サステナブルブランドになるために

中見 志が近い人たちとお互いに手を組みながらやっていきましょうと、ある意味、オープンイノベーション的な発想でコラボレーションをやられているとお見受けします。今の時代の価値観にすごくフィットしていて、これをどういう形で世の中に見せていこうとされているのか。キリンビールは少し前から「CSV経営」を標榜され、CSV専任の部署もあると伺っていますが、社内で連携しながら、どのようなCSV的なアクションをされているのですか。

山田 CSV推進についていうと、元々アルコールの会社なので、まずはアルコール適正飲酒啓発を行い、「酒類メーカーとしての責任」を果たしていくことは重要だと考えています。加えて、事業に関わりの深い「健康」「地域・コミュニティ」「環境」という社会課題に取り組んで、食から医にわたる領域で新しい価値を創造して持続的成長を実現していくことを長期的に考えています。

「地域・コミュニティ」の象徴的取り組みをご紹介すると、日本産ホップのうち約7割を、私たちが使っています。主に、ホップは東北で作っていますが、生産農家の後継者不足や、生産者の高齢化というのが現状の課題です。例えば、『一番搾り とれたてホップ』というユニークな商品を作っていますが、ホップの生産が途絶えたら作ることができない。長きにわたって、岩手県遠野市とはビールを通じた地域の活性化に取り組んでいます。このプロジェクトで結果的にホップの就農者が増えて、生産者の減少に歯止めがかかりつつあるとも聞いています。私たちができるサポートとして、昨年から日本産ホップを使いたいという希望があれば、日本の他のクラフトブルワリーに斡旋販売することを始めました。また秋には、『フレッシュホップフェスト』というとれたてのホップを使ったビールをつくろうという祭りを、50社くらいのクラフトブルワリーと一緒に取り組んでいます。こうした地道な取り組みを5年続けて行っています。農作物なので、10月の秋祭り、収穫のお祝いという位置付けで、日本人のDNA的に正しいことではないかと思っています。こういう取り組みは、われわれにとってはすごく素敵なことだと考えています。

 

中見 ビール業界において、マーケティング戦略をどのようにゲームチェンジしていこうとしているのですか。これまでにいろいろと種をまいてきたものが、今、花として咲き始めてきていて、後は統合的に見た際、キリンビールとして消費者にどのような価値を提案し、ブランドとしてどのような見え方をしたいと思っているのでしょうか。

山田 モノをどう捉えるか。どこかの車の会社が「モノより思い出」と言っていました。良い言葉ですし、「モノからコト」と言いますが、やはりメーカーですので「モノがなければコトも起きない。モノもコトも大切」と思っています。

 ビールの歴史は4000年といわれますが、大きなイノベーションは2、3回くらいしかない。ピルスナータイプのビールができたとか、冷蔵庫ができたとか、殺菌する方法が見つかったとか、いろいろありますが、ここ100年は缶になったとか、パブでビールを飲めるようになったとかがありますが、全部リノベーションなのではないでしょうか。リノベーションの積み重ねをやってきているから今があるということなのではないかと思っています。

 先ほども少し触れましたが、私が担当していた家庭用生ビールサーバーで、ビールを「飲みたい」ものだけではなくて、「注いでみたいもの」にも変えようとしました。また、『日本の美味しいものと一番搾り』という広告をやりましたが、スーパーマーケットや外食チェーンの方々にお願いして、『一番搾り』とのクロスMDを実施しました。お客さまがお店に来たとき、CMでやっていたものが店頭にある。お客さまにとってCMを「見るもの」から、「体験するもの」に変えようとしたのです。

 ここで挙げている事象はリノベーションではないかと思っており、このような取り組みを積み重ねています。

 先日、ある昔なじみの小売業の方と話をしていて、結局、メーカーに期待するのは価値創造なので、ぜひ、それを頑張ってやってくださいと言われました。

中見 小売業の人たちは、メーカーの人に対し、商品を通じた価値創造を期待していると思います。『小売りの場=店舗』で、お客さまが望んでいるモノや、メニュー提案などのコトを一緒になって作っていくことが今後、重要となるでしょう。メーカーとして価値共創という考え方もあるし、メーカーは消費者へマーケティングリサーチをしながらお客さまの良いと思ったものを最適値で作り、お客さまに付加価値提案していくという考え方もあると思います。メーカーとして、どこまで消費者と一緒に価値を共創するか。今、リアルもネットを含めて、これがやりやすい環境にあると思います。

山田 私たちのビジネスでいうと、単品だとそんなに値は張らない。買いたいときに買えるということでいうと、量販店の店頭が重要になるし、飲食店で気軽に飲めることも大切になる。顧客接点があるということが非常に大事だと思っています。キリンビールが世の中の飲料、食品会社に比べて恵まれているのは、お客さまが信用してくれていて、ある程度の販売カバー率があるのが前提になっていることです。ただ競争も激しくなっているし、そんなに甘い世界ではない。お客さまに買い続けていただけるかという点でいうと、課題はロングセラーブランドをどのように作っていくか。ある程度、継続して需要が見込めることがすごく重要だと思っているので、そこをどう組み立てられるか。私もなかなか答えが見つかりませんが、ロングセラーブランドができて、お客さまが欲しいけど買えないとか、好きだったのに買えなくなっているということを解消できるとすごくいいと思います。

場をつくってビールの概念を変えていく

中見 場を設計しながら、いいものを作ってお客さまに価値を提供することをどう一気通貫で実現できるか。『ハートランドビール』をまず知ってもらって、バーに飲みに来てもらい、そこで『ハートランドビール』を飲んで、友人と談笑して、その場に価値が生まれる。その後、また集まってというカスタマージャーニー的な話があると思うのですが、そのジャーニーの中に、メーカーとしてどういう取り組みをしていく必要があるのか。『ハートランドビール』は1つのビジネスモデル実験だったと思います。

