2019年4月23日、「顧客体験価値(CX)最大化のための小売イノベーション~消費者起点ではじめるテクノロジー活用」をテーマに、『商業界オンライン』主催の「リテール・マネジメント・フォーラム」が開催され、多くの来場者が訪れた。

既存事業を伸ばすために必要な視点とは?

 

 まず、東日本旅客鉄道(以下JR東日本)執行役員 事業創造本部副本部長/JR東日本リテールネット取締役の表輝幸氏による『「変革2027」JR東日本 生活サービスの成長ビジョンNEXT10』をテーマとした講演からスタート。

 民営化から33年目を迎えるJR東日本の収益を底上げしてきた生活サービス部門は、連結収益(3兆円)の約3割を占める。人口減少時代も成長を続けるために2017年に同社が掲げた次の10年のビジョンがNEXT10だ。

 NEXT10の4本柱は「みがく(既存事業のレベルアップ)」「ひらく(駅を中心とした街づくり)」「つなぐ(地域活性化・交流促進)」「のびる(事業創造・オープンイノベーション)」。講演では、それぞれの観点から、具体的な施策が紹介された。

 中でも表氏が実際に関わり、売上げが半減した駅弁事業の立て直しの視点とその具体的な施策は、既存店舗のてこ入れに苦心する小売業者にとって示唆に富む内容だったに違いない。

 さらには、AI無人決済店舗の実証実験や鮮魚のEC卸売、飲食店のモバイルオーダーサービスなどのベンチャー企業との連携事例をはじめ、海外進出やインバウンド需要の取り込み成功の視点など、小売業者にとって非常に参考になる内容が盛りだくさんの講演となった。

アメリカから見えたデジタル戦略の手掛かり

 

 続いては、商業界取締役 山本恭広氏による「米国リテール産業デジタル化最前線」をテーマとしたNRF(全米小売業協会)2019大会のレポート。

 2019年のNRFの出店社は700以上、開催セミナー数は約200(計100時間以上)で、期間中来場者は約3万7000人にも上ったという。セミナーの主なテーマや、山本氏が着目したキーワードが提示され、その具体的内容が説明された。

 そのキーワードとは、「対アマゾンはオンラインとの競合から共存へ」「デジタルトランスフォーメーションによる顧客体験の向上」「デジタル時代の従業員の再教育」「リアル店舗の再定義」「デジタルを活用した現場ソリューション」の5つである。

 こうしたキーワードを踏まえ、アマゾン、グーグルに次ぐデジタル投資を行っているウォルマートや、1800店舗のデリバリー拠点や無人運転配送の実験を導入したクローガー、デジタルプラットフォーム自体の販売を目指すアリババの戦略にフォーカス、最新の取り組みが紹介された。

 さらに、物流倉庫内のリロケート最新システムから、試着体験システム、商品連動型のディスプレーといったNRFに出店したスタートアップ企業の動向が、現地の展示写真を豊富に交えて紹介された。

 最後に山本氏は、「顧客からスタートする」「エクセルからデジタルへ(数値だけでなく、カタチ、空間でとらえる)」「異業種に学び、協業する」というNRFから学ぶべき3つの視点を示し、本講演を終了した。

ネット履歴も取り込んだエリアマーケティングの新潮流

 

 続いては、商圏分析やエリアマーケティングツールを提供する技研商事インターナショナルの執行役員 市川史祥氏による講演。「地図情報システムを用いた商圏分析の新潮流」をテーマに、GPS、ネット履歴を用いた商圏分析手法の進化を紹介する内容である。

 まず、同社が提供する「MarketAnalyzer™」を利用し、エリアマーケティングの基本のデータ分析手法を押さえる内容からスタート。ある小売りチェーンが店を継続できない(閉店する)商圏特性をあぶり出す方法を紹介した。同様に「MarketAnalyzer for AudienceOne®」や、新商品「KDDI LocationAnalyzer」を利用し、ネット履歴やGPSの情報を組み合わせることで、新たなデータ分析の世界が開けることを説明。

 某大型家具店の各店舗の商圏分析をはじめ、駅前スーパーと隣接したホームセンターの利用者や利用日/時間帯の比較など、具体事例をビジュアルに交えた解説で、難しいと思いがちな「データ分析」が、分かりやすく理解できるものとなった。

 2011年に既に1.8兆ギガバイトに達していた世界のデジタルデータ量は2020年には、40兆ギガバイトにも達する見込みだという。

 自前のデータだけでなく、こうしたビッグデータをツールとともに上手に使いこなし確実な戦略を打てるかどうかは、これから重要になりそうだ。

最新のデジタル戦略が一気につかめる充実の半日

 本フォーラムの最後は、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス代表取締役社長兼CEOの大原孝治氏による同社のデジタル戦略に関する講演。

 大原氏は、デジタルツールを活用したこれまでの社内オペレーション改革に触れた上で、顧客の変化を見据えた今後のデジタル戦略の視点を示した。また、「バン・パシフィック・インターナショナルホールディングス」という社名に表された海外展開への意気込みとともに、シンガポールやバンコクでの具体的な取り組み事例も紹介した。

 ドン・キホーテの最新デジタル戦略を大原氏から直接聞けるとあって、その内容とともに、同氏の言葉の一言一句を聞きもらさないよう、熱心に聞き入る来場者の様子が印象的な講演となった。

 異業種の先進ビジョンから米国の最新事情、次世代型マーケティングツール、さらには注目企業のデジタル戦略が半日で一気に聴講できた本フォーラム。来場者の熱気とともに幕を閉じた。