情熱あふれる生産者と交流して「正しい焼肉店」を開業

 ここで萬野屋の沿革と同社代表取締役の萬野和成氏の活動について紹介しよう。

 萬野屋の原点は、昭和5年(1930年)に大阪府羽曳野市で萬野氏の祖父母が創業したもの。牧場経営、屠畜解体、枝肉を流通する事業で、来年で創業90周年となる。その後、萬野氏の父母に受け継がれ、小売店、業務用卸も事業として加わった。

代表取締役の萬野和成氏。牛肉の飼育から販売までのあらゆる分野を学んできた牛肉のエキスパートだ

 萬野氏は1963年8月生まれ、大阪市出身。1984年に祖父母の会社に入社して主に生体牛屠畜および内臓処理業務を担当、85年枝肉を加工する精肉会社に入りさばき職人の修業を行い、86年に祖父母の会社に再入社して小売部門に配属され、各精肉売場を巡回した。以後、20年間に渡り、牧場管理、生体牛や枝肉の仕入れ、業務用(レストラン用)卸を行った。

 この業務用卸は小売店の売上げが減少する中で大きく活路を見いだして、取引先を4年間で1000店舗まで拡大した。このように牛肉のエキスパートとして牛肉を扱うあらゆるものを経験してきた。

 97年に萬野屋の前身となる個人会社を設立し、主に飲食店舗開発のサポートを行った。ここでは焼肉店のための技術研修制度や顧客管理ソフトの開発も行った。

 このように牛肉のあらゆる分野にかかわってきた萬野氏は、和牛に魅せられて全国の生産者や牛と出会う。そこで飼育している牛にあふれんばかりの愛情を注いでいる生産者が存在することに感銘を受け、交流を重ねた。

 しかしその当時、牛肉の業者に「牛肉偽装問題」が顕在化している状況に対して、生産者の牛に対する意識との温度差を強く感じるようになり、萬野氏自らが「消費者の信頼を裏切らない本物の肉を食べられる飲食店をつくろう」と、「正しい焼肉店」の店舗開発に踏み切った。

 1号店(28坪64席)は、あえてJR大阪環状線のガード下というC級の立地に出店。これは立地条件ではなく商品力で繁盛店をつくろうと考えたからだ。競合する有力店がひしめく鶴橋の近くにありながら、「やきにく萬野」はオープン直後からたちまち繁盛店となり、月商1300万円に達した。

生産者との交流と高度なこだわりで「萬野和牛」が誕生

萬野屋の肉は「極雌 萬野和牛 Premium Queen’s Beef」というブランドを確立している

 さて、今日萬野屋が販売している精肉は「極雌 萬野和牛 Premium Queen’s Beef」(以下、萬野和牛)というブランドを持って流通している。これは前述の通り、萬野氏の熱心な生産者との交流から生み出されたものだ。

 牛には一頭一頭個性があり、それを目利きできるのは丹念に愛情を込めて牛を見詰めている生産者であることを萬野氏は知った。一流の生産者は、じっくりと牛のピークを見極めて最高の状態に達したときに出荷している。

 そこで萬野屋では、このような全国の優秀な生産者とコミュニケーションを密接に取って信頼をつくり上げ、選別したものを「萬野和牛」のブランドとして販売している。この条件は大まかに、「未経産の雌牛」「月齢30カ月以上の長期肥育」「脂肪の融点が低い」「肉質の濃度が高い」ということだ。

「仕入れのこだわり」の後に、「技術のこだわり」がある。萬野和牛は、屠場で処理されてから自社精肉工場で骨抜きとさばきの作業を行い10日前後で提供。これらの赤身肉には素材の良さを最大限に引き出す「萬野屋 匠の隠し包丁」が施されている。

 さらに、「鮮度のこだわり」も。内臓は全国17の市場から毎日フルセットで届き、これらを時間管理して精肉工場でさばいて自社店舗に供給している。例えば、センマイ、レバー、ココロなど、部位によっては最短72時間で廃棄するものもある。

 近年、焼肉店では赤身肉をロース、カルビという呼称ではなく、部位別の呼称を商品名としているところが増えてきた。例えば、「モモ」をさらに細かく「マクラ」「マルシン」「イチボ」、「友バラ」を「カイノミ」「カッパ」「インサイド」という具合である。

 その点、萬野和牛はその先駆けである。1号店の当初からこれを実践し、お客さまからの信頼を得てきた。現状、萬野和牛には部位名が80存在する。このような呼称を持つ焼肉店や精肉店は他に例を見ないのではないか。

絶好調「焼肉店ブーム」の中で強烈な魅力を発信する

 萬野和牛で大切にしているものは「ドメーヌ」である。ドメーヌとはフランスのワイン生産者で主にブルゴーニュ地方の1人の生産者が所有する区画を意味している。ボルドーの「シャトー」に類する言葉であるが、貴族が所有するシャトーに対して、ドメーヌは農場主という感覚あり無骨で律儀な職人という意味合いがある。

 萬野氏はそれに倣って萬野和牛は、どこの、どんな人が、どんな餌で、どんな環境の中で牛を育てているのか。このようなことを重視していることを表すものとして「ドメーヌ」という言葉に託している。

 焼肉店業界は2001年9月に日本で発生したBSEと、2003年12月アメリカで発生したBSEによって大きなダメージを受けたが、後に回復基調となり今日は大きく隆盛している。これに派生するトレンドとして「肉バル」や「肉食女子」という現象も生まれた。

 焼肉店業界の動向を見ると、客単価ごとに業態が分かれて存在するようになり、それぞれの業態が活性化してきている。具体的には4500~5000円、6000~7000円、8000~1万円というカテゴリーに分けられる。さらに、“一人焼肉”で客単価1400円の「焼肉ライク」が急ピッチで展開するようになった。4500~5000円の業態は「手頃な価格」というゾーンの中で直球のクオリティでのぞんでいる。そこから上の客単価も肉のクオリティや提供方法にその客単価を納得させるものがある。

 このような動向は焼肉店を利用するお客さまの経験値が高まり、それぞれの客単価の価値を認めるようになったからと考える。

 その点、肉のクオリティにこだわり繁盛店を築き上げて店舗展開している萬野屋が「精肉工場のアウトレット」というニュアンスの施設をつくり上げ、それが放つ圧倒的な商品力とイメージの高さは、絶好調の「焼肉店ブーム」の中にあって強さを大いに発揮することであろう。