リアル店舗では「ありがとうございます」という言葉が頻繁に交わされます。しかし、その言葉に感情を乗せられている人はどれだけいるでしょうか?

 日本は「おもてなし」の国として世界でも有名です。来店したら必ずあいさつをする、飲食店なら無料でお水とおしぼりを出すなど、相手のことを思ったマニュアルの内容は本当に素晴らしいです。

 ただ、このマニュアルを活用できているスタッフは意外と少ないように思います。

 マニュアル通りに業務を遂行している店舗やスタッフはとても多いです。けれど事務的に仕事をするのなら、それはただこなすだけの流れ作業にすぎません。

 マニュアルをより活用して効果的なものにするのは簡単です。「ちょっとだけ」気持ちを込めるだけでいいのです。

 社会人1年目の頃、私はよく「言い方に気をつけろ」と注意を受けていました。上司と同じ趣旨の発言をしているはずなのに、なぜか一緒に仕事をしている人から評判が悪く、反発されることも多かったのです。

 もちろん、新人なので私の社会人としての経験が浅く、思い返せば生意気な発言もあったのですが、振り返れば、違いは「相手のことを真剣に考えているか」にあったと感じています。

 当時の私はある意味で、自分の仕事のため自分の都合で発言していました。一方、上司は、相手のことを考えてアドバイスしていました。具体的にいうと、上司は私と同じ内容を指摘する際でも、相手の話を聞き終えた後に相手の目を見て直接話していたのです。結果的に依頼する内容はほとんど変わらないのに、信頼を得ていたのは上司でした。

関係の浅い相手にこそ、思いやりを

関係の浅い人こそ、大切にするべき

 これは店頭に限らず、メールやECの問い合わせ対応でも同様です。常連客や顧客に「〇〇さん、いつもありがとうございます」と心から自然に言えている人は多いですが、むしろ大切なのはまだ関係の浅い人です。

 まだ関係性を築けていない新規客や顔の見えない相手への対応こそ、丁寧に行わなければなりません。深い顧客関係になれるかは、こうした対応によって大きく異なるというのが私の印象です。

 例えば、単に「ありがとうございます」と言うのと、「〇〇さま、✕✕いただいてありがとうございます」と言うのでは、同じお礼でも一般的には後者の方が適切とされています。ところが、心からの感情が伴っている前者の表現と、マニュアル通りの後者の発言では、前者の方が感謝の気持ちが伝わるケースはよくあります。

 後者の表現では感謝に加えて相手の名前を呼び、何をしてもらったことがうれしいかを伝えています。しかし、もしこの発言を棒読みでどこか機械的に言われたら、「何だか気持ち悪い……。本当に私のことを見て、そう思っているの?」と、逆に不信感を与えてしまうのです。

 発言内容が本気かどうかは、受け手には一発で分かります。飲み会で楽しそうにしている人と、呼ばれたから来たとつまらなそうに飲んでいる人が分かるように、スタッフである従業員の態度もお客さまは敏感に感じ取ります。

 せっかく、マニュアルを覚えたのなら、次の段階としてそのマニュアル接客を「本気」でやってみてはどうでしょうか。

 良い接客は、マニュアル接客でも十分できます。例えば、本気で「ありがとうございます」を言うとなると、笑顔、姿勢、言うタイミングなど、今までとは変わるポイントが複数出てくるはずです。

接客だけでなく、教育でも使える

「ちゃんと見ているよ」とその場ですぐ伝えることが大事

 スタッフ指導でも同様です。ミスや仕事の依頼を指示できる人は多いですが、スタッフのモチベーションを上げられる人は少ないです。「期限内に渡してくれた」「資料が見やすい」などその場で瞬間的に思うことがあっても、直接本人にそのことを伝えられている人は少ないのではないでしょうか?

 もちろん、仕事なので、時間内に終わらせることも、しっかりと結果を出すことも当然のことです。ただ、いつも注意ばかりされていたら、相手はどう思うでしょうか?「あれもできない、これもできない。自分にはこの仕事が向いていないんだ」と思い、せっかくいい仕事をしていても自信を失い、辞めたくなってしまう人も多いように思います。

 機械相手なら感情は不要ですが、対人業務であれば感情やモチベーションは仕事の成果を大きく左右します。

 また新人であれば、どんな行為が評価されるのかまだ分かっていない場合も少なくありません。褒められた経験があって初めて「次回からもこうしていいんだ」ということが分かるのです。こちら側が「当たり前」だと感じていたとしても、相手にとって当たり前とは限りません。

 とはいえ、こうした発言は慣れていないと咄嗟には出てきません。私も最初は言うタイミングがつかめず、どことなく恥ずかしかったので、まずは宅急便の人に配達のお礼を言うことから始めました。すると、それまで不愛想だった人でも、こちらが好意的なことが分かると表情が和らいで融通を利かせてくれたり、次第に対応が良くなるということが何度もありました。

 感情は伝染しやすいので、良い人には良い人が、態度の悪い人にはやはりそれなりの対応の人が集まってきます。自分が本気で接していれば、本気で返してくれる人は必ず増えます。よっぽどのクレーム客は別として、良いお客さまに恵まれないと感じている人は「言葉に感情を乗せる」ことを今一度意識してみてください。