小売業関係者にとって、また覚えなくてはならないアルファベット3文字の単語が現れたのだろうか——。「OMO」という単語を耳にしたとき、そう感じた関係者も多いかもしれません。

 B2E、3PL、RFP、WMS、O2O、IoT……、とかく、この業界では、いつの時代もやたらとアルファベット3文字の単語で最新のビジネス事情が語られます。今回のテーマである「OMO」も、そんなある種の "バズワード" なのでしょうか?

前提となるマインドセットを変えないと理解できない

 OMOは、AI研究の権威であり、現在はベンチャーキャピタル「SINOVATION VENTURES」の創業者でもあるリー・カイフー氏が、2017年12月に「The Economist」の誌面で広く世の中に知らしめた概念といわれています。

 OMOとは「Online Merges with Offline」の略で、直訳すれば「オンラインとオフラインの融合」のこと——なのですが、この言葉の表面だけを捉えてしまうと、「一体、O2Oやオムニチャネルと何が違うのか?」と感じる人がいるかもしれません。

 結論からいえば、違うのは「前提となるマインドセット」ということになります。

O2OやオムニチャネルとOMOの絶対的な違い

 もちろん、O2Oもオムニチャネルも、オンラインとオフライン、デジタルとリアルについて言及している、という点についてはOMOと同様です。

 しかし、O2Oも、オムニチャネルも、「オンラインの世界はオンラインの世界」「オフラインはオフラインの世界」として概念を分けている、二項対立でチャネルを語っています。

 ここが絶対的にOMOの概念とは違う部分です。

 つまり、OMOを正しく理解には、全員がまず、「オンラインチャネルはもちろん、リアル店舗など『場』としてはオフラインのチャネルであっても、全ては常時デジタルにつながっていて、今の時代の生活者はオンライン、オフラインという境界線を意識することなくサービスを享受できる状態にあるのが大前提」というマインドセットになることです。

 今の生活者は、ほぼ全員がスマートフォンというデバイスを通じて、いつでも、どこでもデジタルとつながっています。店舗でもPOSシステムは常時デジタルとつながって消費者の購買データを取得し、(そのためのシステムさえあれば)顧客データをIDにひも付けた管理が可能です。IoTも進化しており、例えば冷蔵庫や洗濯機、掃除機などのスマート家電で生活者のライフスタイルは常にウォッチできる状態にあります。

 そこで得られる一人一人のIDにひも付いた行動データから、いかにクオリティの高い顧客体験を提供できるのか。そのサービス設計やマーケティングを考えることこそ、OMOという概念に基づいた、これからの時代に求められる小売業の目指すべき姿といえるのです。

OMOが成立する4つの条件

 前述のリー氏は、OMOが成立する条件として次の4点を挙げています。

(1)モバイルネットワークの普及:スマートフォンの存在により、既に達成されている状態といえるでしょう。

(2)モバイル決済浸透率の上昇:キャッシュレス決済化の波がトレンドとなっている今、順調にこの割合を高めています。特に中国ではモバイルペイメントが爆発的に普及したため、OMOの実現も圧倒的に早く、世界をリードしているといえます。

(3)幅広い種類のセンサーが高品質で安価に手に入り、遍在すること消費者のあらゆる行動を認知し、それをデジタルデータに変換するセンサーの存在がOMOの実現には不可欠です。そうした高品質なセンサーが安価で安定供給される(=企業がビジネスで採用できる)ことがOMOを当たり前の世界にするか、そうはならないかの分岐点ともいえそうです。

(4)自動化されたロボット、AIの普及:高精度なデータをAIに学習させることで、最終的には物流も自動化できます。これにより、サービスの提供も高速化し、高い顧客満足度を継続的に醸成できるようになります。

 OMOは、これを提唱したリー氏がAI研究の権威であることからも分かるようにAIの段階的な進化とも深い関係があります。細かい解説はここでは割愛しますが、リー氏は、OMOの世界実現には「パーセプション(=認知)AI」の進化が必要である、とも述べています。

 パーセプションAIは、最も分かりやすい例を挙げるなら、顔認証でしょう。顔をAIが判別しIDとひも付けることで入店や購買を究極にシンプルにすることは、OMOで企業が提供できる良い顧客体験の1つです。これは既にAmazon Goをはじめ、さまざまな小売業で実証実験も進み、実用化と普及は時間の問題です。

 そして、今後、パーセプションAIがこれからさらに進化するであろうさまざまなIoTデバイスにも適用されれば、消費者のあらゆる状態や行動が、最適な顧客体験提供のための材料として自動的に認知されるようになるでしょう。

OMOの具体的なアウトプット

 OMOを考える上で重要なキーワードは「CX(カスタマー・エクスペリエンス)」、つまり顧客の体験です。データ化されたあらゆる消費者の行動を、質の高い顧客体験の創出に集約して突き詰めれば、OMOの具体的なアウトプットにはさまざまな形が考えられるでしょう。

「買物するのに並ばなくていい」「アプリのダウンロードや登録など面倒な手続きがいらない」「欲しいと思ったときに欲しいものが手に入る」「ちょうどいいタイミングで最適なものを提案してくれる」「買物すること自体がエンターテインメント化されていてワクワクする」——そんなさまざまな「良い購買体験」を、オンライン、オフラインの垣根なくどう生み出せるのかが鍵となります。

「常時デジタルにつながった世界」における顧客体験というと、ともすると、全てが自動化された体温のないものをイメージしがちですが、決してそんなことはありません。全てがデジタルにつながっているからこそ、そこで得たデータを元に、消費者とブランドの間に信頼や絆を芽生えさせる生身のコミュニケーションを充実させていく。こうしたことも、OMOだからこそ実現できるサービスといえます。