前回、スーパーマーケットで、「売る」視点を変え、価値を訴求したら、売れ行きが大きく変わった話をした。今度はそれを数店舗で同時に取り組むとどうなるかという話をご紹介しよう。

 商品は雪かき用のスコップだ。一流メーカーのもので、機能性も高いが、スコップとしてはやや高価なもの。この会社では雪がよく降る地域に9店舗を持ち、この商品を店頭でそれなりにPRしてきたが、ある年の販売実績は、全店で13本だった。

 そこで次の年には、ワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)の「売る」視点と方法を取り入れ、拡販を試みた。例えば、幹線道路沿いのある店では、車からよく見える位置に「イライラしない雪かきあります」と大きく書いた貼り紙をした。「イライラしない」という文言は、この商品の持つ価値の訴求だ。通常のスコップの場合、雪の質によっては、持ち上げた雪を放り投げるとき、スコップから雪が離れずイライラが募る。ところがこのスコップには特殊な機能があり、雪切れが格段に良いのである。そうして貼り出してみると、「あのイライラしない雪かきって、どんな雪かきなの?」「旦那に、イライラしない雪かき買って来てって、買いに行かせたよ!」と多くのお客さんが反応した。他の幾つかの営業所でも同様の訴求をチラシなどで継続的に行い、前年の10倍以上、159本を売ることができた。

 そしてさらに次の年。このスコップに対し全店でチラシや店頭のPOPをワクワク系的に各自工夫。各店店長を集めて行う会合でその成果を共有していった。そうした結果は、9店舗で736本。一昨年との対比では、なんと56倍が売れるようになったのである。

 この一連の成果は「売る」視点を変え、価値を訴求したことによる。雪切れが良いことはこの商品の特長だが、そこを各店で「湿った重い雪、得意です」「ポイポイ雪が放れます」など、さまざまな言い回しで、チラシやPOPで訴求した。「価値を訴求する」と言うと既に実行されていることのように思えるが、実際には商品のスペックを語っているだけのことが多く、それでは価値は伝わり難い。その点、彼らの取り組みは良く、中でもある店のチラシでの「笑って雪かきできました」という言い回しは秀逸で、買う側は買った後、自分たちの生活がどう変わるのかがイメージしやすかっただろう。

 また、数字が大きく伸びた背景には、ある店でうまくいったことを全店で共有し、広げていったことがある。多店舗展開している場合、そこが肝要だ。そうしてこの会社では、今や全店がこの考え方・やり方に慣れ、他の商品でもどんどん成果が出ているという。「みんな、今はとても楽しそうにやっています」とは、全店を統括するマネジャーの談である。

※小阪裕司先生の連載最新回は、毎週金曜日の午前5時に公開します。「これまで公開した記事」と併せてお読みください