ネイティブキャンプのタイ版公式サイトの写真。PCでもスマホでも利用できるが、圧倒的に多いのはスマホユーザーだ。

 タイには5000社を超える日系企業が進出している。当初は製造業が中心だったが、業種のバリーションは広がり、今や飲食、サービス業など「何でもあり」だ。

 昨年12月にはオンライン英会話スクールのネイティブキャンプも、タイでの事業を開始した。24時間365日いつでも思い立ったときに英会話レッスンできる唯一のオンライン英会話スクールとして躍進するネイティブキャンプの手応えやいかに。そのチャレンジを追ってみよう。

加熱する英語学習需要を取り込んだ

 英語がペラペラに話せるようになりたい。英語を使ってキャリアアップを果たしたい。外国人観光客に対応できる英語力を身につけたい。五輪を前に日本人の英語学習熱はますます高まりを見せている。オンライン英会話スクールがひしめき合い、高額のパーソナルトレーナー型の英語サービスも登場。英語を中心とした語学学習ビジネスの市場規模は約8666億円と推定されている(矢野経済研究所調べ)。

 加熱する英語学習熱はタイにおいても例外ではない。外国人観光客が多く、英語を共通語とする会社が多いタイでは、英語力は収入を上げる有効な手段の1つ。職業の選択肢を確実に広げる効果がある。そのタイにオンライン英会話スクール、ネイティブキャンプが進出した。なぜタイだったのか。

その理由の前に、ネイティブキャンプの特殊性について触れる

 オンライン英会話スクールというと、「スカイプを通してフィリピン人の講師から英語レッスンを受けるサービス」というイメージを持たれる方が多いのではないだろうか。それは間違いではないが、ネイティブキャンプに関していえば正解ではない。

タイ語で受ける英語のレッスン。楽しく分かりやすく講師は授業を進めていく。

 ネイティブキャンプは、スカイプではなく専用のアプリを通して英語を学ぶオンラインスクールで、料金は月額5950円。予約なしに無制限にレッスンを受けられるサブスクリプションサービスでもある。

 ユーザー数は既に20万人以上。この20万人という数字は、実は日本人以外のユーザーも含んでいる。

 というのも、ネイティブキャンプの教材は世界を見据えてどの国の人も違和感なく使えるように制作されているからだ。英語非ネイティブの学習者全般の支持を集めているのは、他のオンライン英会話サービスと似て非なる点である。

 広報担当の武内彩香氏は言う。

「当初は日本のみにアプリを提供していましたが、海外ユーザーが予想以上に多かったことから、テストマーケティングとして英語版のアプリを提供してみました。すると、タイの利用者が最も多く集まったんです。今後もタイでの英語学習の需要は増え続けると見て進出を決めました」

スピーキングや5分ディスカッション、カランメソッドなど教材は豊富に用意されている。
5分ディスカッションの教材では幾つかのテーマの中からトピックを選んでディスカッションを行う。

 教材は英語で標準化しているが、タイにおいては初級のみタイ語バージョンを追加。料金は月額990バーツ(約3500円)に設定し、2018年12月からサービスを開始した。

 タイの大卒者の初任給が2万バーツ(約7万円)であることを考えると990バーツという価格は決して安くはないが、タイで事業を展開している他の英会話教室やオンライン英会話スクールの相場を踏まえての設定だ。

 日本同様、無料トライアルも実施している。中身は「7日間使い放題」で、この期間であれば何度でも利用できるため、タイ人からは「本当に無料で何度でも使えるのか」という驚きの声が多数寄せられた。オンライン英会話スクールに無料トライアルはつきものだが、だいたいが2回〜3回程度。7日間という期間は例がないので驚きの声が上がるのは当然かもしれない。

日本人とは違うタイ人の傾向

 無料トライアルを経て入会したタイ人ユーザーには、日本人とは異なる2つの傾向が見られるそうだ。

「日本人の場合、入会の理由は『海外旅行で英語をもっと使えるようになりたい』とか『東京オリンピックに備えて英語がもっとできるようになりたい』という、ちょっと趣味目的の動機が目立つのですが、タイ人は違いますね。上昇志向が強いというか、仕事のため、キャリアアップのためなど目的がはっきりとしています」

