(左)茨城県の芋、(右)広島県のはっさく大福(取材時は残念ながら売り切れ)。

 1994年、銀座に沖縄県の「わしたショップ」が登場してから25年。今や、「銀座を歩けばアンテナショップに当たる!」と言いたくなるほど自治体アンテナショップが軒を連ねる。一般財団法人地域活性化センターの調査によると、昨年は都内にあるアンテナショップが過去最高の76店舗に増え、年間売上額が10億円を超える店舗もあるそう。同時に誕生から25年を経て、一昨年から昨年にかけては12店舗がリニューアルや移転を行い、各店共にコンセプトや広報体制、販売戦略などの見直しを図っているんだという。

 そう言われても、しかし、数字だけだと実感し難い。「実際のところ、今どうなってるんだろう?」 銀座を歩き、アンテナショップを見つければ、何か買わずに帰ってこられようか!という筆者が、今話題のアンテナショップを訪ねてみた。

①茨城県「IBARAKI sense」:オシャレなセレクトシップで果たす「不人気県」の汚名返上

〔住所〕東京都中央区銀座1-2-1紺屋ビル1階

 最初に訪れたのが1年前にリニューアルした「IBARAKI sense」。2012年末に銀座4丁目から移転してきた銀座1丁目、元々「茨城マルシェ」があった場所に建つ。着いてビックリ。外から見ると、アンテナショップというよりオシャレなセレクトショップのようで、「一体、茨城に何があったんだ?」といささか失礼な驚きを抱き、さっそく茨城県営業戦略部東京渉外局の掛札巧さんと、店長の原田暢さんに店内を案内してもらいながらお話を伺った。

「ご存じのように茨城は、全国の都道府県別魅力度ランキングでワーストV6を達成してしまいました。しかし茨城には生産量日本一のメロンをはじめ、いい物が多種あります。そうした中の『いばらきの逸品』を皆さんに知ってもらいたいと、昨年10月にこちらをリニューアルオープンしました。茨城の良いもの、センスを知ってもらいたいというチェンジ&チャレンジな取り組みとして生まれ変わったんです」(掛札さん)

 

 最下位V6からの挑戦! 茨城が本気だ。とにかくパッと見てディスプレイがゆったりしていて上質感にあふれている。「日本橋とやま館」や「ここ滋賀」など、最近リニューアルオープンしたアンテナショップは上質なものをお届けする、というコンセプトが見えるが、茨城はその最先端を行くショップだろう。私が訪れた平日の午前中、お店では銀座マダムらしき女性たちがゆっくりと買物を楽しんでいた。

「お店を訪れた方々からは『茨城っぽくないね』と言われたり、取材に訪れた方から『若い女性が多いですね』とも言われます。そういった反応や集客を目指しているのでうれしいです。商品を置く棚の高さは、ティファニーなど宝石店の高さと同じにしつらえてあります。床は稲穂がなびいているデザインに、壁には太平洋の大海原を、店内随所に霞ヶ浦や筑波山をモチーフにしたデザインを施したり、ダイニングの壁には県産の八溝杉や稲田石、スケルトンの棚の中には大きな笠間焼の壺を陳列しています」(掛札さん)

 
 

 置いている商品もさることながら、まずはアートな内装が目を引くという斬新さ。確かに茨城っぽくない、いや、今まで見落としていた茨城の神髄を見た思いがする。もちろん、商品の一つ一つもパッケージ・デザインがかわいくて、銀座の手土産としても十二分に使えるクオリティだ。

「(店長の)私は、実は東京都民なんです。今回のリニューアルで水戸京成百貨店がこちらを運営することとなり、そこの社員としてこちらの店長をしています。茨城県からは『都民の目で見てほしい』と言われ、パッケージのデザインも首都圏のお客さまにアピールできないんじゃないかと思う物はデザインを変えていただいたり、都民の目で生産者の方にフィードバックしています。もちろん、素朴な良さもありますから、それは生かしていきます。例えば、わら納豆などはそうですね」(原田さん)

 商品数はリニューアル当初は300品ぐらいで、どんどん入れ替えや試行錯誤を重ねて今は500品ぐらいだという。以前のマルシェ時代は3000品ぐらい置いていたというからグッと数を絞り、『逸品主義』を全面に押し出している。ただ、そうなると売上げはどうなんだろうか? キレイだけど売れないでは、自己満足に終わってしまうのではないか?

