過剰供給と需給ギャップでセールを繰り返しても過半が売れ残る泥沼から抜けられないアパレル業界だが、そんな惨状に陥った元凶は自らはまった3つの罠だったと指摘したい。それは1)作り過ぎの罠2)販売蔑視の罠3)顧客蔑視の罠、に他ならない。業界競って作ることに夢中で売り切ることを軽視し、販売現場と顧客を蔑視した報いが残品の山となったのではないか。

作り過ぎの罠

 アパレル業界は幾度、数字をそろえて指摘しても、見たくない知りたくない現実のようだが、長年の悪癖の積み上げでアパレル製品は消費量を倍以上も上回る過剰供給が慢性化しており、直近の18年では推定消費量13億6100万枚に対して輸入(97.7%)と国内生産(2.3%)合わせて28億9900万点が供給されている。差し引きすれば15億3800万点が売れ残った計算で、セールを繰り返しても46.9%しか消化されず、最悪記録をまたも更新してしまった。

 

 その売れ残り品がどこへ行ったかは本媒体の『小島健輔が提言 過半が売れ残るアパレル流通への回答 オフプライスストア革命が迫る』を参照されたいが、狂気としか言いようがないほどの過剰供給がなぜ生じ、歯止めがかからないまま肥大してしまったのだろうか。そこにはアパレル業界が抱える特異な体質が指摘される。

1)原価抑制を優先しての過大ロット調達

 90年代のデフレから始まった海外生産シフトが年々加速し、とりわけ近年は高コスト化した中国から低コストな南アジアへの生産地移転が進み、調達コストは下がっても生産ロットとリードタイムが肥大して過剰供給と売れ残りに輪をかけている。

 国内→中国→南アジアと低コスト産地に移転するたびに生産ロットの桁が跳ね上がり、南アジア生産では万枚単位にもなってしまうが、ユニクロなど単業態で数百店舗を展開するビッグブランドでない限りそんなロットを売り切るのは困難で、大半のブランドは残品覚悟で販売力以上のロットを発注しているのが現実だ。ちなみに、駅ビルなどで数十店舗を展開するブランドの適正ロットは数百枚で、大当たりしても数千枚だ。そんな中堅ブランドまで南アジア生産に流れる業界の狂気には戦慄させられる。

 生産ロットの桁が上がるのは非熟練単能工によるパーツ分業で工場規模が大きくなるからで、付加価値の高い国内工場では熟練多能工によるセル生産で小ロットに対応している。

 ロットの桁が上がれば生産期間も長くなり、インフラの整わない南アジアでは工程間物流にも日数がかかり、船積みコンテナで輸送すれば物流も週単位で伸びるから、発注からブランドの国内倉庫到着まで国内生産が3週間とすれば中国沿海部は6週間、南アジアは12週間以上とリードタイムが倍々に長くなる。閑散期の低コスト生産を狙えば、その倍はかかる。リードタイムが長くなるほど的中率が落ちて消化率も落ちるのがアパレルの怖いところで、リードタイムが倍になればリスクも倍になる。

 

2)値引きと残品のロスを上乗せて調達する悪習

 これも外野には信じられないことかもしれないが、アパレル業界では前年の値引きと残品のロスを翌年の調達量に上乗せするのが一般的だ。前年並みの売上げを確保するには値引きと残品のロスを上乗せして調達する必要があるからだが、これでは値引きと残品のロスを予約するようなもので、消化が悪化すれば雪だるま式に調達量が増えていく。

 売れ残り品を償却せず翌期に持ち越して販売できる分野(紳士スーツ/シャツや定番品)ではその分は上乗せされないが、値引き分は丸々上乗せされる。ちなみにアパレルメーカーの持ち越し残品率は婦人服で平均12%、紳士服では20%にも達すると推計される。

 もちろん、こんな悪習を抜け出そうとする試みは幾度も行われてきたが、よほど調達と配分・補給・物流、在庫消化運用を一貫して改革しない限り、調達の絞り込みは売上げの萎縮をもたらすことが多く、新規調達の絞り込みと再拡大、売れ残り在庫の処分と新規調達の絞り込みを循環的に繰り返す企業が多い。その事情は本媒体『小島健輔が指摘 迷走するライトオンの突破口はこれだ』をご一読いただければ理解されると思う。

3)値引きと残品のロスを上乗せて原価を切り下げる悪癖

 これも残念な事実だが、前年の消化歩留り(投入した定価総額に対する実現売上げの比率)から翌期の収益を確保せんとすれば、値引きと残品のロスを前提とした調達原価率を設定せざるを得ない。消化歩留りが悪化すれば調達原価率が切り下げられる訳で、年々消化歩留りが悪化してきたアパレル業界ではジリジリと調達原価率が切り下げられ、その分、お値打ち感も劣化していった。それがまた顧客を遠ざけて消化歩留りを悪化させるという悪循環を抜けられないでいるのだ。

小売プラットフォーマーによるコスト転嫁“事件”

 消化歩留りの悪化に伴うジリジリとした原価率の切り下げとは別に、百貨店や商業施設、モール事業者など小売プラットフォーマーからのコスト転嫁で断層的に原価率が切り下げられる“事件”も過去、4回起きている。

 DCブランドブームによる過剰付加価値が崩れた84年を契機に百貨店取引が委託にシフトした“事件”では短期に10〜12ポイント、92~98年にかけて百貨店がバブル崩壊による売上急落を納入掛け率の切り下げに転嫁した“事件”では計12ポイント切り下げられ、百貨店ブランドのお値打ち感は半減してしまった。

 定期借家契約導入に伴うイニシャルコストの低下を00年代前半に商業施設デベが家賃などランニングコストにジリジリと転嫁した“事件”では4ポイント前後、宅配料金値上げなど物流経費の高騰をECプラットフォーマーが出品者に転嫁した18年の“事件”でも現段階では2〜3ポイントに収まっており、百貨店の転嫁幅の大きさはアパレル消費を根底から冷却させる劇薬となった。