恩恵を自然に享受するチャネルホッパー

 今を生きる生活者たちは、企業のオムニチャネル化の苦労などどこ吹く風で、むしろオムニチャネルなどという言葉を意識することもなく、オンラインとオフラインを自由に行き来する「チャネルホッパー」です。常にスマホで情報収集し、新しいテクノロジーやサービスを難なく使いこなすチャネルホッパーは、一部の企業が苦心して構築したオムニチャネルの恩恵をあっという間に吸収し、そしてそれを当たり前のサービスとして捉えます。

 特に、これからの消費の中核を担っていくことになる「ジェネレーションZ」と呼ばれる世代は、自立したときからアフターデジタル、OMOな世界を生きることになる世代です。そうした生活者に対し、クオリティの高い顧客体験を提供し、実際の購買につなげるにはどうすればよいのでしょうか?

全体験を「買う理由」にする「× Commerce」こそ最適な手段

 

 自立した瞬間からOMOの恩恵を当たり前のように享受するチャネルホッパーに対しては、企業やブランド側が提供する全てのタッチポイントで、いかに多くの「買う理由」を作れるかが、顧客体験を売上げに結び付ける鍵となってくるでしょう。

 その1つの戦術として「× Commerce(クロスコマース)」が挙げられます。チャネルがオンラインとオフラインで分断されて考えられてきたように、近年まで「顧客体験」と「購買」も分断されて考えられ、カスタマージャーニーの動線もそれに基づいて設計されてきました。例えば、かつての考えだと、「欲しい」という気持ちを高めるのが広告の役割でしたが、その瞬間、気持ちの高ぶりのままに購買をする手段が消費者にはありませんでした。消費者が体験した気持ちの高ぶりや衝動を直接「購買」に結び付けられるのはリアル店舗の店頭だけだったのです。

 しかし、OMOが現実の世界となった現代なら、時と場所を選ばず購買意欲を高めてくれた消費者に対して、すかさず購買手段を提供することが可能になりました。そのセールスチャンスを逃さないための考え方が「体験x Commerce」という概念です。店舗で試食をして気に入ったらそのまま買ってしまうというように、デジタル世界でも体験から購買までがよりシームレスになっていきます。「x Commerce」は顧客にマッチした「体験」からそのまま「購買」に結び付けます。

 タッチポイントにはあらゆるものが考えられます。EC、店舗、イベント、SNSなど、これらのタッチポイントを分断するのではなく、複数を融合させてクロスコマースを設計することももちろん可能です。Instagramが2018年からフィード投稿から商品が購入できるショッピング機能を始めたように、今後もそうした体験と購買の融合は進んでいくと考えられるのです。例えば、ブランドが発信するSNS上にアップしたプロモーション動画で「便利!」と思わせつつ、動画からそのまま購入させる「動画 x Commerce」。ファッションショーで目の前にいる人気モデルが着ている洋服が「かわいい!欲しい!」と思ったときに、即購入させる「ライブ x Commerce」など。

 このように体験の全てを購買チャンスに変えることで、単なるECサイトでは生むことのできなかった買物のワクワク感や、ECサイト以上の衝動買い・ついで買いを誘発するのがクロスコマースの狙いです。

 もちろん、クロスコマースの実現にはコンテンツのクオリティがパフォーマンスを大きく左右するので、その分、難易度は高まります。しかし、デジタルテクノロジーとコンテンツクオリティが高次元で融合できれば、それはOMO時代にふさわしい新たな顧客体験となるはずです。