ヤマト運輸が口火を切った宅配料金の値上げラッシュに倉庫作業人件費の上昇も加わって物流コストが高騰し、ECはあっという間に儲からないビジネスに転落した感がある。もはや宅配便に依存しては収益が望めず、店舗小売業者が店舗を物流拠点とするC&Cに勝機を見いだす一方、ECプラットフォーマーは物流の抜本的再構築を迫られている。

ECは物流コストとC&Cに押しつぶされる

 17年10月にヤマト運輸が口火を切った宅配料金の値上げは11月に佐川急便、翌年4月に日本郵便が追従し、法人契約の改定も18年秋口までに一巡。これまで安価な大口法人向け包括料金に依存して急成長してきたECビジネスに冷水を浴びせた。

 個人や小口法人に対する宅配便の値上げ幅は15%程度だったが、これまでの値引き幅が大きかった大口法人向け包括料金は24〜46%も跳ね上がり、倉庫作業人件費の上昇や倉庫家賃の負担増も加わって物流コストが急騰。ECプラットフォーマーやEC物流サービス事業者は出品者からの手数料や業務委託費では逆ザヤになりかねない状況に追い込まれ、出品者に対する手数料の値上げや顧客に対する送料転嫁が玉突き式に広がった。

※詳しくは5月27日配信『小島健輔が指摘 ECが儲かる時代は終わった』を参照されたい

 このコスト転嫁が急成長を続けてきたECにブレーキをかけたのは間違いない。事実、19年に入って、顧客に送料転嫁したECプラットフォーマーの伸び率はジリジリと鈍化する傾向が見られる。

 さまざまな調査に共通するEC購入者の求める必須要件は、1)送料は無料2)速く届けて3)実物を試したい、の3点だが、一番必須条件の「送料は無料」を『タダで届くと思うんじゃねえよ!』と切り捨ててしまえばECの魅力は一気に削がれる。

 もとより、3)はZOZOSUITをはじめとするバーチャルな試みがことごとく挫折したようにITの手練手管を駆使しても店舗小売業のリアルに敵わず、2)も店舗小売業が注文者至近店舗の在庫を引き当てれば出荷拠点の限られるEC専業者が敵うわけがない。店舗小売業が店舗までB2B一括物流して店渡ししたり、店在庫を引き当ててローカル宅配便で店から出荷すれば、遠隔地からB2C宅配物流するEC事業者はコストでも速さでも利便でも店舗小売業に歯が立たない。

 これが店舗をオムニコマースの物流拠点とするC&C(クリック&コレクト)の脅威で、もとより宅配料金が法外に高かった欧米では急ピッチで進み、ウォルマートやターゲットがアマゾンを守勢に追いやる強烈な効果を発揮している。

露呈した宅配便の構造的欠陥

 わが国でも宅配料金の値上げが契機となってEC専業者と店舗小売業の攻守が逆転し始めたが、果たして宅配便の値上げは不可避だったのだろうか。

 値上げの理由としてトラック運転手や営業ドライバーの過重労働と採用逼迫による賃金上昇が挙げられていたが、それは現在の宅配物流システムを前提としたものであって、その非効率性が露呈したと見るべきだ。言い換えるなら、システムそのものを抜本から変えてしまえば値上げの必要はなかったのではないか。

 現在の宅配物流システムは、便利に見えても根底から矛盾を抱えている。それは以下の3点に尽きよう。

1)仕分け・積み替えが避けられないハブ&スポーク物流

 宅配便の物流体系は米FedExに発したとされる「Hub&Spoke」方式であり、ハブ間物流は大型機材に便数を絞って積載効率が高まるが仕分け・積み替えの煩雑な作業が避けられず、所要時間もコストも各地を直接に結ぶ「Point to Point」方式よりかさんでしまう。

 

 ヤマト運輸を例にとれば、全国7000余のセンター(集配拠点)から76のベースに毎夕、集荷して方面仕分けし、21時発でベース間を大型トラックが長距離移送する。早朝のベース到着から逆の順序で仕分けて積み替え、営業ドライバーが宅配に回るというデイサイクルだ。往復4回の仕分け・積み替え作業が必要になるから、どう見ても効率的とは言い難いが、元々が鉄道チッキに代わる全国ネットの個人間C2C小口物流から発展した経緯が背景にある。

 

 航空業界でも「Hub&Spoke」方式が主流だったのは70年代から20世紀末までで、ハブ空港間を大量輸送する超大型機がもてはやされたが、燃費や直陸料など経済性が追求されるようになった今世紀では経済効率が高く乗り換えなしで所要時間も短い「Point to Point」方式が主流となり、機材需要も燃費が良くてローカル空港でも離発着が容易な中小型機に移っていった。サウスウエスト航空など欧米のLCCは「乗り換えなしでスピーディー」をうたう「Point to Point」方式がほとんどだ(アジアのLCCは両方式併用が多い)。

 そんな物流トレンドを見ても、デフレ圧力が根強いわが国で非効率な「Hub&Spoke」方式宅配便が大幅値上げしてまで国民的インフラであり続けるか、疑問を抱かざるを得ない。

2)タイムラグが避けられないデイサイクルの全国区物流

 往復4回の仕分け・積み替え作業が必要な全国区「Hub&Spoke」物流では、当然ながら仕分け・積み替えに時間を要するし、夜間のハブ(ベース)間長距離移送を前提とするからデイサイクルとならざるを得ない。

 ヤマト運輸の場合、各ベース発が21時だから地域の集配センターへの搬入は18時が限界だろう。それ以降にEC受注しても翌日の扱いになるから、顧客に届くのは近距離でも翌々日になる。それを回避すべく近年は羽田クロノゲートなど高速バイパス・ゲートウエイを設けているが、3時間程度の受け入れ延長であってデイサイクルの枠を出るものではない。

 全国区「Hub&Spoke」物流ゆえのデイサイクルは衣料品や服飾品では致命傷とはならないが、野菜や鮮魚など生鮮食品では生産者出荷翌日の店頭陳列となり、鮮度維持のハイテクを駆使しても地産地消のローカル物流に敵うわけもない。ゆえにスーパーマーケット業界では全国チェーンよりローカルチェーンの方が圧倒的に強い。

 C&Cでは店舗までのB2B一括物流と店舗からのローカル宅配出荷が活用されるが、重装備な全国区宅配業者より軽装備なローカル運送業者の方が料金も安く、デイサイクルに縛られないから届くのも速い。宅配料金の値上げに圧迫されるアマゾンなどECプラットフォーマーがローカルの運送業者や個人運送業者を組織化しているのは当然の対応だ。

3)仕分け・積み込みの自動化が困難な非コンテナ物流

 宅配のトラックを見てもベースの仕分け作業を見ても宅配荷物の形状はあまりに多様で(寸法/重量の上限はある)、仕分けや積み込みの自動化には限界があり、ハイテクを駆使しても人海戦術と現場スキルへの依存は無くならないだろう。その根本的要因はコンテナ化されていないからだ。

 

 国際貨物は船便/航空便ともコンテナが定着しているし、国内輸送でもB2Bはオリコンやパレットなどかなりコンテナ化されているが、C2Cから発展した宅配便はコンテナ化されておらず、仕分けも積み込みも自動化し切れないため、どこかで人手とスキルを要する。ユニクロの有明倉庫(B2C宅配出荷)でも、規格化されたオリコンが自動化の大前提となっている。

 B2CのECは仕分けも積み込みも自動化すべきで、IT制御以前に宅配パッケージの物理的な規格化を徹底するのが先決だろう。