ガラスと鏡を多用した売場はスタイリッシュ。タイ人好みの売場づくりだ。

 スーツ専門店で毎日タキシードが必ず1着以上は売れていく――。さて、この国はどこでしょう?

 日本でもなければ、アメリカでもない。中国やシンガポールも違う。正解は「タイ」だ。タイに進出しているコナカの店舗『スーツセレクト』では、日々、タキシードを買い求めるお客が訪れる。

 オーソドックスなスーツやシャツ、コートの購買意欲も旺盛だ。意外なほどにファッションリテラシーの高い男性が多いタイに、コナカはどのような戦略で挑んでいるのか。その試みを紹介しよう。

スーツ、シャツとも価格は2プライス

セントラルワールドにあるフラッグシップ店。開口部が広く、ガラス張りの店舗は遠くからもよく目立つ。

 バンコク中心部にある巨大ショッピングモール・セントラルワールド。その一画に『スーツセレクト』の店舗がある。

 バンコク市内に展開している8店の中でフラッグシップとして位置付けられている、この店の売場面積は約150平方メートル。天井の高さを生かしたガラス張りの店舗は華やかで、否が応でも人目を引く。日本の『スーツセレクト』のイメージを覆すスタイリッシュさだ。

 店の前の通路は通行客が多く、常に人通りが絶えない。ロケーションの良さが見て取れる。

 だが、以前は違ったという。コナカの社長、湖中謙介氏は振り返る。

「前はもう少し閑散としていましたが、だんだん人通りが増えてきました。『スーツセレクト』の売場も以前とは様変わりしています。タイ人の志向を踏まえ、デベロッパーと交渉し、入り口開口部もレギュレーションぎりぎりにまで広げ、全面ガラス張りのスケルトンに変更したんです」

コナカの代表取締役社長、湖中謙介氏。

 この店だけが、セントラルワールドのお客の動線を変えたわけではない。近くには人気ブランド店も増えている。だが、タイ人好みのスタイリッシュな外観とディスプレーを備えた『スーツセレクト』の存在が一定の役割を果たしたことは確かだろう。

『スーツセレクト』で販売しているのは、トレンドを意識した「ブラックライン」とトラディショナルな「シルバーライン」のスーツ。価格は1万1990バーツ(4万2000円)と1万5990バーツ(5万6000円)の2種類だ。シャツも2プライスで展開している。客単価はセントラルワールド店は約8000バーツ(約2万8000円)、他店は約7000バーツ(約2万5000円)。

 売上げは順調だ。数字は公表されていないが、スーツを目的買いする店として認知され、リピーターも増加している。

1995年 工場開設、2012年 店舗展開

 コナカがタイに進出したのは1995年。この年、工場を開設し、生産地としてのビジネスをスタートした。消費地としても捉え、タイでの店舗展開をスタートしたのは2012年。同じ年にはやはり工場のある中国、そしてシンガポールにもスーツセレクトをオープンしている。いずれも、日本の紳士服マーケットが大きく縮小する2025年から2030年の将来を見据えての先行投資だ。

 だが、両国の販売事業からは既に撤退。店が残ったのはタイだけだ。

「リサーチ時点では、1人当たりの所得が高いシンガポールの方が有望だと考えていました。しかし、いざ、ふたを開けてみるスーツにお金をかけない国民性だということが分かった。リサーチでは知りえなかった実態です。中国もシンガポールと同様でした」

 GDPも1人当たりの所得もシンガポールはタイよりはるかに上だが、基本的に男性は洋服に無頓着。年間を通して暑いお国柄のため、経済的に余裕があっても年中、ポロシャツだけで過ごすという男性が珍しくない。

「カジュアル化」が進む日本とは異なる傾向

スーツらしいスーツを好むタイ人。機能性に走る日本人とは対象的だ。

 暑さだけでいえばタイも常夏の国の1つだが、洋服に対する意識が決定的に違う。オフィスに勤務する中流層以上の男性に限っていえば、スーツの形や生地などディテールにも強いこだわりを示し、TPOに応じてしっかりとスーツを着こなしたいと考える人が多いのだ。

 その意識の高さは日本男性のそれとも大きく異なる。日本では「家で洗える」「シワにならない」「蒸れない」という機能的なスーツが主流になっているが、タイで重視されるのは機能よりも「スーツらしさ」だ。シャツはコットン製で長袖が、スーツの生地はウールが断然支持される。化学繊維の機能性に走り、スーツのカジュアル化が進行する日本とは対象的だ。