取材に行った、成田国際高校野球部のミーティング風景

 春の選抜高等学校野球大会が始まり、本格的に高校野球のシーズンに入った。高校野球は学生スポーツの中でも注目度が高く、甲子園大会は全ての試合がテレビ中継、試合後もニュース番組等で大々的に報道される。

 注目度に比例して高校生の平均的な技術レベルも上がり、今では140キロを投げる投手も増えたが、これは情報化社会になり、正しいトレーニング方法を誰でも簡単に知り得る環境になったことが大きいだろう。

 大学野球・社会人野球の方がレベルは高いわけだが、高校野球の方が注目される。球児のひたむきに頑張る姿に感動し、応援したくなるのは、そこに自分を投影させるからだろうか。そして、今や高校野球は一大コンテンツとなった。

 しかし、違う側面から高校野球を見てみるともっと面白くなる。今回は、高校野球とビジネスシーンでのマネジメント力について考える。

高校野球とビジネスでの問題点

 高校野球の監督は、野球の技術指導はもちろんのこと、社会で通用するために礼儀作法、考える力などの人間力についても指導する。私も元球児だったので分かるが、監督と選手は社会での上司と部下の関係と似ている。

 監督の指導法によっては野球の技術と人間力もものすごい伸びを見せる選手もいる。これはビジネスの世界でも同じで、上司の指導法によっては部下の成長度合いが大きく変わる。しかし、高校野球・ビジネスの世界でも、監督や上司の指導法が間違っていて、上手にチームが回せないという現象がよく起こる。

 高校野球では、そうしたチームは勝つことが難しくなり、選手個人も伸びにくくなる。ビジネスシーンでは、部下のモチベーションが下がり、指示したことをこちらの意図通りにやってくれない。

 では、なぜそうしたシーンが多くなっているのか?

 高校野球では、勝利至上主義が問題になっている。投手の酷使はよくいわれるが、目先の勝利のために選手のスケールを無視して、指導者が自分の都合のよいように型にはめ過ぎていることも大きな問題だ。

 社会でも同じ現象がある。上司が型にはめ過ぎてしまい、新しい発想を持った人材が消されている。そして、従来の古いやり方が蔓延してしまった結果、日本の労働生産性が先進国の中で一番低くなってしまった。

 これは過去の成功体験を引きずっているのだろうと個人的に思う。時代は進んでいるのに、指導法は過去のものを取り入れている。新しいことに挑戦しなければ革新は生まれないのに、日本では部活動から社会まで、指導者の思い込みによってそうした現象が数多く起こっている。

これからの新たな指導法について

古谷健 氏

 そこで、これからのスタンダードにならなくてはいけない高校野球の指導法ついて、千葉県立成田国際高校 野球部の古谷健氏に話を聞いた。古谷氏は公式戦で木製バットの使用許可、部員に坊主頭の強制をしていない等のユニークな指導法で高校野球の固定概念を覆している。部員が楽しそうに野球をやっており、観ている方が自然と応援したくなるチームを作っている。

 また、指導者が部員に対して一方的に指示をする高校野球の従来型といえるトップダウン方式ではなく、部員たちに将来的にどういうチーム・選手になりたいかを考えさせて、まとまった答えからコミュニケーションを取っていくボトムアップ方式の指導をしているので、毎年、特色が違うチームが完成する。部員も納得して1つの方向を目指すので、チームとしてのブレがなくなる。

 野球は頭を使うことが多いスポーツなので、対話式の指導法で部員たちに考える力を付けさせることを大切にしている。自分の意見についてしっかりと考えることが習慣化し、指示待ちではなく自らが率先的に考えて行動するため、部員一人一人が自分の意見をしっかりと持っていた。

 副キャプテンの山元大生(やまもとたいき)君に将来の夢と、どんな人間になりたいかを聞いたところ「将来は野球の指導者になり、減っている野球人口を増やすための啓蒙活動をしていきたいです。そして、自分から動いて先を読める人間になりたいです」と答えた。高校生にも関わらず自分の将来像をしっかりと考えて、話している姿に驚かされた。

 こうした自分で考えることの大切さを指導している古谷氏にマネジメント力について質問した。

――選手を指導する上で一番大切にしていることは?