「とはいえ、納豆や干し芋は人気があります。やはり売上げナンバーワンは干し芋です。これまで東京では“丸干し”の干し芋はあまりなかったと思いますが、丸干しの『甘ころ』が一番人気です。他にもオフィスで女性が気軽に手を汚さないで食べられる棒が付いている干し芋ですとか、生産者さんがデザインを工夫してくれた干し芋商品が充実しています。ここは情報を発信し、消費者の声を直接頂いて、それを全て茨城の生産者さんたちにフィードバックする場にもなっているんです」(掛札さん)

 なるほど。人気の物産品にもお客さまの声を聞いて一工夫し、売り直す。丁寧な茨城仕事、という印象を受ける。ここに置くために、と地元生産者さんたちも積極的に商品開発やリニューアルを考えて地元産業の活性化にもつながっているという。またサバの水揚げ日本一ということで、サバ缶もバリエーション豊富に充実している。

「人気のサバ缶の中でも面白いのが、那珂湊高校の生徒たちが開発したサバ缶です。デザインも高校生自ら考え、これまでに3度、こちらで販売実習も兼ねて生徒たちが来てイベントを行っています。お客さんと生徒たちが直接会話を交わして売上げも好調でしたし、生徒たちも『また来たい!』と楽しんで学び、これからも続けていく予定です。生徒の1人はそうした体験から将来はこうした企画を作るイベントの仕事をしたいと言っていて、ゆくゆくはここで働いてくれたらいいなぁと願っています。日頃、生産者と首都圏のお客さまが直接に触れ合う機会というのはないですから、ここがそういう貴重な場になっていることも大切だと考えます」(原田さん)と、地元のネクスト生産者を育てることも忘れていない。

 また意外な茨城はさらにあり、実はビールの生産量日本一なんだとか! キリンとアサヒが工場を持ち、海外でも有名なネストビールをはじめ、地ビールも多い。その中でこだわりの逸品ビールが「パラダイスビール」(鹿嶋)、1本1058円! 

「実は鹿島神宮のご神水を使っているビールです。生産者さんは農家でもあり、自然栽培で原料の麦も作っているんですね。その代表の方がここに来られて、そこで一緒に作ってる新鮮野菜を使って、ビールとのマリアージュ・メニュー企画をやりました。これはお客さまに大好評で、第2弾を7月にやる予定です」(原田さん)

 

 リニューアルを機にレストランとカフェにも力を入れている。何と!レストランのメニューには全て茨城産の野菜や魚を使うというから、すごい力の入れようだ。私が行ったときも「霞ヶ浦特別メニュー」として「シラウオ丼ランチセット」があり、副菜の佃煮までもおいしく、これまた丁寧に作られているのが分かる。レストランやカフェを利用するために訪れるリピーターも増え、物販を買うことも当然ながら、滞在時間が長くなり、食を楽しむことも大切な要素になってきている。

 またビールのみならず、実は酒蔵数が関東一(39蔵)を誇り、5つの水系の特徴ある日本酒が楽しめる。週末には蔵元さん自らが来て、試飲会や販売をしているという。おかげで認知度も上がり、今では茨城の地酒目当てのお客さんも増えた。年に2回、近隣のアンテナショップと共同でやる日本酒ラリーにも参加しているそうで、そういう県の垣根を超えて行うイベントも今後ますます増えていきそうだ。

