今春に相次いで発表された食品の値上げについて、その対策を紹介する記事を書きました(「良い値上げと悪い値上げ」その内容と対処法)。今回はこれに続く第2弾、値上げ後に効果的な価格政策を紹介します。

 なぜ、こうしたことが重要かというと、小売店は値上げ後に販売数の減少や価格が高いイメージを防がないといけないからです。しかし、だからといって何をしてもよいわけではありません。特に海外の成功例に基づいたプロモーション策には注意が必要です。

 日本は『不当景品類及び不当表示防止法』(略して、景品表示法や景表法と呼ばれる)で、不当表示や過大な景品類の規制が行われています。約20年前に英国内で豪州ワインが爆発的に売れたときの販売促進策だった「Buy One & Get One」(=1本買うと1本は無料)策を日本で行うことはできません。

 また、採算を度外視した低価格、つまり正当な理由がないのに仕入れ原価(コスト)を下回る価格で販売することは独占禁止法に違反する可能性もあります。プロモーションの策を決めるには十分な注意と知識が必要なのです。

効果が高い3つの手法を理解

<効果が高い価格政策>

・「アンカリング効果」の活用

 これは心理効果の一種。最初もしくは同時に提示された特徴や価格情報が強く印象に残り、その後の決定や判断に影響を及ぼす傾向のことです。この「アンカリング効果」を活用したのがチラシで「通常価格○○円、今回限り△△円」と記された表記も、この1つ。販売数量の大きな単品やブランド力の高い商品で、数週間連続の期間限定セールを行う場合に非常に有効です。

【値上げ時の活用法】ある商品の値上げ実施日 前後2週間(計4週間)に期間限定セールを行い、セール終了後に通常価格の値上げを行います(※ただし、「アンカリング効果」を活用した価格表記は、二重価格表示として違反のないよう注意が必要です!)。これで販売数量の減少を防ぐのです。

・「プロスペクト理論」の応用

 ダニエル・カーネマンが展開した「不確実性下における人間の意思決定モデルの1つ」といわれています。プロスペクトとは「見込み・期待」という意味で、お客さまは商品選定時に100%の合理性に基づいているわけではなく、リスクや損失の回避によっても商品を選択するという考え方です。

【値上げ時の活用法】「期間中にサービスや商品を購入しなくては損をする」というお客さまの心理を突き、期間限定キャンペーンを行います。期間限定で値上げ商品だけにクーポン券やポイント付与といった特別な特典をつけ、販売数の減少を防ぐとよいでしょう。

・大々的なキャンペーン

 企業(お店)の「価格が安いイメージ作り」に有効な手段です。例えば、日本とEUの経済連携協定のときの対応。EUから輸入するワインやパスタ、チーズなどの関税が変わり販売価格が下がったとき、これを商機と捉えてEUからの輸入品を中心に輸入品全体を値下げするキャンペーンを行うわけです。販売価格を下げられる機会を見つけて活用しましょう。

【値上げ時の活用法】単品ではなく、多品目を同時にプロモーション対象品目として売り込むことで、お客さまの期待に応えられ、企業(お店)の信用が上がります。

<効果に疑問符がつく価格政策>

EDLP(エブリデー・ロー・プライス)

「毎日がお買い得」という掛け声のもと、常に一定の価格で売り続けること。「競合他社との価格競争を終わらせ、自社の収益を安定させる。お客さまに対しても常に安さをアピールでき、来店促進により、お客さまの囲い込みができる」と思われた、この手法ですが、日本では失敗していると言わざるを得ないでしょう。

 理由は簡単。お客さまが安い価格を記憶しているのは、数十品目程度しかないといわれているからです。覚えているのはガソリン、牛乳、食パン、卵、シャウエッセン、バーモントカレー、ゴールドブレンドなど、各カテゴリーで圧倒的なシェアを持つ単品や生活必需商品だけ。それ以外の多くの商品は、そのときのセール価格に基づき、購買意志を決定しているのです(これは売場の前で購入商品〈献立さえ〉を決定していることから分かります)。つまり、値上げ時の価格政策としてのEDLPは有効な手段ではないと思えるのです。

値頃感が重要になる

「値頃」とは、分かりやすくいうとお客さまが「お買い得」、つまり「安い」と思える価格のことです。「高品質廉価」「相場よりも低めの価格」などと表現されますが、価格についての曖昧な表現の1つです。この「値頃」、バイヤーの最重要作業・値付けを行うときに重要になります。

 値付けには4つのレベルがあります。①安過ぎて怪しい価格、②安くてちょうど良い価格(=値頃)、③高いけど売れる価格、④高過ぎて売れない(買えない)価格です。

 バイヤーには、③の高くても売れる価格を見つけ出し、②の値頃価格で値付けをすることが求められます。①と④は失敗なので、値上げ後の値付けがこうならないよう細心の注意を払いましょう。

 絶対に避けるべきが①。後から①を②の値頃価格に戻す(再値上げする)と、消費者が企業(お店)に不信感を抱くことにもつながるので、気を付けましょう。

値付けはバイヤーの意思で行うもの

 値付け方法には、(1)競合企業(店)に合わせて値付けを行う「競争基準型価格設定法」(2)PB商品のように原料からコストを積み上げた「コスト基準型価格設定法」に区分されます。スーパーマーケットの多くは、(1)の方法が多く、競合企業(店)の価格を確認してから、少し安く(値潜り)した値付けを行うわけです。これは間違いではありませんが、バイヤーの役割は商品価値を判断し、自身の意思で値付けすること。これがあるべき値付けの在り方です。

「内的参照価格」になっているか?

「内的参照価格」とはお客さまが価格の妥当性や魅力度を判断する際の基準として過去に経験した記憶から想起する価格のこと、商品価値の対価として妥当と考えた価格をいいます。これに対して、売場に掲示されている価格が「外的参照価格」。

 また、今までの商品購入時に品質やコストなどを考慮した上で公正であると判断した価格を「公正価格」。お客さまが購入や観察を通じて記憶している最低価格を「最低観察価格」と呼びます。

 値上げ後の価格が「内的参照価格」であれば、販売数量に変化はありません。私の過去の経験では、通常価格のおおむね10%(15%未満)の値上げでは、販売数量に劇的な変化はありませんでした。