「全ての人が自分らしく生きられる習慣」を食から実現することをミッションとする(株)MiL(本社/東京都渋谷区、代表取締役/杉岡侑也)は2018年1月に設立されたWELLNESS-TECHのベンチャーである。事業として、著名なアスリートや栄養士、医者などと共同開発を進め、個々人に最適な食事を提供する「パーソナライズ食」の市場開拓を目指している。

 同社では事業の一環として2018年6月にヘルスケアフードを提供する"創作自然和食割烹“「倭 西麻布」(20席)をオープン。完全予約制で営業を行い、食事を通じたヘルスケアに親しんでいるお客さまに人気を博している。

食の禁忌のほとんどをクリアするメニュー

「倭 西麻布」のコンセプトは「日本人の身体と心を整える自然食 人生が変わるディナー」。

 国の作物とは土壌と気候によって変化するもので、日本は海に囲まれていることからミネラルが土壌に染み込み、多くの穀物や作物が育つ環境になっている。旬の作物を食べることは最もおいしく、栄養を効率よく摂取する方法であり、日本人はこのような食習慣から季節を感じ取っていた。

 そこで同店では日本人の食習慣に合わせ、味を「足す」のではなく、食材のおいしさを引き出した料理を提供。「足すことによる体と心のストレスを解放し、日本人が元来持つおいしさを健康的に楽しんでいただく」という意図をコンセプトに盛り込んでいる。そして、調味料・添加物を極力使用しないようにしている。

 

 シェフは若松慎一郎氏。1975年生まれ、宮城県出身。東京・国立の辻調理師専門学校からフランスへ渡り、修行を積み、帰国。日本ではフレンチレスランの他、ブライダル施設等の調理責任者を歴任してきた。

 その同店では「ビーガン・ハラル・グルテンフリー対応」というさまざまな食の禁忌のほとんどをクリアするコースメニューを開発し、この4月19日より提供を開始した。

 メニュー名は「四十品目の贅沢お野菜フルコース」で、添加物や調味料を一切使用しておらず、素材やだしも野菜のみで組み立てている。価格は8000円(税サ込)。このコースメニューは、インバウンドの取材を継続している過程で食の多様性を知り、自らグルテンフリーの実践者となった筆者が、シェフ若松氏の解説を仰ぎながら体験したのでここで紹介しよう。

野菜の本来のうまみを引き出した料理の数々

■1品目:「季節のお野菜スープ」

 

 トマトを使ったスープ。4種類のトマトにミントを合わせた。スープはトマトを煮詰めて糖度を上げたものとそのままのものを合わせた100%トマトジュース。食事の始まりは体に負荷をかけないように、まずスープで食べる準備を整えるという意図がある。冷製のスープで食味は甘くて爽やか、酸味など素材の持ち味がシャープに伝わってくる。

■2品目:「茹で野菜の盛り合わせ」

 

 野菜本来のうまみを引き出してそれを味わってもらうという趣旨の料理。野菜は8種類で、そのうち生は2種類。その他は野菜ごとに塩分濃度を変えて塩ゆですることで、それぞれの野菜のうまみの特徴がはっきりと伝わってくる。野菜は少量ずつ頂くのだが、この一皿で料理の趣旨が十分に伝わってくる。

■3品目:「野菜だけの特製パスタ」

 

 麺からソースに至るまで全て野菜。この日の麺はズッキーニを使用。トマト自体を半分に切ってオーブンで焼き、ミキサーにかけてつくったトマトのフォンデュを使用。これをソースとして絡めている。フルーツトマト、アスパラガス、そら豆、のらぼう菜を添えている。味わいは濃厚で食べ応えがある。

■4品目:「プラ ド ジュール」

 

 野菜だけでも満足できるように、素材のうまみ、盛付け、食感にこだわったメインディッシュ。丸いものは焼いた大根もちを野菜のスープで少し炊いて、ヴィーガンフォンドボーを絡めたもの(野菜のだし、八丁味噌、赤ワイン、赤ワインジュースなどで組み立てた)。添えている野菜は油をひかないフライパンでグリルしたもの。また、フランス産のアスペルジュ・ソバージュ(野生のアスパラガス)を添えた。

■5品目:「高級米のませごはん」

 

 米は宮城県石巻産で有機認定されたササニシキを使用。米の中に、生産者から取り寄せた切り干し大根とひじきを入れて炊き、この2つの素材からだしが出ている。炊き上がったところに、浅漬けのザーサイ、大葉、ミョウガ、万能ねぎ、ゴマを混ぜた。だしがしっかりと利いていて、刻んだ漬物、野菜などが味に膨らみをもたらした。

■6品目:「旬のフルーツ」

 

 日向夏とニンジンを使用したデザート。ニンジンはニンジンジュースで炊いた。ワインの品種のブドウジュースを使用し、砂糖は一切使用していない。日向夏の皮を少し入れ、煮出して寒天で固め、ジュレの中には白玉を入れた。さらに、アーモンドを散りばめたことで、さまざまな食感を楽しむことができる。グラスの周りにはココナッツパウダーをまぶした。

■7品目:「おむすび」

 

 お土産として、5品目の混ぜご飯のおむすびを提供している。以前、あるお客さまが同店のコースを食べた後、すぐにお腹が空いたということで豚骨ラーメンを食べたとのこと。それでは低カロリーコースの意味がないということで、おむすびをお土産として、小腹がへったらこれを食べていただくという趣向。

食後、口中が完全に浄化された気分になった

 シェフの若松氏はこう語る。

「これまで、このようなコースメニューのご要望を頂くことがあって、召し上がったお客さまは皆『翌日、体が軽くなった感じがする』といいます。それが2、3日継続しているという人もいる。体調をリセットさせることを目的に月に数回来店するというお客さまもいます。今こそ和食に注目して、食制限とおいしさが共存できる場所をつくっていきたい」

 筆者は昨年9月に、ホテル内のレストランを全てベジタリアン対応可能にしたというヨコハマ グランド インターコンチネンタルホテルのベジタリアンメニューの試食会に参加した。その際に、同ホテルの総料理長、齋藤悦男氏はこのように述べていた。

「1000人規模の国際会議があると、25%がベジタリアン、15%がハラル、5%がグルテンフリーとなります。実に半分の方が食に禁忌を持つ人です。日本のグローバル化はこのような食の多様性に目を向けるべきです」

 要するに「ベジタリアン・ハラル・グルテンフリー対応」は決して特別なことではなくなるということだ。

 さて、こちらの試食会を終えて、これまで食べた野菜料理と比べて満腹感が継続していた。それよりも、最も感動したことは口の中が完全に浄化されたということだ。これまで外食をした後に、舌に調味料の膜がかっているような感覚を覚えることがあったが、このような感覚は皆無だった。

 店を出てから5分程度たったところで舌から口の中がスースーしていることに気付いた。いまだかつて経験のない爽やかさであった。しばらくすると、口から鼻腔にかけて無味無臭の感覚がしてきた。「これまで食べていたものは一体なんだったのか」という気分になった。

 近年「無化調」(うまみ調味料を使用しない)「ADDITIVE-FREE」をアピールするフードサービスは増えてきている。これはオーナーや運営サイドの主義であり、それに賛同する顧客が増えているということだ。

「倭 西麻布」を経営するMiLのミッションは「全ての人が自分らしく生きられる習慣」を食から実現するということだが、これからの人々の価値観を的確に捉えていると感じた。