時代とともに変化する味

「ヒゲタ醤油は、醸造技術を大切にしてきて、『本膳』は、築地の高級割烹つきぢ田村の初代田村平治さんに『美味しいお醤油を作りなさいよ』と言われて微生物から選んで開発してつくりました」

 醤油の国内消費は激減している。特に、家庭用の醤油は落ち込みが激しく、1985年から2015年までに半分以下に減っている(『醤油』吉田元著 法政大学出版局刊)。家で料理を作ることが減り、食生活も洋風化し、またポン酢や麺つゆといったものも家でつくらず、買ってくるようになった。醤油の総需要が減る中で、全国で約1200社ある醤油メーカーはしのぎを削っている。キッコーマン、ヤマサ、ヒゲタ、ヒガシマル、マルキンの5社で国内消費全体の5割を占めているが、そうした状況の中で、活路を見いださなければならない。

 ヒゲタ醤油は、醤油を時代とともに変化させ、少しずつ低塩化、淡色化、うま味を強くし、それに併せて醸造技術を進歩させてきた。7割が業務用で、家庭用はごくわずか。昔からお蕎麦屋さんから絶大な信頼を得ているが、ブランド価値を高めるために「本膳」(1988年発売)、「玄蕃蔵」(1991年発売) 、「高倍」(1997年発売)という高品質の商品を出してきた。

 私はいろいろな調味料を試すのが好きなので家に「本膳」を常備しているが、風味がよく、色がきれいで、味わい豊か。お刺身を食べるときなどピッタリだ。

「ヒゲタ醤油は、醸造技術を大切にしてきて、『本膳』は、築地の高級割烹つきぢ田村の初代田村平治さんに『美味しいお醤油を作りなさいよ』と言われて微生物から選んで開発してつくりました。ヒゲタは、独自の低温発酵、低温熟成技術で高級ブランドを開発し、和食や寿司屋のプロや職人から愛用されています」(同)

 他の醤油メーカーは、売上げに占めるつゆやたれ類の比率が高いが、ヒゲタ醤油は醤油比率が高い。今後は醤油醸造と、加工調味料、応用微生物の3分野で事業展開を図っていく考えだ。

醸造技術の延長線上にある分野へ

「損をしないようにほそぼそと、それでも応用微生物の分野でやっていけたらいいな」と、研究開発の火を燃やし続けている。

 微生物を応用する技術は、醸造の延長線上にある。かつては麹菌のゲノム解析をしたり、2000年にはバイオベンチャーキャピタリストと組んでプロテイン・エクスプレス社をつくり、かずさDNA研究所のヒトの遺伝子cDNAを使って抗体を作り、創薬シード開発を目指したことがあった。3年間で撤退したが「研究所の社員には良い勉強になったと思う」(同)と語る。

「もともと醤油づくりは微生物を活用して、よい醤油を目指すことの連続です。応用微生物の研究はシーズからくるもので、醤油づくりの原点でもあります。ブレビバチルスチョウシネンシスという微生物を見つけ出し、大腸菌とは差別化した菌体外にタンパク質を大量に、効率的に作り出すことに成功しています。これに遺伝子技術を使って、いろいろな種類のタンパク質を作り出す技術を持っています。今やっていることは、医薬品の生産工程の中で使うタンパク質を作り出す事業です。もちろん製薬メーカーと組んで進めていますが応用微生物活用事業として、身の丈に合った分野で何とかこの事業を実らせたい」(同)と願っている。

 以前、羊の毛刈りに役立つとして応用されたことがあった。オーストラリアでは、羊の毛刈りは重労働である上に、羊にとっても体をバリカンで傷つけられてしまうことがあるため課題となっていた。ヒゲタ醤油でブレビバチルス菌を利用して生産したタンパク質医薬品を羊に注射すれば自然に毛が抜け落ちるのでオーストラリアの動物薬メーカーに原料を供給していたのだが、実用化するに至らなかった。他にも微生物で培った技術を生かして数々研究開発しているが、今のところまだ成功していない。

「損をしないようにほそぼそと、それでも応用微生物の分野でやっていけたらいいな」(同)と、研究開発の火を燃やし続けている。