないため、十分に議論し、共通したコンセプトを共有することが必要。それがデザインの始まりとなる。

デザインの「3つのポイント」

 1つ目は形態。商品のロゴやトップ画像、背景画像などを形態要素、さし色やベースカラーを形態素といい、それぞれを組み合わせることで形態になる。

 2つ目は視点。例えば、プレゼンテーションの場合、会場の広さ、マイクの有無、講演テーマなどに応じた話し方をするだろう。デザインも同じで、それぞれの状況に応じたベストな形態を取らなくてはいけない。

 3つ目は秩序。ある一定の視点から見たときに秩序立って見えるかを考えて設計し、別の視点から見た乱雑さも減らしていくことが洗練されたデザインにつながる。

「つまりデザインとは、それぞれの視点に立ったときにどのような形態が最も秩序立っているかを考えることです」と矢久保氏は語った。

 これをお土産のデザインに応用することで魅力ある商品が出来上がるのではないか。

建設事業会社がお土産を開発した!

(株)アイ・ティ・エス 代表取締役副社長 下川紘資氏

 続いて、(株)アイ・ティ・エス代表取締役副社長の下川紘資氏が「観光商材開発支援事業」で開発した、北大ガゴメ昆布を使用したオーガニックキャンディーについて語った。

 ガゴメ昆布とは北海道では認知されているが、サイズが小さく、だしが取りにくいこともあり、元々は捨てられていたもの。それを北海道大学大学院水産化学研究院で養殖して「北大ガゴメ」という名で2017年にブランド化。北大ガゴメの養殖期間は6カ月(通常は18カ月)で、フコイダンという栄養素が天然ガゴメの2倍以上、真昆布の4倍以上含まれている。その効果はインフルエンザ予防や、整腸作用などだが、収穫量が少ないため、その加工品は少なかった。

 そこで、飴なら供給量が少なくても生産できるのではと考え、商品開発に取り掛かろうとした。しかし、同社はもともと建設のコンサルティングや建設情報サービスなどが主要事業のため、食品事業のノウハウ、販売先、商品開発実績もない中、自社単独で事業を行うのは不安があった。そんな時、札幌市の「観光商材開発支援事業」を紹介され、応募した。

「観光商材開発支援事業」の専門家との相談会、留学生との交流会でいろいろな意見を聞くことで、商品のイメージが固まり、19年1月に商品化までこぎつけることができた。ただ、そこで終わりではなく、東京ビッグサイトで行われた展示会にも参加でき、販路の開拓まで行えた。

 最後に下川氏は「この事業があったからこそ、商品化の前にさまざまな人に話を聞けました。そして、展示会や商談会の参加支援までしていただき、感謝しています。これからの販売を頑張っていきます」と語った。

お土産市場に一石を投じる札幌市

 

 セミナーの最後に、札幌市によるインバウンドと「観光商材開発支援事業」の説明があった。

 札幌市の訪日外国人客は12年が68万人、17年が257万人と、6年間で約6倍となり、大きな盛り上がりを見せている。そうした中、「観光商材開発支援事業」を17年より開始し、市内企業のさらなる販路拡大へ向けた動きを強めている。これは外国人観光客をターゲットに札幌の魅力を盛り込んだ新商品をつくるもので、補助金、商品開発、販路開拓までサポートするもの。昨年度は申請が13社あり、7社採択された。

 札幌市、北海道大学、札幌市立大学、北洋銀行が産学官金連携で専門サポートし、採択案件を一括支援していく構えだ。今後、札幌市の取り組みから全国に流通するヒット商品が生まれることもあるだろう。こうした行政を挙げてのインバウンド対応が、日本のお土産市場に一石を投じ、地域消費の新たな喚起になることは間違いない。今後も札幌市の動きに注目していきたい。