高校野球界で、公式戦での木製バットの許可、坊主頭の強制はしない等のユニークな取り組みをしている千葉県立成田国際高校 野球部監督の古谷健氏に、高校野球とビジネスというテーマで2回に渡り人材の指導法について取材をしてきた。

 今回は、今の若い世代の考え方は昔と比べて変化があるのか。また、どのように指導をすればいいのか。4校の野球部で指導経験がある古谷氏に質問をすると過去の事例を出しながら興味深い話が聞けた。

社会が変わっているのだから子供も変わる

――今と昔で生徒の考え方や変わっているか?

古谷氏:もちろん変わっています。それは社会がものすごく変化しているので当たり前のことです。子供の変化に付いていけず、多くの大人が昔は良かったと嘆くシーンをよく見ますが子供が勝手に変わったのではなく、変えたのは大人と社会です。

 産まれたばかりの子供は今も昔も変わらないと思います。今の子供が30年前の環境で育てられたら、その環境に合うように成長しますよね。時代の流れと大人によって変わっているわけなので、何でも子供のせいにしてはいけません。

――どのように変わっているか?

古谷氏:今の子供たちの方が昔と比べて多くの情報を知っています。ここ10年でスマホが急激に普及して、欲しい情報がすぐに手に入るようになったことが大きいのでしょう。しかし、良い面もあれば悪い面もあります。

 答えがすぐに見つかる環境なので、知りたいことについて考える時間が少なくなり、想像することもなくなっている気がします。

――では、今の子供に必要な指導方法は?

 私が子供の頃は、今よりも情報が少なかったので知りたいことを知るまでに、まず自分の中で考えて仮説を立ててから、その情報を知っている人や本などから答えを得ていました。今との大きな違いは1つの情報を得るまでに間があることです。

 野球は間(ま)のスポーツとも言われており、攻撃と守備の際に間があるだけではなく、攻撃では打席に立つ前、守備では守備位置について打球を待つときなど、さまざまな場面で間があります。

 この間に、自分が今やらなくてはいけないプレーを瞬時に考える必要があります。しかし、今の子供たちは欲しい情報がすぐに手に入る環境もあってか、間に考えることが習慣化されていない子が多い気がします。

 

 なので、指導者は子供たちに自分で考える力を付けさせることが大事です。そのためには、指導の際に最初から答えを与えずに自分で考えさせ、1人で最後までやらせてみることです。

 子供たちがやり切ってから一緒に振り返り、できた部分を褒めて、修正すればもっと良くなる部分は新しいヒントとして与える。こうやって考えることを習慣化させることが指導者にできることではないでしょうか。

 私もこの指導法に変えるまでいろいろ考え、結構な時間を要しました。

――以前までの指導法は?

古谷氏:私は4校での指導経験があります。最初は母校の千葉県立検見川高校でコーチとして指導者の勉強をさせていただきました。この頃は野球の細かさと選手をうまくする指導法を学びました。しかし、選手目線で分かりやすく教えるというよりは、指導者目線で一方的に教えていたことが多かったと思います。

 そこで得た経験を持って、次の千葉県立野田中央高校で本格的に指導者としてのキャリアをスタートさせました。自分が持っている全てを教え、うまくさせてあげたいという気持ちから毎日夜遅くまで厳しい練習を行いました。

 本気の私に対して、何人かの選手は本気でぶつかってきました。特に投手の高野という選手はかなりの伸びを見せて、甲子園に出場した強豪校の打者にも通用するレベルになりました。

 しかし、途中で諦めてしまう選手もいたのも確かです。強豪校の選手よりも大きなスケールを感じた宇佐見という選手を育てられなかったことは、野球の指導者として大きな後悔です。

 野田中央での日々は指導者としては楽しかったのですが、チームを1つにまとめられず勝ち抜くことができませんでした。この頃から子供たちの目線に立ち、指導の柔軟性について考え始めるきっかけになりました。

 そして、佐倉南高校での経験が指導法を変えるターニングポイントだったと思います。最初から選手に対して高い目標を提示して、こちらの要望を一方的に伝えながらガツガツやったところ、強豪校に勝利してベスト16まで行くなどある程度の結果は出ました。

 その後も同程度の成績は残しましたが、ベスト16以上の結果は出せませんでした。自分の中で指導法についてモヤモヤする部分があったので、指導法を学ぶために甲子園出場を果たした監督さんなどさまざまな人と話をする機会を作りました。

 海外にも目を向けてみようと思い、野球の指導法を学びにドミニカ共和国へ行ったことが指導法を変える大きなきっかけとなりました。

――ドミニカではどのような指導法なのか?

古谷氏:メジャーリーガーを多く輩出しているドミニカでは、指導者が選手に敬意を持ち、指導しています。そして、エラーをしても怒らない。目先の成功ではなく、将来的にどういった選手にしていくか長期的なビジョンを描いて指導していました。

 一番驚いたのは基本の意識が日本とは全く違うこと。日本で守備の基本はエラーをしないように、どんな打球でもできる限りボールの正面に入るように守備の形を作ることで、それを教えます。しかし、ドミニカでの守備の基本はアウトにすることでした。守備の形よりもどうすれば高い確率でアウトにできるかを最優先に指導します。

 野球はアウトにしないと試合が進みません。基本は形を作ることではなくアウトにすることなんだと学べました。形にはめ過ぎると予想外のプレーは出ません。ドミニカでは、技術ではなく目的と意識を学べました。

――今後の目標と高校野球界へのメッセージは?

古谷氏:今後の目標は自分の教え子が自慢できる監督になることです。後は、メジャーリーガーを輩出したいです。

 設備が私立ほどそろっていない県立高校ですが、社会で通用する人間育成だけではなく、野球でもアメリカで通用する選手を育てたいです。そして、ショートを守り、ホームラン王を取って欲しいですね。

 高校野球界については、変革をしなくてはいけない時期に入ったのではないでしょうか。

 変わらなくてよいものもありますが、変えなくてはいけないことはどんどん変えていき、高校野球を、より良いものにさせなくてはいけないと思います。行動しなければ何も変わりません。野球を一番良いスポーツにしたいです。

自ら考え、目的意識を明確に持てる人材に

 次世代の人材を育成するには、上司も部下に対して敬意を持って接することが大切なのではないか。「昔じゃ考えられない」「これだから最近の若い世代は……」といった嫌味を言う前に、今の若い世代はどのような考え方を持っているのかを理解した上で、仕事の取り組みについて指導をしていく。指導も一方的ではなくコミュニケーションを上手に取ることで良好な関係を築け、自分自身の生産性向上につながると思う。

 そして、業務が回せていない部下には古谷氏のように、全てを教えるのではなくきっかけを与え、1人で最後までやらせてみる。終わってから一緒に振り返り、良かったところは褒め、修正が必要な部分についてはもう一度ヒントを与える。このやり方で部下の成長速度がより速くなるのではないか。

 若い世代も上司の指示をそのまま聞くだけではなく、自分なりに考え、仕事に取り組むことが上司や会社から認められる要因になると思う。上司の経験を参考にして、自分自身の考えと組み合わせることで新たな発見が生まれるかもしれない。世代間で良い科学反応が起こり、日本の労働生産性が上がることを願うばかりだ。

 今回の古谷氏への取材は、高校野球とビジネスでの共通項が多く発見できた。そして、古谷氏が願う変革は、成田国際高校が結果を残すことで世間から注目され、高校野球そのものを変えるきっかけとなるはずだ。新たな時代を築いてほしい。