気さくな人柄の粟田社長

 丸亀製麺などを運営するトリドールホールディングスは積極的に海外で事業展開をしている企業だ。筆者がビジネスを展開している香港にも丸亀製麺がある他、香港の有名店を買収して大ニュースとなった。それ以外でも、アメリカ、台湾、インドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピン、イギリス、オーストラリアなど世界中に店舗を構える。同社の粟田貴也社長に海外事業にフォーカスを置いた話を聞いた。

店舗展開は着実に行っている

 トリドールは2019年1月末現在、国内1082店舗、海外578店舗の計1660店舗を展開。国内では「丸亀製麺」を筆頭に、焼き鳥などの「とりどーる」、ラーメン店の「丸醤屋」、ハワイアンカフェの「コナズ珈琲」などを運営。海外では「MARUGAME UDON」、香港では米粉麺の「譚仔雲南米線」や「譚仔三哥米線」、マレーシアではスープヌードル・チェーンの「Boat Noodle」、バルセロナから始まったタイの屋台料理をモデルに西洋のテイストが融合した「WOK TO WALK」、ハワイスタイルで食べる海鮮料理の「Poke」など形態は幅広い。今後も国内外問わず「出店は続いていく予定です」と粟田社長は語った。

 最近、外食業界では「いきなり!ステーキ」の失速は拡大路線を一気に進め過ぎたともいわれているが、トリドールの出店ペースを聞いてみると「われわれはさまざまな業態をやっているので、状況によっては店の形態を変えられます。また、過去の経験から出店は着実に行っている感があります」と出店ペースのマネジメントはコントロールしているという認識だ。

海外進出のパートナー選び

 最初は海外に進出する気持ちはなかったそうだ。「あるとき、ハワイの外食産業を視察する機会があり、朝散歩をしているとき『For Lease』という看板があった店を見つけたのです。『ここで丸亀製麺をしたらはやるに違いない』と思いました。すぐ連絡を取ったのですが、そのときはダメでした。ただ、海外進出のタイミングを見計らっていたとき、その話が戻ってきました。実際にオープンしたら非常に好調で、開店から8年以上経っていますけど、国内を含めて1日とてワイキキの売上げを上回った店がないのです。これで『海外でもいけるんだ』と勉強させてもらいました」と経緯を語る。

 しかし、海外進出は甘くはなかったとも言う。「勢いに乗って海外での丸亀の進出を加速させたのですが、1店目はいいのですが、2店目、3店目になると一進一退となってきます。つまりはうどんという商品の商圏がまだ存在していないということなんですね。日本と同じ感覚で出店してはいけないことを知りましたし、海外ではうどんだけでは攻めづらいということも認識させられました」

 そこで海外市場を諦めないのが粟田社長だ。海外の外食店を提携や買収するという方法での進出を考えた。「うどんで世界を攻めるとなると時間がかかります。そうすると地元の繁盛店で、地元の消費者から支持されているけど大きな展開をしていないところが目につきます。私たちは知見もありますし、少なからず資金もあるのでパートナーという形でお手伝いをしますよ……というスタンスで始めました」

 筆者が香港にいて重要だと感じるのは進出先のパートナー選びだ。そこで失敗した日本食レストランをいくつも知っている。信用に足るというパートナーの基準について聞くと「最初は数を打てば当たるではないですが、銀行や商社さんから紹介していただきました。経験を重ね、リーシング力(適切な店舗を借りることができる力)が重要になっていきます。家賃の高い香港でいえば、既存の店舗を残しつつ店舗数を増やさなければいけませんから大変です。また、マーケティング力も大事です。土地勘も商習慣を私たち独自で把握するのは難しいからです。適切なパートナーがいると海外進出の時間短縮が図れるのです」と言う。

 バルセロナの「WOK TO WALK」はその例だ。「事前に話は聞いていたのですが、実際に訪れてみたら、はやっていました。それで話をしたら一緒にやろうということになり、オペレーションをバルセロナに任せて、そこから世界展開をしています。今ではアメリカ、南米などを含め100店を超えてきました」と順調に成長しているという。

 買収のケースについて聞いてみた。香港で有名な米線(米からできた麺の店)の店「譚仔雲南米線」はその最たる例だ。このニュースが流れたときは筆者も香港人も本当に「びっくり」した。例えて言うなら、ケンタッキーフライドチキンのような外資がモスバーガーを買ったようなものだからだ。

譚仔雲南米線の外観。歩道右側に立っている数人は、テイクアウトをするために料理を待っているお客

「銀行さんから紹介されたのですけど、高額過ぎるので流そうと思っていました。ただ、プライベートで香港に行ったときに店を訪れると、香港最大手の外食チェーン『大家楽』よりお客さまが入っていたのです。また、香港人は外食をする機会が多く、アイドルタイムが少ないことは魅力的でした。そして相席をいとわない文化なので、席効率も高いのです。高額な家賃というデメリットはあってもやる価値はあると思いました」

 するともう1つ悩みが発生した。「買収の報道が流れるとライバル店である『譚仔三哥米線』からも身売りの話が持ち込まれてきました(実はこの2つは家族の内紛で分かれた。上述の「大家楽」や香港の有名中華料理店の「鏞記」も同じ内紛で分裂しており、香港ではよくあるケース)。ほぼ同じ規模の店なのですが、金額が金額なので悩みました」と苦笑い。

 トリドールホールディングスの第28期第3四半期の四半期報告書を見ると、2つの買収額は合わせて21億1000万香港ドル(約300億円)に達する。数カ月前に筆者が粟田社長と名刺交換をしたとき、「死ぬ気でやりました」と話していて、今回のインタビューでも「買収を決めてから、夢にまで買収額が出てきた」と言うのも理解できた。幸い、香港人に言わせると日系企業による経営という安心感からか、不安の声は上がっておらず、筆者が店を訪れても以前と変わらず「通常営業」だ。