アマゾンジャパンがプライム会員料金の値上げに踏み切ったことが話題を集めているが、昨春には出品企業に対する手数料の値上げと協力金要請にも踏み切っており、4割といわれるヤマトの宅配料金値上げや人件費の高騰によるコストプッシュを吸収しきれなくなったと見られる。それはアマゾンだけでなくEC事業者に共通する課題で、宅配料金値上げを契機に大半の事業者が送料の顧客転嫁に転じている。その一方で先進的な大手小売チェーンは宅配物流に依存しないC&CでEC専業者に対するアドバンテージを確立しつつあり、守勢を脱して反攻に転じている。

宅配外注費がEC事業者を圧迫

 アマゾンジャパンは5月17日以降の切り替え分からプライム会員の年会費を従来の3900円(税込、以下同)から26%アップの4900円に、月会費を400円から25%アップの500円に改定すると発表したが、米国でもプライム会員年会費は2014年3月に79ドルから99ドル、18年5月に99ドルから119ドルへ値上げされており、今回値上げしても米国の4掛け以下と割安であることには変わりない。それでも利用者の困惑や反発が話題になっているが、アマゾンにしては無理もないことだ。 

 アマゾン米国本社決算の直販事業売上げとサードパーテイ収入から推計される商品販売額(直販とアマゾンが宅配外注費を負担するFBAの合計)に対する「シッピングコスト」負担率は、宅配料金が日本の倍以上という米国売上が68%(AWS事業を除く)を占めることもあって14年(12月期、以下同)の9.5%が15年は10.6%、16年は11.8%、17年は12.2%、そして18年は13.3%と年々、高騰して採算を圧迫している。アマゾンジャパンの平均的なFBA出品手数料率から推計すれば「シッピングコスト」だけで手数料収入の半分以上が吹っ飛んでいる計算になるから、後述する他の理由もあって宅配業者に依存しない自前の宅配体制の拡充を急ぐのも当然だ。

 アマゾンの海外事業は18年も658.7億ドルの売上げに対して21億4200万ドルの赤字で採算改善が急がれる中、宅配料金の大幅値上げに圧迫された日本事業(AWSを除く海外売上げの21%を占める)の収益は大きく悪化したはずで、出品企業に対する手数料の値上げや協力金だけでは埋めきれず、プライム会員料金を値上げせざるを得なくなったと思われる。

 

 宅配料金の大幅値上げに圧迫されたのは他のEC事業者とて同様で、ZOZOの取扱高対比「荷造運賃」比率は17年3月期の4.2%から18年3月期は5.2%と24%、18年第3四半期の5.0%から19年同期は6.5%と30%も上昇している。宅配運賃値上げを受けて主要ECモール事業者は送料の顧客負担に転じており、16年(3月、以下同)調査で4モールあった「完全無料」が18年調査では皆無になり、「買い上げ金額に関わらず定額徴収」が1モールから9モールに増えている。

AWS(アマゾン・ウェブサービス):クラウドコンピューティングサービスで推計34%と世界一のシェアを確立しており、売上げは全社の11%でも営業利益では58.7%を占める。

FBA(フルフィル・バイ・アマゾン):アマゾンに在庫を預けて宅配出荷まで委託する出品サービスで、FBAを選択しないMP(マーケットプレイス)出品はアマゾンから注文・宅配情報を得て出品者が宅配出荷する。

宅配業者の自己都合がC&Cを広げる

 宅配業者の採算と待遇の改善を図った大幅値上げはEC事業者の採算を圧迫して顧客に転嫁される結果となっており、送料の顧客負担が広がればわが国で主流だった「宅配受け取り」が見直されることになる。

 宅配料金がわが国の倍以上で不在率も高い欧米では早くから店舗や専門受取所(英国のPUDOやハンガリーのPPPなど)での受け取りが定着しており、英国では過半を占める。店舗小売業者のECでは注文品の引き当てや出荷もわが国のように物流倉庫からとは限らず、顧客に近い店舗の在庫を引き当てて店から顧客に宅配出荷したり顧客の指定する店舗で渡したりする方が主流だ。そんなECと店舗の連携と店舗の物流拠点化を英国では「C&C」(クリック&コレクト)といい、米国でも観念的な「オムニチャネル」から現実的利便の高い「C&Cオムニコマース」へ急速に移行している。

 欧米諸国に比べ安くて速くて便利で正確だった故、日常生活に定着した「宅配」だが、大幅値上げや不採算サービスの切り捨てでその前提が崩れれば「宅配」の抱える根本的な問題が露呈し、わが国でも欧米型のC&Cへ移行していくことになる。

 顧客としては送料負担を避けたい、自宅以外の都合の良いところで受け取りたい、早く受け取りたい、面倒な返品手続きを避けたいから試してから決めたい、売り手としても宅配外注費を抑制したい、競合社より速く届けたい、返品率や返品消耗率を抑制し返品手続きを効率化したい、在庫引き当てを効率化したい。そんなニーズに非効率で融通が利かない今の宅配システムは応えようがないのが現実だ。