イラスト/永谷せん

 大好きな異性に頭をなでられるとキュンとするという女性の声をよく聞きます。

 なでられて心地よさを感じるのは、頭にも触覚があるからです。正確に言えば、触覚があるのは髪の付け根(毛根)の部分なのですが、なでられるとそこにある毛根終末という受容器が刺激されて、心地よさを感じるようにできているのです。

  ただし、触覚は原始感覚なので、好き・嫌いと快・不快の感情が直接的に結び付いています。好きな人に触れられれば心地よく感じますが、好きでもない人に触れられると逆に不快を覚えてしまうのです。ですから、男性が異性に触れる際は細心の注意が必要です。好意を抱いてくれている人ならまだしも、そういう感情を抱いていない人に触れると相手を不快にさせかねません。

 そのせいで「セクハラだ」と訴えられることだってありますからご用心を。とはいえ、好意的な相手からのスキンシップはやはりうれしいものです。ちょっとした触れ合いが、相手との心の距離をぐっと縮める効果があることは心理学的にも証明されています。そうしたスキンシップのことを心理学では『タッチング』と呼びます。

 この『タッチング』の効果を最大限に活用しているのが政治家やアイドルたちでしょう。選挙や新曲発売のイベントで、彼らが1人でも多くの有権者やファンと握手をするのは、『タッチング』の方が、長い演説や下手なおしゃべりより何倍も心の距離を縮める力があることを知っているからです。

 アメリカでは、随分前から握手の効用は知られており、選挙戦略としてかなり早い時点で導入されていました。日本では、故・田中角栄元首相が本格的に導入したことをきっかけに広まったといわれています。

  そうした『タッチング』の効用を接客で活用しない手はありませんよね。「でも、お客さまと握手をする機会は滅多にないし……」。

 そうお思いかもしれませんが、ご安心を。『タッチング』には、握手以外にもさまざまな方法がありますから。例えば、一度接客したことのあるお客さまが来店されたときなどは、「お久しぶりです」と声をお掛けするより、肩や背中に軽く触れてあなたの存在に気付かせる方が親しみの情を伝えるにはずっと効果があります。

 お客さまが発した軽いジョークに、笑うだけでなく「笑わせないでくださいよ、もう」などと言いつつ、腕などに触れるという手もあります。また、お客さまとの会話中に「肩に埃が」と言ってさり気なく触れる、それだけでも心の距離を縮めるには想像以上の効果があるのです。

  では、そういう接触を好まないお客さまの場合はどうすればいいでしょう。

 そういう場合は、お客さまの持ち物に触れてみましょう。例えば、お客さまが素敵なバッグをお持ちであれば、それを誉めて触らせてもらうのです。心理学では『拡張自我』といいますが、相手の愛着のある所有物はその人の一部分でもあるので、それに触れることは、相手に触れるのと同じ効果が見込めるのです。

「まあ、素敵ですね、そのバッグ」と言って、触らせてもらうだけで、お客さまとの心の距離がぐっと近づくということ。会話も弾み、お客さまの財布のヒモが緩むことだって期待できます。

 ぜひお試しください。