古谷氏:敬意を持つことです。選手たちがどう考えているかという部分を普段のコミュニケーションから上手に吸い取り、その考えを尊重して一緒に作り上げていくことです。

 私自身、ミスをしたら罰を受けるという指導法が嫌で、少年野球を一度辞めています。大人のエゴで一方的に指導することは、子供の「考える力」を無くしてしまいます。

 野球が一番うまくなる方法は、子供たちだけでやる空き地の野球なんです。自分たちで楽しみ、最初から最後まで考えて野球をするのでそれはうまくなりますよね。これまで大人が子供の考える力を消していたことが多かったのではないかと思います。

 

 だから、成田国際では「楽しくなければ成国じゃない」をスローガンに、選手たちの意見をしっかりと聞き、どのように多様性を持たせるかを考えています。

――指導する上でやってはいけないことは?

古谷氏:見捨てることです。あと指導者が決め過ぎることもダメですね。指導者の思い込みは発想が広がらなくなってしまいます。選手がどこで花開くかが分からないので、目先の結果にとらわれずに、将来のビジョンをしっかりと共有することが大切です。

――自分で考える力を付けさせるためにしていることは?

古谷氏:見守ることです。以前までは、全て教えてあげた方がその子のためになると思っていたので、選手に対して1から10まで野球の技術を教えていました。しかし、それだと選手が考えずに結論を知ってしまうので、少しすると忘れてしまい、また同じミスをしていました。

 そこで、結論を先に言うのではなくヒントを与えて選手自身が考えることで、結論へ導く指導スタイルに変えました。そこでは選手が気付いたときに何ができるかが指導者としての腕の見せ所になります。どのように気付き、考えて結論に至ったのかをヒアリングして、双方の意見を一致させます。やはり、自分で考えた結論は、しっかりと根を張っているので揺るぎません。

 少し前にこんなエピソードがありました。グランドの周りに花壇を作り、花を植えようと私が提案すると、選手たちは各自花を買ってきて花壇に植えました。しかし、買ってきた花は数日で枯れてしまいます。

 すると、自分たちで考えて、種から始めようという話になり、種をまきました。種から育てることで、土の中でしっかりと根を張り、長い期間咲いてくれました。細かいことですが選手たちが考え、成長していることを日々実感しています。

 成田国際高校の野球部を通じてこの花のように、根を張った人としてしっかりとした部分ができればいいと思います。

新世代の人材を生かすには

 古谷氏は、自分で考えることの大切さを部員たちとコミュニケーションを取りながら指導しているのが印象的だった。考える力は野球だけではなく、その先の社会で通用する人材になるためにも重要だと思う。こうした新たな取り組みを積極的に行う部活が増え、スタンダードになっていけば、社会で通用する優秀な人材が増えていくのではないだろうか。

 また、取材を通して、ビジネスシーンでの部下のマネジメント方法など、高校野球から見る新世代のビジネス像のヒントも見えてきた。日本は保守的で伝統を重んじ過ぎている。もちろん、伝統は大切だが、流行の部分をしっかりと見詰め直して、新世代の形として伝統をより良い形に変えていくことが大切なのだと思う。

 これからの多様化の時代は、上司の柔軟性によって従来の指導法が変わり、部下のモチベーションが上がり、同時に生産性も上がるかもしれない。上司の経験と若い社員の想像力がうまく掛け合わされれば、新しい革命が起こるのではないか。考えるだけでワクワクしてくる。

 次回は、古谷氏の指導法が変わったきっかけとマネージャーから見た高校野球について書きたいと思う。

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