 

山田 飲食店の方がプライベートで行って、このビールいいなと思ってもらえるのが一番いいのです。そうしたことをある程度やろうとしたのが『ハートランドビール』の店で、これは一番分かりやすかったと思います。クラフトブルワリーの『スプリングバレーブルワリー』は、ビールの概念をどうクラフトビールを通じて変えるか、心地よく変えていくかということで作った場です。

 ビールにはお客さまの中に強い常識があります。ビールは黄色くて泡がついているとか、ビールには枝豆だとか、ビールは夏だよねとか、ビールはジョッキだよねだとか。これらに対して、お客さまの常識の逆を行く、あるいは想像を超えるのが大事で、ビールはタンブラーで飲むとか、6つの色で飲み比べするとか。『ビールは夏だよね』では、例えば、『秋、いよいよビール本番です』と聞いたら、皆さんどう思いますか。一瞬、間違っていると思うかもしれませんが、そうではないと思ってもらいたいのです。『秋にビールをゆっくり楽しんでいただく。クラフトビールをゆっくり楽しんでいただく季節がやってきて、ピッタリですよ』と言ったら、「おやっ」という感じになりますよね。

 常識を心地よく覆すわけです。ビールのホップを増量したら、ワッという感じの驚きの味になる。ワイン酵母を使ったビールとか、バーボン樽で熟成させたビールなど、これまでにない体験をすると、今までの既成概念や常識を心地よく覆すことになります。

 そうすると、「ビールはどれでも同じだから、これでいいや」ではなく、ビールにはいろいろな種類があるんだなということに気づいてもらえ、自分好みのものはどれかなという風になります。いろいろ試してみて、これが好き。逆に、これは苦手だなということを見つけていくプロセスもカスタマージャーニーだと私は思います。そうしたことをやってもらえると、ビールに関心が出てくるし、すごくいい世界になるのかなと思っています。

 クラフトビールにも素敵な世界が結構あります。そこに皆さんに興味を持ってもらうことがすごく大事で、押し付けずに、主体的な選択に適うことが大切になります。今のところクラフトビールは飲食店を中心にどんどん進めていますが、家庭用、量販店の店頭でも売れるところが出てきています。潮目も変わっている感じもあるので、飲食店で経験した人が店頭でも買っていただけるような環境をどう整えていくかが私たちの課題になっています。そこにいろいろなチャレンジがあると思っています。

中見 今後は地域店とメーカー、あるいは量販店とメーカーがどのようにうまく連動できるかが重要になると思います。お客さまとの関係性の深さをどこで保つのか。『ハートランドビール』のような場をつくるのもいいと思いますが、従来から持っている販売チャネルの深さを活用することも重要ですよね。

山田 私たちの取引先である流通業の方々は、大切なパートナーであり、重要なインフラだと思っています。飲食店も、もちろん同様です。私たちにとってすごい資産なので、ここを通じた取り組みはすごく大切にしていきたいです。

中見 小売業が困っていることは「品揃え」と「在庫リスク」「欲しいものをいかに安く調達できるか」の3点です。この課題をメーカーが解消しましょうという発想はいかがでしょうか。

山田 以前、ある家で尋ねた時に気付いたことがありました。チラシのポスティングが来て、郵便や宅配が来たりして、1日の訪問者数はかなり多いそうです。自分が頼んでいないものも含めて、訪問する人たちは皆、通販型ビジネスモデルを行っているのです。これは非常に非合理的だなと思いました。ビールをスポットのエリアに届けることを考えたときに、シェアリングという発想はないのかなと思いました。ウーバーもひょっとしたらそうなのかもしれません。15年くらい前ですが、そうしたことをうまくビジネスにできないかなと考えたことがあります。今、物流における「ラストワンマイル」が課題になってくると、こうした過剰配達の無駄を減らすことも大事になってくると思うのです。

中見 クラフトビールで今、進めていることは、オープンで志が近く、盛り上げていくのであれば、コラボレーション的なこともあるということですね。

山田 東北のブルワリーと17年、18年と2年続けてキリンの契約栽培ホップを使ったビールを競作しましたが、秋にキリンビール仙台工場に集まって飲み比べをしました。マスコミの皆さんはビール会社が他社のビール会社の工場に行って、他社のビールと一緒に提供していることに驚いていました。ビール会社はライバル意識が強いので、他社のビールは飲むこともないし、工場で他社のビールを出すなんてありえないと思っている常識を覆しているわけです。

中見 それが驚きであったり、世の中に対しての1つのメッセージかもしれません。

山田 私たちのつくっている『一番搾り とれたてホップ』は04年に発売して昨年で15年目になりましたが、東北復興の旗頭的な商品で、あれが出荷されたとき、私は密かに感涙しました。そういうストーリーもありますし、今年とれたばかりの日本産ホップでなければ今年中に出せないし、10月くらいに収穫のお祝いはできない。工業品的価値と農業品的価値でいうと、キリンビールの商品は結構、農業品的価値のよう。農作物をクラフトマンシップでおいしいものにしていくことがキリンビールの本分のようなところがあるのかなと思っています。そういう本分に立ったときに、それを通じてどれだけ社会に貢献できるか。単純に飲んでおいしくて、明日の朝、頑張る気になるというのも、ビール会社にとって大切な本質ですが、社会的価値をもっと持つようになっているし、もっと持てるようにしたらどうなるのかは結構、考えます。