『ONE PIECE(ワンピース)』や『進撃の巨人』は、誰もが認める人気作品です。漫画雑誌の連載から人気が出てブレイクし、テレビアニメ・映画化され、たくさんの関連イベントやグッズが生まれました。読者は毎回お金を出してコンテンツを購入し、原作購入者は「毎週の連載を楽しみにする雑誌派」と「まとめ読みするコミックス派」とで分かれていました。

 ところが、こうした動きとは違う形の人気連載が増えてきています。

無料ウェブ連載が起点となる

映画『美人が婚活してみたら』では、黒川芽以さん、中村倫也さん、田中圭さんなど、旬なキャスティングが実現した画像は 『美人が婚活してみたら』 トップページ より)。
原作の『美人が婚活してみたら』は、無料まんがアプリVコミ連載で1000万PVを突破したとあるアラ子氏の作品(画像はVコミより)。

 2019年3月に映画化がされた『美人が婚活してみたら』は、漫画家のとあるアラ子氏が友人の婚活を漫画化したものが原作です(現在も連載中)。掲載場所は無料まんがアプリ「Vコミ」。内容の面白さはもちろんですが、恋愛や仕事に迷いながら婚活をする女性への共感性や、続きがスマホアプリで手軽に読めることなどから大きな反響を呼び、1000万PVを集めました。

「Vコミ」だけでなく、基本的に漫画アプリの利用料金は無料です。1話ずつ読むことができ、一定時間が経過すると次の話が読めるものが主流。課金方法は広告を視聴すると見られる、早く続きが読みたい人向けに課金すると話を読み進められる「先読み」機能、一定期間経つと過去の無料公開作品が有料化するなど、アプリによりさまざまです。

 また、漫画アプリの連載ではスマホに合わせて、タテ型で読むウェブトゥーン型の作品が多いのも特徴です。紙の漫画のように1ページに複数コマ割りがされているものだけではなく、縦スクロールしながら読み進められるようになっています。

日本テレビでドラマ化される「偽装不倫」も、原作は東村アキコ氏のLINEマンガ。主演は杏さん(画像は日本テレビ「偽装不倫」公式サイトより)。

 他にも、東村アキコ氏の「偽装不倫」は日本テレビにて19年7月からドラマ化が決定しています。電子マンガサービス「LINEマンガ」にてこちらも現在連載中です。

 東村アキコ氏はマンガ大賞受賞など、既に活動実績を多数持っている有名漫画家です。学生の講義にて「コミック誌の定期購読をしている人はほとんどいないけれど、無料漫画アプリの人気作品は知っている」という状況に驚きを覚え、チャレンジのつもりでこの連載を始めたと語っています。

 既に一定数のファンを集められていることで、映画・ドラマ化につながるというのは『ONE PIECE』や『進撃の巨人』と同じです。しかし、その入り口は「無料の漫画アプリ」の連載がきっかけで、読者は初期コンテンツに大きなお金を支払っていないのです。

求められる力が変わってきている

 今まで人気漫画家といえば漫画雑誌での連載を複数抱え、画力やストーリー構成なども抜群にうまく、新作発売日には単行本が必ず本屋に並ぶという全ての総合力を持つ、限られた一部の人というイメージだったように感じます。

 しかし最近では、人気漫画家の定義自体が変わってきています。もちろん漫画家というからには「絵を描く」力は必要ですが、誰もが認める「絵のうまさ・緻密さ」だけではなく、ストーリー性、共感力、SNS発信も含めた本人の人柄、更新頻度、読みやすさなどが画力と同じくらい大事な一要素になってきているのです。

 多くの漫画アプリでは、作品の後にコメント欄が設けられています。読者からのリアルな感想がたくさん並び、ストーリーについての意見や好きなキャラクターについての思い、サイト運営者への要望や不満まで書き込まれています。作者は読者の反響をダイレクトに感じながら作品を作り続けることになります。

「偽装不倫」の最新話59話に寄せられているコメントは、1209件(19年5月21日時点)。ストーリーの感想やキャラクターへの思い、ドラマのキャスティングについてのコメントなど、いわゆる誹謗中傷ではなく読者の生の声が寄せられている。

 漫画家へのこうした作品への姿勢が、次の仕事につながっているように私には見えました。もちろん作品の内容も素晴らしいことは大前提ですが、2つの漫画が映画・ドラマ化されたのは、既に一定数のファンが付いていたからです。そして、そのファンは有料漫画雑誌ではなく無料漫画アプリでの連載だからこそ得られたファンだともいえると思うのです。

価値観の多様化が進む中、何を売るか

 こうした状況は、漫画だけではないと考えています。

 一例を出せば、「販売員であれば接客が上手でなければならない」ということは、今までは絶対でした。アパレル各社や商業施設は顧客満足度を上げるために、人前で疑似接客を行うロールプレイング大会を定期的に行っています。

 どんなに人柄が良くても、売上げが取れなければ経営は成り立ちません。今でもいわゆる対人接客が求められる店は多いですし、接客が重要な要素であることは間違いありません。

 

 ただ、その他の要素ーーSNS発信、販売を頑張る姿勢、物づくりの背景などを、対人接客以上に強く求める人も増えてきているように感じるのです。これらは数字では見えにくい部分ですが、「(接客レベルはまだ未熟だけれど)頑張りが評価されて売上げにつながった」という事例が、従来よりもじわじわと増えてきているように感じます。

 最初は、本当に優れた対人接客を受けたことがないからこそ、お客さまが別の要素を求めているのかと思いました。しかし、それだけではなく対人接客の素晴らしさを知っていても、別の要素を重要視している層が出てきたというのが現実でないかと思うのです。

 先日、コンビニで賞味期限が迫った対象商品の購入者にポイントが還元される、実質値下げ販売が行われるというニュースがありました。スーパーマーケットでも、他の商品と比べると安くはない有機野菜やオーガニック食品のコーナーが増えてきています。

 これらも、漫画と同じように「コンビニには新しい商品を買いに来る」「スーパーマーケットは安さが第一」という、今までの価値観ではない新しいニーズが増えてきた事例だと私は考えています。

 

 もちろん従来通りの価値観を望んでいる人も多いです。その一方で、それだけニーズが多様・複雑化してきているともいえます。

 漫画でいえば評価される要素が増えることで、作り手にチャンスが増え、読み手にはより自分の趣味に合った作品を探す楽しみができました。

 流通業界でも同じではないでしょうか? お客さまは変わっています。今はまだ、キャリアや業務経験の少ない人や実績のない会社・商品にも、新しい価値感が増えたことでチャンスが増える社会になればいいなと思っています。