社内アワードによってモチベーションが向上する

「第3回一歩一歩アワード」の様子。この大会を目標に各店舗のチームが一丸となる。また、優秀な社員・アルバイトを表彰し、大谷氏が自分の言葉で対象者を褒めたたえる。

 一歩一歩では「第3回一歩一歩アワード」を5月12日(日)に開催した。会場となった北千住のホールには業者、地元のお客さまの他、関係者を含めて300人ほどが集まった。

 このプログラムの概要を述べると、北千住で展開する店の5店舗による「取り組み」の発表。業者の表彰、優秀アルバイト、優秀社員、優秀店長の表彰などだ。表彰については大谷氏が表彰する相手に対して、表彰理由を自分の言葉で述べる。相手はその言葉に感動して、時には泣く人もいる。

 大谷氏によると、アワードを開催する意義は2つあるという。

 1つは苦悩する店長を「解放する」という狙い。「店長は悩みます。アワードを目標とすることで、チームが一体となってほしい」

 もう1つは「授業参観」。「従業員の親御さんにとって、自分の子供が居酒屋で働いていることに心配されている方もいらっしゃるでしょう。それであれば、当社がどのような会社であるか、そして当社で働いていることで、お子さんがどのように成長しているかを見ていただこうということです」

 アワードが終了してから、親御さんと一緒に懇親会を楽しんでいる。昨年は「魚屋ツキアタリミギ」で開催したが、今年は180人の規模となったために、北千住で最も広いカラオケルームを会場に立食形式で行った。

「私たちや従業員よりも、お父さんお母さん方が率先してマイクを持っていました」

 とても和やかな光景が伝わってくるエピソードである。アワードは従業員のモチベーションを高めるという点でとても効果が高い。第1回、第2回は幹部社員が事務局となりプログラムの作成から運営を行ったが、第3回は人事部長をはじめ、裏方の女性3人がこれらを担当した。するとプログラムのつくり込みがこれまでにないほど趣向を凝らした感動的なアワードになった。

 第1回と第2回のアワードでは、社員もアルバイトもMVPを受賞する人については全従業員からの投票を行い、最終的には本部で議論を交わして決定していた。しかし、第3回は全従業員からの投票の後、全て事務局に決定権を与えた。今回選出されたMVP受賞者には、従業員が選んだ理由を書いた手紙を渡している。これは、日常的にも従業員同士による「褒める」環境が出来上がっていることの現れだ。

 第3回のアワードでは事務局を女性3人が担当したと前述したが、「何よりもこの3人のモチベーションが著しく向上した」(大谷氏)という。アワード終了後に、建設的な発言が多くなり、リーダーシップを発揮するようになったという。

 来年のアワードの事務局は、人事部長を含めてアワードを受賞した人たちに担当してもらおうと考えている。「これによって、アワードの内容ががらりと変わるものと期待している」と大谷氏は語る。

「第3回一歩一歩アワード」で総評を述べる大谷氏。「絆」というテーマの元で地元密着と共に成長していくという姿勢を熱く語った

人を引き付ける接客で、街とともに成長する

 大谷氏は従業員のモチベーションを上げるためには、「従業員と関わる時間をつくること」を信条としている。同社では、従業員との面談は人事部長が行っているが、大谷氏はその内容をつぶさに聞くとともに、店長の場合は後に大谷氏も面談を行っている。

 また、研修や試食会を毎月定例で行っているが、このプログラムを仕切る担当者を順番制にしている。それは幹部社員の場合であれば一般社員やアルバイトスタッフの場合もある。一般社員やアルバイトがこれを体験することで、プログラムを仕切る大変さを認識して、職場の目上の人をリスペクトするきっかけとなるようにしているという。

 こうした環境をつくることで、アルバイトから社員になることを希望する例が増えてきた。今後はアルバイトスタッフがプログラムリーダーとなる機会をさらに増やしていきたいと考えている。

 アルバイトの人材募集については、大学1年生でアルバイトに就いた場合、大抵が4年生まで勤務する。この4年間勤務した従業員が一斉に辞めることが人材募集の大きな局面となる。

 筆者が一歩一歩の店でデジタルカメラを首から下げて食事をしたところ、20代前半の女性スタッフが「どうしてカメラを持っているんですか?」と話し掛けてきた。私は「物書きをしていて、記事の参考になる写真を撮っている」というと、「最近、皆さんスマホなのに珍しいですね」という。この女性スタッフはお客さまとのコミュニケーションのリテラシーがとても高いと感じた。

 大谷氏は毎朝、社内報を発信している。その内容はホスピタリティマインドをブラッシュアップするポイントである。「店長から『お客さまのことをよく見なさい』と言われるのであれば、お客さまの目を見てそれで終わりではなく、お客さまのテーブルがどのような状態になっているかをよく見ないといけない。冷房が効いている時に女性のお客さまが腕をさすったらどのような仕草なのか、それは冷房が効き過ぎているからかもしれない。カメラを持っているお客さまがいたら、趣味なのか、仕事なのか、聞いてみると、そこから会話が生まれるきっかけとなる……」

 このように、お客さまに対するあらゆる気付きを敏感にして、次の行動につなげる心掛けを伝えている。

 この原稿は「北千住を「住みたい街」にしたのは一歩一歩の大谷順一氏が原点である」と始まったが、同社のドミナント出店から社内の環境づくりについて取材を深めていくと、大谷氏の豊かな人間性と情愛が感じられる。そして、一歩一歩の店や会社の中には「共に成長する」という機運がみなぎっている。

 一歩一歩のような地元密着の企業が存在することで、その街には人を引き付ける良い循環ができ上がっていくのであろう。