先日、私が主宰するワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する、企業とビジネスパーソンの会)の会員歴の長い会員さんと久々にお会いした。そこで心温まる、かつお店の力を再認識する最近の出来事をお聞きした。地方でのワクワク系マーケティング実践会説明会でのことだ。

 彼の業種は電器店。いわゆる「街の電気屋さん」で、かなり以前から厳しいといわれている業種だ。そのお店が、先日、創業70周年の記念イベントを行ったという。私が拝見したのは、そのことをレポートするニューズレター(以下、NL)だった。

 ちなみにNLとは、顧客との絆を育むコミュニケーションツールの1つで、私がワクワク系を本などで世の中に知らし始めた1997年、まだ整ったネット環境や、ましてSNSなどなかった時代に始めた、お客さんとのコミュニケーションのためのダイレクトメールの一種だ。そこでは、商品やセールスの情報ではなく、自分たちのこと(例えば、今月食べた一番おいしかったものや、今年の夏には富士登山をやる、といったようなこと)を語ることがメインなのだが、彼はそれをずっと地道に送り続けてきた。

 今回のNLには70周年イベントの模様が多くの写真入りでつづられており、どれにもたくさんの人の姿と笑顔があった。そして印象深いことは、その会場は彼の店なのだが、家電品が1台も置かれていないことだった。聞くと、このイベントのため、店頭の商品はほとんど全て撤去したのだという。普通、電器店の周年記念祭は、すなわち家電品のセールだろう。しかし同店ではそうではなく、代わりにがらんとなった店内に紅白幕を張り、ステージと観客席をしつらえ、そこは即席のイベントホールとなっていた。イベント当日はそこに多くの人たちが集まって来たのである。

 出し物のメインはコンサート。それも店主らによるものだ。実は店主、趣味でドラムを演奏するのだが、彼らが2005年に組んだ楽団は、その後、町のお祭りなどあちこちで引っ張りだこ。その楽団があまりにも町々の人たちを楽しませてくれるので、その応援に電器屋さんにご用のあるときは同店を必ず利用すると明言するお客さんらが多数いることは、以前、幾つかの連載で取り上げた。そして今回も、店頭には商品が並んでいないにもかかわらず、周年記念祭の売上げも過去のそれを上回ったのである。

 時を経て70周年。NLの紙面からすら感じられるものは、町の人たちに愛されている同店だった。それは、彼らが町に与え続けているものがそのまま彼らに還ってきているようだった。お店というものは、これからどのような存在であるべきなのだろう。私には、その答えの一端がここにあるような気がしたのである。

※小阪裕司先生の連載最新回は、毎週金曜日の午前5時に公開します。「これまで公開した記事」と併せてお読みください