②広島県「ひろしまブランドショップTAU」:「おしい!」を「おいしい!」に変えた『神ってる戦略』

〔住所〕東京都中央区銀座1-6-10 銀座上一ビルディング

 さて、もう一軒訪れたのは「ひろしまブランドショップTAU」。茨城から10分も歩かないで広島だなんて! 同じ銀座1丁目にあるここは、一般財団法人地域活性化センターの調査で、「北海道どさんこプラザ有楽町店」「銀座わしたショップ」とともに堂々売上げベスト3に入る今、大人気のアンテナショップだ。

 しかし、一歩入ってまたビックリ。人、人、人、とにかく人が多い。さすがベスト3。ぎゅうぎゅうおしくらまんじゅうみたいな店内は活気にあふれ、これもそれもと、自分もついつい商品に手が伸びる。何と誘惑に満ちたショップだろうか! そこを何とか通り抜け、3階のレストラン「広島イタリアン」で広島県商工労働局ひろしまブランド推進課の黒木靖規さんにお話を伺った。

「今はとにかく『はっさく大福』が大人気なんです。つい先日も(取材は4月下旬)テレビ番組で取り上げられ、出演者の皆さまがおいしいとおっしゃって、特にヒロミさんが以前からご存じでお好きだとおっしゃってくださり、最近は入荷するとたちまち売り切れです」

 広島のアンテナショップは1998年に最初は新宿サザンテラスにオープン。その後2012年7月に今の銀座1丁目に移転した。地下1階から地上3階まで。アンテナショップとしては1、2を争う規模だが、さらに2017年4月のリニューアルで各フロアに飲食店もそろった。

地下1階には、瀬戸内ダイニング「銀座 遠音近音(Ochi Kochi をちこち)」。
3階はイベントスペースも兼ねた広島イタリアン「MERI Principessa (メリプリンチペッサ)」。
1階には「ひろしまCAFE」。ここで汁なし担々麺も提供する。
2階には広島お好み焼「鯉々」。

「新宿店では飲食店舗が1つだけったのが、現在では各フロアに1店ずつ和食、イタリアン、お好み焼き、汁なし担担麺と充実しているのが特徴で、何度も来てくださるリピーターを呼び込む1つの要因になっています。また店舗として都内アンテナショップの中で1番か2番目ぐらいに大きく、商品数が1階のフロアだけで1000品ぐらいあります」

 その中でも目立つのは“レモン”を前面に押し出した商品展開だ。

 
 

「レモンケーキだけでも何種類もありますし、レモンを使った調味料『レモスコ』など、さまざまな商品が人気を呼んでいます。これは2012年のリニューアルオープンの少し前に、『おしい!広島県』という少々自虐的な県のキャンペーンから端を発しています。その『おしい!』の1つがレモンだったんです。広島ではレモンの生産量が日本一なのに知られていなかったので、レモンケーキを中心にレモン商品をお店の一番目立つところに置いてアピールすると女性のお客さまに注目され、今ではレモンを使った商品がどんどん増えています」

 1つから買える個別包装のレモンケーキは、人気の「瀬戸田レモンケーキ」のみならず、バリエーションが豊富。定番人気のもみじ饅頭(こちらも1個から買える)にも負けない勢いで、とにかくこちらは何でも商品がみっちりぎっちり並び、わいわいと活気があって市場にいるような楽しさがある。

「2017年にリニューアルしたときから、鮮魚も本格的に始めました。それまでも土曜日だけ販売していましたが、今は毎日入荷しています。最初はなかなか認知されていなかったんですが、継続することで固定のお客さまがついて『おいしい!』という声をたくさん頂くようになりました。瀬戸内海のお魚は首都圏では珍しい。主に近隣にお住いの方が予約などされて買っていかれます。また鮮魚は切り身にせず、魚で置いてディスプレーしていますので、瀬戸内の魚そのものの展示といいますか、PRにもなっています」

 
 

「おしい!広島」(だった)名産品を大いに売るこちら。はっさく大福、レモン、鮮魚、それらを後押しするフックになる出来事も続いた。

 

