このコラムや前身である日経MJでの連載コラムで、時々、名刺や名札などのワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)的活用事例をお伝えすることがあるが、今日はそのかなりユニークな事例をお届けしよう。あるワクワク系のバーからのご報告だ。

 そのバーは、厳選されたウイスキーを出し、海外の本の表紙にもなるほどの本格派ウイスキーバー。その“こだわりの本格派”な感じと、ある意味ギャップのある名札を作り続けているのだが、これが何ともユニークなもの。名前を一度も書いたことがないという名札なのである。

 では何を書いているのかといえば、例えば店主の名札には「鶴は千年、亀は万年、僕はバーテンダー歴30年」「国産ウイスキーをこよなく愛するバーテンダーです」「趣味 極真空手」、マダムの名札には「昔雅楽やってました。越天楽はハナ唄でうたえます」。

 これならまだ自己紹介なので名札的ともいえるが、「冬の大人気カクテルアイリッシュコーヒー」「国産ライムあります」「国産ライムはジントニックでしょ」「あのミント再入荷」といったドリンクメニュー関連ものや、「みかんジュース発売中」「みかんジュースいかがですか?」「朝カレーしませんか?」「急げっ!!ラムネ終わるよ」といった他の商品もの。

 さらには「お盆は休まず営業します」といった告知ものや、「今、洗濯機壊れてます!」といった、商品でも告知でもないものまで実に多彩だ。

 店主はこの狙いをこう語る。「名札を名札として使わずコミュニケーションのツールとして使うことにより、こちらから会話の糸口を切り出すのではなく、お客さまに興味を持っていただく」。

 その道具としては、名札は最適であり、そうして興味を持っていただいたり、「実は僕も極真空手、習ってました」などと共通の話題が見つかれば、初対面でも話は弾み、住所・氏名などの個人情報もいただきやすくなると。

 ちなみに、最近、最もウケたものは「今、洗濯機壊れてます!」。これはマダムの名札だったが、来店客に大いに話し掛けられた。また、みかんジュースの名札では、付けたまま近所のコンビニに買物に行ったところ、店員さんが「そのみかんジュースください」とお買い上げ。コンビニにお茶を買いに行ってみかんジュースを売ってくるという珍事もあった。

 名前を書かない名札。あなたなら何を書きますか?

※小阪裕司先生の連載最新回は、毎週金曜日の午前5時に公開します。「これまで公開した記事」と併せてお読みください