氏家さんの後ろには、お客さんを待つ「ガトーショコラ」が並んでいる

一度は食べてみたい「特撰ガトーショコラ」

280グラム長さ13センチのガトーショコラ

 1本3000円(280グラム)の特撰ガトーショコラだけを、1日300本売る。今、予約すると1カ月半待ち、長いときは3カ月待ちになるほどの超人気商品です。しかも店売りのテイクアウトだけしかしておらず、全国からお客さんが買いに来ます。

 材料はチョコレートと、バターと、卵と砂糖のみ。2つのオーブンで、1回に10本ずつ、200℃で12分焼き上げます。作り方は『クックパッド』にも公表していますが、だからといって誰もが同じ味にできるはずもありません。

 この商品、ずっと気になっていました。東京・新宿御苑前にある『ケンズカフェ東京』の特撰ガトーショコラの看板を見て、一度食べてみたいと思っていました。オーナーの氏家健治さんの本も読んで、ますます興味が引かれました。一度でいいから食べてみたい。本当においしいのかしら。

 2019年6月7日、新生「特撰ガトーショコラ」が誕生したという一報を受けました。

 今、使っているフランス・ヴァローナ社のケンズカフェのために調合されたオリジナルブレンド、クーベルチュールチョコレートに加えて、こちらもオリジナルブレンドのイタリア・ドモーリ社の2種類のチョコレートを合わせて、世界で唯一の「特撰ガトーショコラ」ができたというのです。

 試食させていただいたのは、冷やしたもの、常温、焼きたての温かいものの3種類。伺った1時間ほど前に焼き上げられたそうです。

左から、冷蔵、常温、温かいもの

 それぞれに味わいが違い、口の中でとろけます。余計なものが入っていないので、雑味がなくチョコレート本来の味と香りが豊潤に迫ってきます。

 少し厚めに切ってある温かいものはまるでフォンダンショコラのよう。とろりと溶け出す感じがたまりません。私は、それほど舌が肥えているわけではないので、あまり本物過ぎると苦みが気になり食べられないかもしれないと思っていましたが、その心配は杞憂に終わりハマりました。濃厚過ぎず、軽過ぎず、コクと甘味、苦みが絶妙で、あぁ、くせになりそう(笑)。

「仕方なくラップでくるんで売った」

 氏家さんは、21年前に新宿御苑前に「ケンズカフェ」というカフェレストランを作りました。ホテルオークラや神戸屋、イタリアンレストランで経験を積み、満を持して独立したのです。昼はランチ営業、カフェ、夜はイタリアンを提供していましたが、ディナーのコース料理のデザートとして出していたもののうちの1つ、ガトーショコラが「めちゃくちゃおいしい」「持って帰りたい」「売ってほしい」というお客さまからの要望が強くなってきました。

 氏家さんとしては、「うちはレストランだ。焼きたてを食べてほしいので持ち帰りはやってないし、やりたくないし、ケーキ屋じゃない」と断っていました。しかし、何度も何度も頼まれるうち、「仕方がなくラップでくるんで売った」のが始まりです。

 だんだん評判が評判を呼び、食べにくるお客さんだけでなく、それだけを買いに来て、リピートして、今度は送りたいと言われ、配送するようになりました。それも、作りたてを食べてほしいというシェフのプライドがありましたが「仕方なくクール便で送っていました」(氏家さん)

 その頃はまだ先駆けだったネット通販を始めたのは2005年のことです。日本全国から注文が入るようになり、2008年から、ほぼガトーショコラ専門店になりました。最初は何となく販売していた500グラム1300円を、適切な利益を得られるようにするために半分量にして1500円に値上げ。1年後に2000円、2008年に3000円に。その代わり、材料もパッケージも見直して最上級のクオリティにしましたが、この値上げはかなりの決断です。

 当時から使用していたチョコレートは「チョコレート界のベンツ」ともいえる最高峰のフランス・ヴァローナ社のもので「高いけど間違いがない味」(同)です。バターをたっぷり使い、リッチ感があり、小麦粉は使わず、焼きたての味にこだわり続けることに変わりはありませんが、値上げするにあたってチョコレートを同じヴァローナ社の違う品種に変え、バターも国産バターの最高水準とされるカルピス株式会社バターに変えました。値上げしても、どんどん売れ続けていきました。

「チョコレート界のフェラーリ」に出合う

 その後も、氏家さんのおいしさへの追求はとどまるところをしりません。ずっとヴァローナ社のチョコレートを使っていたのですが、チョコレート界の「フェラーリ」ともいえるカリスマ、イタリア・ドモーリ社のジャンルーカさんに出会います。ジャンルーカさんは、ベネズエラで絶滅寸前の希少品種を接ぎ木して復活させるほどのこだわりの人です。

 噂を聞き付けたジャンルーカさんが店にやってきて、氏家さんのガトーショコラを食べたら「チョコレートの個性が生かされ、一直線にチョコレートの味がする」とビックリしたのだとか。小麦粉も生クリームも入れずに、ストレートにチョコレートで勝負する味にジャンルーカさんも圧倒されたのです。

 実は、氏家さん、ドモーリ社のチョコレートを使って作りたかったのですが、その時は価格が折り合わず断念。ところが、お土産に渡したガトーショコラをジャンルーカさんの奥さんが食べたら「ドモーリでつくらせなきゃだめよ」ということになり、特別な条件で取引できることになります。そこで、ドモーリ社のチョコレートに変え、世界でここだけのドモーリ社のチョコレートを使ったガトーショコラが誕生し、より評判が高くなっていきました。

ジャンルーカさんの突然の来訪にビックリ