「2階でカープグッズを数多く扱っていますが、昨今は『カープ女子』といわれる方々など女性のお客さまにも多く訪れていただいています。カープは3年前に25年ぶりに優勝し、そのときは『ビールかけTシャツ(ビールかけのときに選手や監督が着用したTシャツのレプリカ)』を販売しましたが、それを買うための行列が中央通りまでズラズラっと続くほど盛り上がりました。また、優勝した日は試合が行われた球場が東京ドームだったんですが、そこで観戦されたファンの方々が、『じゃ、どこ行くか?』と、ここに集まってくださいました。カープのロゴ入りの樽で鏡開きもしたので、皆さん、その写真を撮るためだけにも来てくださったり。結果、カープグッズのみならずいろいろな広島産品を買っていただき、商品がほとんどフロアからなくなりました」

 

 カープファンから広島ファンへ。ちょうど盛り上がるカープのファンが、広島県のファンになってくれたことも大きなきっかけになったのはラッキーだったが、それをうまくつないだ『名リリーフ』のアンテナショップだ。ただ、課題も認識しているという。

「インバウンドということを考えるとまだまだです。入ってこられても何も買わないで出て行かれるお客さまも大勢います。2階の熊野筆は海外の方から特に人気が高いですが、もっと知っていただかないと、と感じています。広島県内での観光と同じです。原爆ドームや宮島があっておいでいただけても、宿泊しないで帰られてしまう。皆さん、大阪や京都に宿泊されるんです。それで広島県では夜神楽をしたり、宮島のライトアップをしたりしていますが、お店でも同様に考えていかないとなりません。SNSはツイッターとフェイスブックはやっていますが、インスタでも今後は発信していきたいです」

 

 また食品のみならず、『モノづくり県広島』をもっとPRしていきたいそうだ。

「食品は買ってもらいやすいですが、2階フロアでモノ作り広島らしいデニムやシューズ、ビーズなども販売していますので、今後はそうしたものもさらにPRしていこうと考えています。昨年、ビーズのワークショップを3階で行い好評でしたが、今年も開催する予定です。『トーホー』というビーズメーカーが広島にあり、今ではビーズというと海外生産が多い中で頑張られています。ビーズのワークショップには日頃、お店になかなか足を運ばれない若い女性客が大勢集まってくださり、新しい客層の開拓にもなります」

 

「添え物」と揶揄されていたレモンを主役に押し上げ、全国アンテナショップのトップ3になったひろしまブランドショップTAU。「TAU」という名前は広島の方言で「届く」という意味だというが、まさに広島の魅力を絶賛お届け中だ。

2階には広島酒工房「翠」もある。

〔今回のまとめ〕「物産品を持ってくるだけ」の時代は終わった!

 誕生から四半世紀を迎えて、それぞれのアンテナショップが新しい発信の方法を探っている。今回分かったのは、

◎地元の物産品をただ持ってきて売る時代は終わり、インバウンド消費も見込み、デザイン含めたより良いものを提供する。また店舗そのものも、より上質感を打ち出す。

◎ただ買うだけでなく、飲食を充実させて滞在時間を伸ばす。また飲食目的のリピーターを増やすことにも注力している。

◎茨城が魅力度ワーストV6を逆手に取って斬新な店舗展開をし、広島がいまひとつ知られていなかった『おしい!』レモンを全面に押し出して売上増につなげたように、これまでネガティヴだと思われてところを逆に魅力に変える発想の転換がある。

◎食品だけでなく工芸品や服飾品など「物作り」をアピールすることに注力する。

◎アンテナショップ間での連携によるお酒試飲ラリーなどを行い、今後さらにこうした連携によってアンテナショップの存在感を打ち出そうとしている。

 といったところだろうか。

 昨年には渋谷に、宿泊もできる徳島県のアンテナショップ「Turn Table」もオープンしている。変わり始めたアンテナショップをこれからも探索していきたい。