ショップトーク会場のゲート [出所]ショップトーク

 米国・ラスベガスで3月3日から4日間、小売業界コンファランス、ショップトークが開催された。まだ開催4年目だが参加者も8400人以上に成長し、フォーブス誌から「最もエキサイティングで情報の多い小売業コンファランス」と評価されている。昨年に引き続き現地取材し、シリーズでお届けする。

5つある「今年のショップトークの特徴」

 ショップトークでは企業トップや専門家を招き、4日間で5コース全75セッション以上の講演およびパネルディスカッションを提供した。コースは①次世代の小売経験、②新たな小売組織、③マーケティング、④テクノロジー、スタートアップ企業、⑤ロジスティクスとサプライチェーンだ。

 コンファランスでは一般的に、自社宣伝で終わる講演も多いが、ショップトークでは大会場で一方的に話を聞くだけでなく、「テーブルトーク」という制度を今年から採用し、事前に設定された10のトピックスと話を聞きたい企業を選んで予約し、開催期間中、テーブルトーク会場で1テーブル最大8人までの少人数で直接企業と面談できる。

テーブルトーク会場の様子 [出所]ショップトーク

 また展示会会場では「テックトーク」という、テクノロジー・スタートアップ企業全70社が各社6分の持ち時間でどんどんプレゼンをしていくミニ講演もあり、着席数は20程度だが企業によっては立ち見の数の方が多いほどで、小人数だけに突っ込んだ内容の質疑が多かった。

セッションに共通する重要テーマはこれだ!

 2019年「ショップトーク」の数多くのセッションの中で共通するメッセージは以下の通りだ。

(1)オフラインとオンラインは1つの総合体に

 オムニチャネル戦略は今後も重要だが、複数のチャネルのシステム統合、物理的にどこでもモノを販売したり情報を吸い上げるという段階は終わり、いかに店舗やオンラインの強み・弱みを知り、各チャネルを戦略的に使うかを実践する時代が始まっている。

(2)店舗の新たな役割

 ノードストローム、メーシーズ、コールズはそれぞれ不採算店を閉鎖するとその商圏からのオンライン売上げも減少すると報告している。改めて店舗とは何か、どのようなフォーマットの店舗を持つか、が重要な争点となっている。

(3)ダイレクト・トゥ・コンシューマー(DTC)のトレンド拡大

 デジタリーネイティブブランド(DNB)の台頭だけでなく、大手ブランドにも消費者への直販が広がっている。

(4)AIは標準機能:小売業にテクノロジーはもはや不可欠

 ボイスコマース、ヴィジュアルサーチ、レジレス店舗システム、パーソナルマーケティングなど、AI抜きに小売業を語ることができない時代に入っている。ウォルマートやターゲットのようなチェーンストアでも新テクノロジーの実用を推進できるテック系の社員を何百人、何千人と雇用している。

(5)顧客経験の創造

 セッションを通じてよく聞いた言葉は「パーソナライゼーション」「オーセンティック」「コミュニティ」だ。平たく言えば、顧客がブランドや企業に対して「私にぴったりな商品や価値観がある。ブランドが語るストーリーは本物であり、その証拠にブランドを愛する人たちのグループがある」と感じられることが重要だ。

ビルド・ア・ベア社がインショップはじめ、フォーマットを多様化

ビルド・ア・ベア社CEOのシャロン・プライス・ジョン氏。スライドはウォルマート店舗内インショップのビルド・ア・ベア [出所]筆者撮影

 次世代の店舗に関する講演の中から、店内でテディベアを綿入れし、カスタマイズすることで一世を風靡したブルド・ア・ベア社の事例を紹介したい。同社はCEOのシャロン・プライス・ジョン氏によると「1997年の創業時には革新的だったビジネスモデルに依存し、その後、新たな改革なく次々と同じような店舗を広げてしまった」ため2008年をピークに減収傾向、直近でも30店舗閉鎖を発表した。

 今後5年間でショッピングモールの25%は消えると予測されている現在、同氏はそれは新たなチャンスと捉え、コンセプトであるファミリーエンターテイメントを再度追求し、店舗フォーマットのフレキシブル化、多様化で改革を図っている。

