無添加で常温保存可能なスープの工場をつくる

 また、アセアンでスープを流通させるに際して、「冷凍車が少ない」という課題があった。これは、流通の段階でスープが腐敗するリスクがあるということ。

 その課題クリアのために、スープ工場づくりに際して株式会社千代田組に協力を仰いだ。同社はシステムとプラントの専門商社で、この工場に同社が製造する「ジュール加熱器」を導入した。「ジュール熱」とは食品に直接電気を流すことで、体積全体に流れた電気が全て熱変換されて、食品が発熱する加熱方式のこと。これによって、均一かつ迅速な加熱ができ、成分の変質・変色・香り成分の揮発分解等が抑えられるメリットがある。

 この工場への投資額は、ジュール加熱器1億円、無添充填機2台2000万円。無菌充填機の導入で、ジュール加熱器とのダブル無菌でスープを製造することになり、本来1億円ほどの投資となる無菌室をつくらなくて済んだ。

 包材にはアルミ製のものを採用し、これらの仕組みでタイの工場で製造するスープは1年間の常温保存が可能となった。これによって冷凍コストがかからない。しかも、食味とクオリティが変わらないという優れた製品が完成した。

タイの工場が完成したのは2017年10月、その竣工式の様子。本間氏がハラール認証マークと出合ってから7年以上が経過した
2018年2月、タイのハラール認証を取得した

 こうしてコールドチェーンが整っていないアセアンでの物流の課題を解決。2018年2月にタイのハラール認証である「チコット」を取得して、出荷を始められることになった。

 アセアンにおけるハラール認証は、マレーシアが「ジャキム」、インドネシアが「ムイ」、タイが「チコット」である。今日ハラール認証の中で最も厳しいといわれているのが「ジャキム」。タイの「チコット」は「ジャキム」「ムイ」ともに相互認証が取れているので、「チコット」を取得していれば、マレーシア、インドネシアにも輸出できる。

 こうして、本間氏が思い描いた「アセアンのムスリムの人たちに日本のおいしいラーメンを食べていただいて笑顔になってもらう」ことが現実化した。それは本間氏がインドネシアで初めてハラール認証のマークを見てから7年以上が経過しての出来事だった。

アセアンで展開する日本の外食企業からオファー

 タイのスープ工場が稼働を開始したタイミングでアセアンが自由貿易となり、アセアンの国々に輸出できるようになった。関税撤廃で輸出に要するコストは輸送に関わるものだけとなった。

 現在、工場には2tのスープ釜が1つあり、フル稼働で生産量は月32tとなるが、現状はその50%程度の生産量とのこと。このスープが知られるにつれて、シンガポール、マレーシア、インドネシアに加えて、ミャンマー、ラオス、ベトナムにも供給することになっている。また、“イスラム教国”ではないがフィリピンへの供給も決まった。アセアン各国のサプライヤーを探しており、そこから各国内で流通する仕組みづくりに余念がないのが、現在のクックピット社の姿だ。

 タイで製造されている鶏白湯スープはラーメンだけではなく、うどんや、しゃぶしゃぶのスープなどにも応用可能。そこで最近、アセアンで展開している日本のチェーン化企業からのオファーが増えてきている。これらの店舗では、これまでスープを店舗で製造するか、現地メーカーに依頼していたところがほとんどで、スープのクオリティ向上が課題となっていたという。クックピット社のスープがタイから常温で供給可能と知り、そうした企業がスープを取り扱うようになっている。

スープ工場の皆さん。スープは東南アジアで展開している日本のチェーン化外食企業からのオファーが増えてきている

スープの新事業開拓にいそしむ

 さて、クックピット社だが、今、ラーメンスープ供給事業に加えて新しい事業として「ボーンブロス」市場の開拓に取り組んでいる。

 ボーンブロスとは、鶏や豚、牛の骨からとったスープのこと。近年、ニューヨークを中心に流行しているが、そもそも人類が狩猟時代から取り入れている伝統的な料理であるという。ボーンブロスにはさまざまなプラスの効果をもたらす成分が含まれており、「美肌効果」「整腸効果」「免疫力アップ効果」が期待できるという

 クックピット社ではこれまで業務用として流通していたボーンブロスを一般家庭向けのものにして、2018年から百貨店催事を行ってファンを培い、2019年1月より大きくアピールするようになった。これらの商品を販売するのは「and Rebone」という事業所だが、クックピット社のホームページでリンクを貼っている。

 本間氏がクックピット社を立ち上げた目的の1つである「一料理人として、人生を賭けてスープを極めたい」という思いは、連綿とつながっているのである。

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今、首都圏で最も勢いのあるといっても過言でないサミット。最近では積極的に新しいマーチャンダイジングに挑戦したり、 次々と目新しい施策を打ち出すことで全国的に話題となることもある。 業績も好調だ、戦略的に会社を変え、商品を変え、店を変えてきた同社が「集大成」と位置付けるテラスモール新松戸から、強さの源泉を見出そう。