アメリカの小売業者は積極的にスマホアプリを活用して「オムニチャネル」の実現を追求してきた。それらの事例を見ると、スマホを使った決済は、アプリでできることのほんの一部にすぎないことが分かる。既に提供されているサービスやモバイルサイトを組み合わせることで、自社専用にカスタマイズしたアプリを提供することも可能になりつつある。アプリは小売ビジネスの形を大きく変える可能性を秘めている。

アプリの活用が上手なアメリカの小売業者

 アメリカの老舗百貨店Macy'sは、2011年の決算報告書で「オムニチャネル企業を目指す」と宣言して、ネットと店頭の両方において顧客の要望に対応できる体制を構築したことで知られる。Macy'sはその第一歩として、直販ECサイトの取り扱いアイテム数を実店舗と同じ約6万点に拡大するとともに、店頭の商品全てにRFタグを取り付けて、店頭で品切れの商品でも、別の店舗もしくはECサイトに在庫があるかどうかをリアルタイムで確認できるようにした。さらに、他の店舗に在庫があると分かると、在庫のある店舗からお客に直送するシステムを確立した。この施策により、品切れによる販売の機会損失を削減でき、結果としてECサイトの売上げが急増した。

 Macy'sは、顧客との接触機会を増やすチャネルとしてスマホを重視しており、業界でもいち早く公式のスマホアプリをリリースしている。2012年のクリスマスには、当時としては最新のAR(拡張現実)技術を採用したキャンペーン用のアプリを公開して話題を呼んだ。その後も、Pinterestの写真から直接商品が購入できる「Buyable Pins」にサービス開始時から参加したり、Googleがモバイル検索の結果ページに表示する「Buyボタン」のスポンサーになるなど、スマホを活用した先進的なマーケティングに積極的に取り組んでいる。

 そのMacy'sが、2016年6月に満を持して公式アプリに追加した新機能が「店内モード」である。お客がアプリを起動したまま、Macy'sのある店舗に入店すると、その店舗専用にカスタマイズされた店内モードに自動的に切り替わる。その店舗のフロアマップが表示され、今行われているキャンペーンなどの情報が、アプリを通じて提供される。この機能には、近距離無線通信を使ってスマホの位置情報を把握できるビーコンと呼ばれる技術が使われている。電波が受信できる範囲が細かく設定できるため、ある商品棚の前にいることを認識して、その商品に関する情報をアプリにプッシュ通知することもできる。その他にも、商品のバーコードをスキャンすればセール価格の有無や購入者のレビュー、在庫状況までスマホ画面に表示される。いわば、アプリが店内ショッピングのガイドをしてくれるようなものである。

アプリにはさまざまな外部機能を組み込める

 実店舗での快適な買物を支援するのに加え、アメリカの小売業者がアプリの機能として力を入れているのが、注文や決済の利便性である。Macy'sの例でも、店頭で品切れだった商品を、その場でオンラインで注文する人や、店頭で商品を実際に見て買う商品を決めて、商品は自宅に配送してもらうという人も増えている。

 アメリカでスピーディーな決済手段として人気が高いのが、「Apple Pay」や「Android Pay」である。ボタンを自社アプリに設置できる開発ツールが公開されているので、アメリカの有力小売業者の公式アプリには、これらのスマホ決済サービスを簡単に使えるボタンが組み込まれている事例が多い。ネット通販業界の専門誌『Internet Retailer』が発行している「Mobile 500」2017年版に掲載されてる500社のうち、注文を簡素化する何らかの機能をアプリに採用しているのは142社に上り、うち51社が「Apple Pay」ボタンを組み込んでいるという。このように、外部のサービスを柔軟に組み込めるのが自社アプリを開発するメリットの一つともいえる。