 ・同社のアイコンである綿入れ機械やシアターを店舗の前面に配置

・店舗面積の削減:平均3000sq.ft.を2000sq.ft.に

・売上生産性向上のため、観光客が多く集まる路面店の出店を強化

・店舗デザインはモジュラー什器を使用してフレキシブルに

・店舗投資額の低下

・より柔軟なリース契約交渉 

 また、他社との提携によるインショップ展開も拡大する。既に、FAOシュワルツ、ウォーターテーマパークのグレート・ウルフ・ロッジ、カーニバルクルーズ内など、従来とは全く異なる業種・業態に入店し、ファミリーエンターテイメントを追求している。

 昨年10月には、ウォルマート6店舗内にインショップのパイロット店舗を出店し、低価格業態でのビジネスの可能性を探っている。ちょうどトイザらスが倒産し90億ドルの玩具市場が宙に浮いたところなので、ウォルマートと組んでその市場のシェアを取ることが目的だ。

 ショッピングセンター(SC)内の店舗は2000sq.ft.に削減しても売上高は80%をキープしており、売上生産性は向上している。

マセリッチ社の新出店プログラム「ブランドボックス」

マセリッチ社ブランドボックスのパース画 [出所]筆者撮影

 全米48カ所にショッピングモールを運営するマセリッチ社は、ワービーパーカーやアンタッキットのようなDNB拡大トレンドに注目し、創業して日が浅いブランドが実際に顧客の目に触れ、商品を触ってもらえる機会を持つための支援サービスを提供している。

 昨年11月、同社はモール内に「ブランドボックス」という出店プログラムを開始した。ただ場所を提供するだけでなく、出店経験のない小規模企業に対して出店に必要なハード、ソフト両面のサービスを提供する。

 ・フレキシブルなリース面積とリース契約:面積は500~2000sq.ft.でリース期間は6~12カ月と通常よりはるかに短い。モデュラーシステムで店舗のサイズ、照明、什器を簡単に変更できる。

・出店に必要な全サービスの提供:設計、施工、従業員の採用、POSレジ用配線、Wi-Fi、セキュリティタグ、防犯カメラ、在庫収納スペースなど出店に必要なサービスを全て提供。

・ソーシャルおよび実験的マーケティング:同社が提携するマーケティング企業と共に、オンライン・店舗両方の来店客数増加のためのマーケティングを協働で実施。

・マーケティング分析:来店客数、購入率、顧客の流れ、売上げについて、オンラインデータとの比較可能なデータ分析を提供。

・店舗運営教育:BrandBox.com上で教育的コンテンツを提供。 

マセリッチ社チーフ・デジタル・オフィサー、ケヴィン・マッケンジー氏(左)、レッド・アーチャー・リテール社CEOのクリス・ウォルトン氏(右) [出所]筆者撮影

 同社のチーフ・デジタル・オフィサーのケヴィン・マッケンジー氏は、ブランドボックスを開発した理由は財務面で結果を出すためと述べた。DNBがSC内に店舗を出せば大きな差別化、集客軸ともなり、DNB側もオムニチャネル効果を享受できる。しかし、資金力がまだ低いDNBがスムーズに出店するには、従来のリース契約ではないサービスを提供する必要があった。

 通常、SCに入店するには6カ月ほどかかるが、ブランドボックスでは最短3週間で出店できるという。同氏は、昨年11月に出店した企業には向こう1年で6店舗くらい作る気持ちでテストしてくださいと伝えたそうだ。ブランドボックス自体も現在はヴァージニア州タイソンのみだが、今後、全米で展開するかもしれない。

 1つの店舗フォーマットを多数出店することで利を得る時代は終わり、商圏やさまざまな条件に応じてフレキシブルに変化できる店舗開発ノウハウを持つことが今後の成長の鍵となりそうだ。

ショップトークのアイコニックな講演者の似顔絵 [出所]ショップトーク

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ファッション販売2019年9月号

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ショップスタッフのための働き方改革

現在の日本では、生産年齢人口減少による生産性の低下や、長時間労働による過労死などが大きな問題になっています。戦後のままの働き方は限界に来ており、時代に合った働き方に転換する必要があります。それは労働者が、それぞれ抱える介護や育児、性差や障害などの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会です。今後、人が尊厳を持って働くには、人生において「仕事・生活」のバランスを大事にする「ワークライフバランス」の考え方が必要になるのです。ショップスタッフのために分かりやすく解説します。