(写真は別の企業で開催されたセミナーの模様)

 トマトケチャップや野菜ジュースなどの食品メーカー「カゴメ」がセミナーを売っているのを知っているだろうか?

 実はカゴメの活動領域は幅広い。これまでも商品開発で培ったノウハウを生かし、外食や中食(惣菜)のメニュー開発などをしてきたが、取り組みはこうした「モノの事業」以外にも広がっている。

 それは「モノを生かしたコトの取り組み」。『カゴメ総合研究所』(トマトを中心とした野菜について研究)で得た知見や営業活動で培った提案力などを使った「健康サポートプログラム」が地方自治体の健康づくり支援事業に採択される事例が増えているのだ。

 寺田直行社長は言う。「『健康寿命の延伸』は当社の最大のテーマで、『日本の野菜不足をゼロにする』ことを目指している」(6月6日、神奈川県と進める「未病改善に向けた『野菜摂取促進策2019』」共同記者会見で)。

 カゴメがこうした領域まで踏み出してきたのは、社会課題を解決したいという強い想いがあるから。だから小学校にトマトの苗を無料配布し、それを夏休みに育ててもらったり、育てたトマトで子供たちにトマトケチャップづくりをしてもらったりするなど「食育活動」にも本気。こうした取り組みを通じて、子供たちに野菜に親しんでもらおうとしている。

黒岩祐治神奈川県知事(左から2人目)とカゴメの寺田直行社長(左から3人目)。一番左は神奈川県の人気キャラクター「ミビョーマン」。一番右はカゴメの若月洋一神奈川支社長。
さまざまな形で「食育活動」を進める。放課後NPOアフタースクールと立ち上げた『おいしい!野菜チャレンジ』プログラムでは子供の野菜嫌い克服を目指している。
エリア特有の課題解決として、神奈川県では「20~30代への野菜摂取の機会づくり」を推進。中食のメニュー開発を行う他、県内企業の社員食堂でカゴメが提案する野菜たっぷりメニューを展開する。
京急ストアでは「かながわブランド三浦半島産こだわりかぼちゃ」を使った惣菜を展開。地産地消の取り組みだが、カボチャの加工をカゴメが行うことで提供機会の拡大を図る。

参加者の意識、行動が変わる『食生活改善セミナー』

 カゴメが販売を始めたセミナーの名称は『食生活改善セミナー』。カゴメの『野菜と生活 管理栄養士ラボ』メンバー(国家資格「管理栄養士」を保持する従業員45人が所属)が講師となり、「野菜を取り入れて食生活を改善する重要性や方法」を紹介する内容だ。

 これはカゴメが取り組んでいる「健康サポートプログラム」の主要コンテンツになっているもので、現在、企業や行政機関から依頼が殺到している。

 このセミナー、企業ではその従業員の、自治体ではその地域住民の健康促進を目的に行われるが、そこには野菜が体によいと理解していても意識・行動を変えるのは難しいこと、また現代社会の野菜を摂取しにくい現状がある(「調理が面倒」「調理の時間がない」「外食だと取りにくい」など)。

 こうした課題を自分たちでは解決できないので、カゴメに依頼がくるわけだが、『食生活改善セミナー』は忙しく過ごす現代人でも取り組みやすい手法を楽しく、分かりやすく紹介する。

 だから、「参加者の意識が変わり、行動も変わる」(曽根智子 執行役員 健康事業部長兼女性活躍推進担当)。そして、そのことを知った企業、自治体が「うちも」と声を掛けるわけだ。

 今回、都内のある企業で行われた『食生活改善セミナー』に参加した。

参加者が学びやすい工夫がたくさん!

 改装を機に新たに設けられたフリースペース。午後0時になると、次々と参加者たちがやって来る。その手には持参した弁当やコンビニなどで買ってきた昼食。セミナーを楽しみにしていたのだろう。皆、笑顔で談笑しながら、席についていく。

 この日の参加者は30人ほど。セミナーは会場前方に『野菜と生活 管理栄養士ラボ』の講師が立って進められるが、その横には大きなスクリーン。話を聞くだけでなく、見て理解する内容になっている。

 セミナー開始。

 講師のあいさつに続いて行われたのは、何と体操だった。背伸び運動をすることで気持ちの切り替えができ、リラックスして受講しやすくなる。

 その後、セミナーの目的や内容が紹介され、いよいよ、本題へ。

 講師の「こんな食事をしたことはありませんか?」との問い掛けとともに、スクリーンには「野菜がほぼ0」の料理の写真(コーヒーのモーニング、ラーメンとチャーハンのセット、生ビールと鶏の唐揚げ)。これに講師の「昨日の食事は何を召し上がりましたか?」との質問が続き、ここで参加者は自分の朝食、昼食、夕食を思い出し、それを書き出していく。こうすることで、自分の現状が理解できるし、真剣に取り組まねばという意識が高まっていく。

なぜ、このセミナーが人気なのか?

 と、この後もセミナーの内容を詳しく紹介したいところだが、それは実際に受講して体験していただくとして、ここでは受講して感じた『食生活改善セミナー』の優れた点を紹介しておこう。

(1)楽しく学べる:途中でクイズをはさむなど、参加者を飽きさせない工夫がある。

(2)理解しやすい:順を追って学べる6部構成で、体系立てて理解できる(写真や図を多用するので、分かりやすい点もよく練られている)。

(3)「これなら続けられる」と思える:日常の食生活に取り入れやすい内容になっている。

 中でも、特に良いと思うのが(3)だ。乱れた食生活のリセット法として「外食が続いた」「焼肉を食べ過ぎた」「炭水化物を取り過ぎた」場合を例にリセット術を紹介しているし、どれくらいの野菜を取ればよいかも、手のひらを使った数え方(ベジハンド®)で説明する。

 そして、何より、身近な食材で野菜を摂取できる提案になっている点が、このセミナーの最大の特徴だろう。野菜を摂取する方法はジュースやトマトソース缶でもよいし、凍菜やカット野菜でもよいのだが、こうなると、カゴメ以外の商品も含まれてくる。

曽根智子執行役員 健康事業部長兼女性活躍推進担当。執行役員 ダイバーシティ推進室長も務めた、カゴメのロールモデルの1人。

 でも、「1社でできることは限られている。連携して実現していきたい」(曽根執行役員)と、「野菜摂取を推進させる」目的のためには自社の商品だけにはこだわらないのだ。

 寺田社長も「病気になってからでは遅い。そういう人を少しでも減らしていくことが大切だが、それが1つの企業、自治体ではできない」と語っているが、企業や自治体が力を合わせ、社会全体で取り組まねばならない「健康寿命の延伸」。

 この中心になるべく、カゴメが動き始めている。