 目的意識を明確に持ったタイ人から、決して安くはないサービスが選ばれている。それはネイティブキャンプのサービスや教材の中身が英語を真剣に学びたいタイ人から支持され、コストパフォーマンスの良さが評価されているからだろう。

 もう1つのタイ人固有の傾向といえるのが、イギリス人やアメリカ人など英語ネイティブ講師へのこだわりが強いことだ。

登録している講師の数は約8000人。タイ人の間ではネイティブ講師の人気が高い。

 ネイティブキャンプでは、世界100カ国の講師約8000人が登録し、オンライン英会話での授業にあたっている。そのうちネイティブ講師は417人。第2外国語として英語をマスターしたフィリピン人のような非ネイティブの講師が圧倒的多数を占める。

 もちろん、講師として登録するにはネイティブキャンプが設けた基準をクリアしなければならないため、英語を教える講師としてのスキルはネイティブと比べてもそう遜色はない。だが、タイ人はネイティブ講師を好む。英語を習うなら、ネイティブから習いたいというニーズが圧倒的に強いのだ。

フィリピン人講師は授業を盛り上げるのがうまい。徐々に非ネイティブ講師の手腕もタイ人に浸透しつつある。

「ネイティブ講師の予約時には別途、ネイティブキャンプ内で流通しているコインが必要です。1回につき500コイン2枚、日本円にして約1000円分を支払わなければなりませんが、この支払いに抵抗がないタイ人は多いですね。日本では、コインを使ってまでネイティブの講師を予約したいという方はそう多くありませんが、タイ人はそれだけネイティブへのこだわりが強いんです。もっとも、日本もかつてはそうでした。オンライン英会話が普及して根付き始めたことで、フィリピン人のような非ネイティブの講師でも、優秀で英語を学ぶ上では問題がないことが知られてきました。いずれはタイもそうなるのではないかと見ています」

 タイでの目標会員数は初年度で3万人。現状、目標をクリアできるペースで会員獲得が進んでいる。

日本発のプラットフォームが世界に

 タイはスマホの普及率が高く老若男女を問わず、ほぼ誰もがスマホを使っているといっても過言ではない。このスマホ普及率の高い国ではネイティブキャンプにアドバンテージがある。

 なぜかというとオンライン英会話スクールは他にもあるが、他社はスカイプ形式でのレッスンだ。だが、スカイプはスマホでは使いづらい。自分のチャット画面を見ながら、教材も同時に開くという作業はスマホでは見づらいのだ。

 スマホさえあれば簡単にレッスンが受けられる利点を生かしつつ、さらに会員増を図るため、同社はタイ専用の教材の開発も検討している。

「今のところ、オーソドックスな英会話が中心ですが、今後はタイのお寺を舞台にした会話など、教材のカスタマイズにも取り組みたい。支払い方法についても別のオプションの導入を検討しています」

 クレジットカードは普及しているものの、異なる決済方法を好むタイ人は少なくない。LINE Payのようなキャッシュレス決済の他、銀行口座のアプリから直接振り込む方法を好むタイ人も多いのだ。

 特に銀行のアプリは操作性が非常に高く、あっという間に振込が完了する。銀行口座からの振込画面をLINEで送って買物をする。そんな形で買物をするタイ人が多数派であることを考えると、新たな決済方法の導入は必須といえるかもしれない。

 タイに続き、2019年1月に進出した韓国の事業も順調だ。韓国のような既にオンライン英会話が浸透している国で利用者が着実に増えているという事実は、ネイティブキャンプのポテンシャルの高さを示している。

 目指すは「言語のプラットフォーム」。2015年6月にサービスを開始して以来、ネイティブキャンプの世界累計利用者数は開始1年半で3万人、2年で5万人に増え、2018年5月には10万人の大台に乗り、それから1年で利用者は倍増した。スマホの普及率が高い新興国の開拓が進めばさらにこの数字が伸びることは間違いない。日本発のサービスがプラットフォーム化する未来が見えてきた。