新宿伊勢丹メンズ館の2階にあるDJブース

 阪急メンズTOKYOは2011年開業以来初となる大型リニューアルを3月15日に。新宿伊勢丹メンズ館も15年ぶりの大型改装に着手して3月16日にリニューアルオープンさせた。東京五輪を前にしたほぼ同時期に、在京メンズラグジュアリーの旗艦店的な位置付けの両店がそれぞれ大型改装に踏み切ったのは興味深い。そこで今回は両店の改装内容の中で重要ポイントだけに絞って、これからの日本のメンズラグジュアリー・ファッションの方向性について考えてみたい。

 

両店とも「ブランド」感を際立たせた

 まず筆者が感じた一番の印象は、両店とも「ブランド」感を際立たせたところにある。両店とも自主編集色が薄らいだ感じだ。阪急では地下1階、伊勢丹では1階部分あった売場が大幅に縮小され、代わりにブランド色が打ち出されている。自主編集といってもそれぞれに強い個性が出ていたかというと扱いブランドに大した差も無かったから、今回の方がかえって差別化が図れたかも知れない。

伊勢丹のメンズコスメはまるで改装前の阪急

 そして対象的だったのはメンズコスメの取り扱い。

 阪急は2016年にメンズビューティを拡大した経緯を持つ(年表参照)。 主にフェイス、ヘア、ボディ、ハンドケア、シェービングなどの用途ごとにカウンセリングスペースまで新設して、体験しながらより気軽にアイテムを手に取れる空間を作った。また当時はメンズ専用としては珍しいミラーやウォーターシンクを完備。肌診断、頭皮診断、シェービング講座など専門家によるコンサルティングイベントの開催や、アイブロウケア、コンシーラーを使用し眉や肌を美しく見せる印象アップの提案などにも取り組んだ。それが今回のリニュールで、やや縮小されている。

 それに対して伊勢丹では1階のフロアに、まるでリニューアル前の阪急のメンズビューティの一部が移植してきたような印象さえある。

伊勢丹が新たに導入したメンズコスメコーナーは<エモーション>という五感を感じるMD、<ソリューション>スキンケア、ヘアケア、グルーミングケアなど機能性商品をラインアップ

 では、メンズコスメの勝算はどのくらい見込めるのだろうか。調査会社の富士経済によれば2018年の男性コスメ市場は1175億円で昨年比2%伸長しているそうだ。しかし、10年前の数字と比べると約22%も伸びているようで、男性のコスメへの関心は徐々に広がりつつある。

 しかし、ここで気を付けなければならないのは、コスメといってもケア商品とフレグランス関連とのすみ分けが重要で、メンズコスメのけん引役は洗顔剤や化粧水、乳液といったベース商品が主流で、言い換えると日用品となる。当然、百貨店としての位置付けから取り扱い品種はオーガニックをコンセプトとした欧米ブランドが中心になるが、果たして日用品の高額化としてニーズの拡大がどの程度見込めるのか。身近なライバルとして案外、無印良品あたりのユニセックスに対応する企業との競合も、考えておいた方が良さそうだ。

ヴィンテージの扱いも注目だ!

衣服標本家の長谷川彰良氏所蔵の250年以上前の仏国製コート。昔のフランス貴族は髪粉(かみこ)と呼ばれるカラーリング剤を使用していた。そのカラーリング剤が洋服にたくさん落ちていて、カラーリング剤の主剤である小麦粉、白土、でん粉質に多くの虫食いが生じることから希少性の高い代物だ

 もう1つ、見どころとして注目しておきたいキーワードは、ヴィンテージ(古着)の取り扱い。伊勢丹は物販というよりアート(芸術)として取り上げた。衣服標本家の長谷川彰良氏所蔵の200年以上前の仏国製コートの現物と半身ほど解体したパーツを展示、作品タイトルは「男らしさの解体練習」とした。これは伊勢丹の試みの1つで“SI”(システムインテグレーションの略!?) と呼ばれるメンズ館を縦につなぐアート空間の提供として1、 2、 4、6階でいろんなアーティストたちの作品を、これから1年にわたって展示していく予定だ。

 阪急の方では、1フロアをVINTAGE&REVIVAL(7F)フロアとして今改装のコンセプトを最も表現したフロアという熱の入れようだ。銀座レコードやバトル・ドローンショップといった個性的な店がテナントとして入る中で、面白かったお店は「STAY SHEEP」。それこそ先の長谷川氏の所蔵コレクションではないが、1880年~1920年や1930年代当時のヨーロッパ古着を売っているお店。フロックコートと呼ばれる現在の礼服のオリジナル等も売られていて、マニア受け間違いなしの品揃えだった。

 そして、もう1店舗紹介したいのがポップアップショップとして3月26日まで出店しているArchive Store。6FのCREATORSフロアにリユースストアRINKANを運営している(株)未来ガ驚喜研究所が出店している。この神南にリアル店舗を構えたお店は、過去のデザイナー商品をArchiveとしてスポットを当てているのが新しい。今日のリユース(中古品)市場は、メルカリに代表されるような個人間売買のフリマアプリの影響がある中で、今度はヴィンテージ(古着)という希少価値に訴えた商品グループが登場した。実際、海外では米国のGraild(グレイルド)、The Real Real(ザ リアルリアル)、仏国のVestiaire Collective(ヴェステイエール コレクティブ)といったリセールサイトが高い信用性を保ちながら高額売買される例がある。これも1990年代にヴィンテージジーンズを買い求めて多くの日本人が米国西海岸まで行って、ウン万円でヴィンテージ商品を買い漁っていた当時を思い出す。

6FのポップアップショップArchive Store。ラフシモンズ2001awシーズンのテーマ#Riot Riot Riotから市販のミリタリーブルゾンのカスタマイズド。お値段なんと600万円!
こちらも同じくラフシモンズの2005awテーマは#Poltergeistのボーダーハイネックは120万円です

 さて、こうしたマニア嗜好が高く専門性に特化した店が、百貨店ビジネスとして成立するのかが見どころでもある。こうした実験的な取り組みとして、他にも性関連専門店のTENGAやお笑い芸人が立ち上げたブランド商品を自販機で販売するなど、今までの百貨店のイメージと違ったアプローチがところどころに盛り込まれている。

互いに刺激をし合ってもらいたい

 2018年の百貨店における1㎡当たりの売上げは全国平均で12万4千円なので、両店舗とも平均以上は稼いでいる。しかし、先日発表された地価公示によれば全国平均の商業地は4年連続で上昇傾向にある。ちなみに商業地で見た場合、新宿で1㎡当たり3600万円、有楽町では平均で1730万円と家賃は決して安くない。しかも伊勢丹は世界一の乗降者数を誇る新宿駅の最寄りに位置しつつ、「ごひいきビジネス」での先行者メリットも大きい。

 そうした意味でも、東京に関しては『伊勢丹優勢、阪急劣勢』で、大阪とは逆転現象が起こっている。これも日本の東西文化の違いの1つとの見方もある一面、これからのメンズファッションビジネスをけん引していくような先行事例として互いに刺激し合ってもらいたいと感じる両館の同時リニューアルでもあった。

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食品商業2019年05月

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平成から令和へ 駆け抜ける戦略店

間もなく平成が幕を閉じ、新たに令和の時代に突入しようとしている。 平成最後の年にオープンを迎えた新店群のマーチャンダイジングは、食品小売りにおける平成時代の到達点を示すものだろう。 平成から令和を駆け抜ける戦略店から、平成の到達点に思いを致そう。