髙島屋は3月1日付で代表取締役常務だった村田善郎氏が社長に昇格し、木本茂前社長がグループ会社、東神開発の代表取締役会長となるトップ人事を実施した。髙島屋の鈴木弘治会長は留任した。単一ののれんでは日本一の百貨店である髙島屋のトップに就任した村田新社長に経営の新たな方向性について聞いた。

(聞き手/『販売革新』編集長・西岡 克)

むらた よしお:1961年10月26日東京・千駄木生まれ。慶応大学法学部卒業後、1985年4月髙島屋入社。東京店(現日本橋店)のワイン売場を振り出しに、紳士服、ドイツ駐在員事務所、新宿出店準備室などを経験。労働組合委員長も務めた。2011年柏店長、13年2月執行役員、15年3月常務執行役員。15年5月常務取締役。17年8月代表取締役常務総務本部長、企画本部副本部長、経営戦略部長。18年3月同企画本部長。19年3月に代表取締役社長に昇格。

――社長交代の経緯は。

 村田:2月に入ってそれらしき動きがあったというか、打診ではないのですが「そろそろ考えるタイミングに来ているのではないか」と何となく促される感じで。最終的には社外取締役も含めた指名委員会で決定されました。

――木本前社長が東神開発の代表取締役会長に就いたのは不自然な感じだ。

 村田:そうですかね。グループで東神開発は髙島屋というブランドに匹敵するぐらい非常に重要な役割を担っており、違和感はないですよね。

 鈴木会長が経営の知見をフルに発揮し、東神開発を木本会長がしっかりと支える。むしろぜいたくなお膳立てをしてもらったと思っています。

仕事のフローを変えて社員の意識改革を進める

――村田新体制では何をする。

 村田:百貨店は成長産業とは言えないので本腰を入れて構造改革に取り組むことが私の役割だと思っています。

 私は「楽しくなければ百貨店じゃない」と考えています。それを実現するには従来にないものを取り入れなければいけない。人気のあるものはどうしても利益が薄いので、そのための原資をどこで捻出するか。楽しさをつくるためにいかに投資ができる収益力を付けていくかが一番の経営課題です。

 百貨店は消化取引が多いので、買い取りの比率を高めるなどある程度リスクを取って商品利益率を上げていくことも必要です。経費面でも人手に頼っている部分をデジタルの技術を活用して置き換えていくことが必要です。

 現在推進中の「グループ変革プロジェクト」は単にデジタル化するだけではなく、仕事のフローやプロセスそのものを変えて意識改革を進めることが狙いです。意識改革によってフローも変え、フローを変えることによって意識も変えるという2つの軸を回すことで、体質そのものを変えていくのです。

――「経営資源を組み合わせることによって新しい成長モデルを作りたい」と先日話していたが、その意味は。

 村田:今年のグループ経営方針は「グループシナジー(相乗効果)」です。

 例えば従来はシンガポール髙島屋を中心にASEAN(東南アジア諸国連合)地域の店舗を回していました。でもシンガポール髙島屋と日本橋店あるいは大阪店のシナジーはなかった。髙島屋のカードは海外で使えません。グループ力が生かし切れていないのです。インバウンド(訪日外国人客)が拡大し海外の富裕層を日本に取り込むだけでなく、日本の富裕層に海外で買物をしていただく。そういうシナジーがまだまだ出せると思っています。

 また国内の関連会社は買収した会社はともかく、内部から独立させた会社はまだ市場競争力が弱い。ビルメンテナンスの髙島屋ファシリティーズや飲食事業のアール・ティー・コーポレーションなどは力が付き始めているので、それをさらに強化し髙島屋ブランドのシナジーをもう一度高めていきます。

 EC(電子商取引)事業も髙島屋をサポートするだけでなく、いずれは独立して戦えるようにして、総合シナジーを高めていくことが必要だと思います。

日本橋髙島屋S.C.は新たなお客を呼び順調に推移

――2019年2月期は微増収で営業利益は9期ぶりに減益になった。

 村田:インバウンドと国内富裕層の一部が減速したことと暖冬や天候の影響で、トップライン(売上高)が下がってしまったのが最大の原因です。経費面でも下期に物流コストなど思いの外、経費がかかってしまいました。

――しかし足元の状況はいい。

 村田:インバウンドは3~4月はかなり復調しつつあります。1月には免税売上げが15.1%減と落ち込みましたが、春節時に比べ6%弱くらいプラスで良くなり始めています。特に4月に入ってからは関西を中心に2桁くらい戻ってきています。

 一方、一般の購買意欲は力強さがあるとは言えません。ただ3~4月は改元ムードもあり少し消費が上向きつつある。特に富裕層は、お得意さまの特別招待会「薔薇の会」を見ていると、潜在的な消費行動に対する気持ちが高いのだろうという感じは受けます。

――前期は4館体制から成る日本橋髙島屋S.C.が開業した。

グループ総合戦略「まちづくり戦略」の象徴とも言える日本橋髙島屋S.C.。「いかに百貨店と専門店を融合させ、買い回り性を高めるかが鍵だ」と村田社長。

 村田:昨年9月に日本橋店の隣に新館が開業しました。豊洲近辺の若いカップルなど新しいお客さまが随分来店されています。新館ができて新しいお客さまを呼び、昔からの顧客にも新しい提案ができている。昨年3月に開店した東館のポケモンセンターも若い世代の集客につながっています。

 今年3月5日にはグランドオープンし、日本橋店の入店客数は前年の1.6倍に増えました。特にマスコミで紹介された日は15万人が来店されます。

 課題もあります。新館のファッションは大型セレクトショップが予算を大きく上回るなど好調ですが、レストランは好不調がはっきりと出ています。

――ただ百貨店部分だけを見ると日本橋店の売上高は1293億円と前期に比べ3.7%減り、大阪店、横浜店に次ぐ3位に順位が下がってしまった。

 村田:昨年9月にレストラン街の運営を子会社に移管したためです。新館開業日以降の下期はレストランを除くと1.1%増、今年3月は4.6%増と実質的には順調に推移しています。

――新館を中心に専門店売上げは開業後1年間で200億円を見込むが。

 村田:下期は予算比でプラス3ポイント、3月はプラス5.2ポイントです。でこぼこはありますが、日本橋髙島屋S.C.全体の単年度営業黒字化は予定通り21年2月期の見通しです。

――昨年11月にタイのバンコクにサイアム髙島屋を開業した。

 村田:巨大な商業施設アイコンサイアムの核店舗として賃貸面積3万6000㎡で出店しました。主にラグジュアリーブランドは川沿いに集中していますが、当社では手掛けずむしろ日本を意識した食やアパレル、リビングなどを中心に扱うマーチャンダイジング(MD)を組み立てました。

 高架鉄道の開通が遅れている影響もあり主に非食品が苦戦しています。食品は地下のイートインなどが好調で、和牛や寿司、日本の高級なフルーツがいい。レストランも日本の高級寿司店は人気です。化粧品と紳士服、婦人服は大きく予算を割っています。

 非食品でも西川の布団など現地になかったものが富裕層に受けていますから、MDを修正すれば十分軌道に乗ると考えています。出店条件がいいので、早期に黒字化できるはずです。