完璧な仕事を、見たことはあるでしょうか。

 保育園での保護者参観に初めて行ったときの話です。折り紙に開けられた小さなのぞき穴(*)から片目でわが子の様子を見ながら、私は先生方の動きに目がくぎ付けになりました。

 1人の先生が子供たちに絵本を読んでいる間に、もう1人の先生が園庭に出掛けるための準備をする。子供たちに外遊び用の上着を着せて靴下をはかせ、外へ連れ出したかと思うと、入れ替わりにまた別の先生がやってきて部屋中に掃除機をかける。

 外遊びをした子供たちが教室に帰って来ると、ある先生が上着の着脱やうがい・手洗いを手伝い、その間に別の先生は給食の配膳をする。給食が始まると、1人はこぼしたスープの片付けや野菜嫌いの子に野菜を食べさせる介助に入り、その横でもう1人の先生が昼寝用の布団を敷いているーー。

 相手は乳幼児なので、それらの最中にはダダをこねたり、つまずいて転んだり、友達とけんかをしたりと、たびたび予想外の事態が起こり、仕事は中断されます。それでも先生方はどうにか予定を進め、きちんと定刻に昼寝をさせます。

 クラスにはメインとなる担任が2人いますが、ヘルプに入る補助の先生は毎回変わります。でもほとんど会話を交わさずとも、どの先生も今どのポジションが不足しているのかを瞬時に理解し、動いていました。

 その動きに迷いはなく、一切の無駄はありませんでした。全員が仕事の全体像を理解しているからこそ、行動が早いのです。

他者を理解しなくても仕事はできる。でも……

 全ての仕事は、自分の役割を理解してこなすことが大前提です。でもより大きな成果を出すには、「他者の」仕事の役割を理解することは避けて通れないと私は考えています。

 特に大会社や、支店や店舗が複数ある会社では、自分の仕事が全体のどこに位置しているのかが見えにくいものです。リモートワークが普及し始め、いつでもどこでも仕事ができるような環境になってきたからこそ、会社や仕事の全体像を把握するのが難しくなってきています。

 

 同じ職場でなく離れた場所でやり取りすることが多ければ、「あの人はいつも何をやっているか分からない」「この仕事が何の役に立つのだろう?」と思うことも多いでしょう。でも多くの仕事は密接に絡み合っており、必ずするべき理由があります。

 仕事の全体像が見えるほど、自分の仕事の役割も明確になります。

 例えば店頭販売では、商品を売ることがメインの仕事とされています。でも本部が知りたいのは、データに残らないその日の情報や、「なぜ、その商品が売れたのか/売れなかったのか」という理由です。

 どの商品がいつ売れたかは、販売データでも把握できます。でも現場にいない限りは、どんな人がどんな状況下で来店したのか、どの商品と迷ったのかまでは分かりません。商品力で売れたのか、接客か、目的買いなのかは、販売データには残らないけれど共有するべき貴重な情報です。

 お客さまの様子や時間帯ごとの混雑状況、その日の周囲のイベント内容や人出の変化なども記録しておけば、より適切な購買理由を伝え、次の販売施策へつなげられます。ただ販売しただけよりも説明に説得力が出ますし、仮に同じだけの仕事をしていても他者からの見え方は全く違うはずです。

1人で完結する仕事はほとんどない

 

 事業を立ち上げたことがある人はよく分かると思いますが、1人で完結する仕事はほぼあり得ません。まず仕事をするための場所の確保があり、仕事をするためのPCや備品の手配、インフラ整備、従業員を雇うならば採用や教育も必要です。そうしたバックアップが社内外で行われることで、初めて仕事が始められます。

 ただ自分の仕事をこなしているだけの人と、自分の仕事に付加価値を付けて他の範囲にまで想像力を働かせられる人。従業員の中にこうした人がいたら、周囲から信頼されるのはどちらでしょうか。

 自分の範囲外の仕事まで考慮することは、短期的に見れば仕事量が増えて損かもしれません。でも長期的に見れば、そうした人にこそ新しいチャンスが巡ってきて、売上げも上げやすくなり、良い仕事環境が手に入ると思います。

 仕事の全体像やビジネスモデルを理解し、今自分の仕事がどのポジションにあるのかを理解する。誰かに指摘される前に、求められる行動を示す。そして、他人も気持ち良く仕事できるような環境を作る。そうした行為を続けていれば相手も協力してくれるようになり、自分にとっても働きやすい環境ができてきます。

 皆さんもご存じの通り、保育士の給与体系や労働環境は、他の仕事と比べても決して良くはありません。それでも全員がやるべきことを理解し、自然と手の足りないところを助け合いながら働いている姿を目にして、私は仕事に対するプロ意識を感じました。子供たちにとって良い保育をするという共通の理想のために、先生方全員が必要な個々の仕事を理解して、行動に移していました。

 どんなに効率や生産性を上げても、1人でできることには限りがあります。でも他者の仕事にまで想像力を働かせられる人は、チームで成果を出せます。そしてそうした動きができる個人が、人手不足の今、どの業界でも求められていると思います。

 仕事の全体像を把握する力は、どんな職種でも活用できる能力です。定期的に、自分の仕事内容だけでなく「本当に求められている仕事」を見詰め直してください。

(*)筆者の利用する保育園の保護者参観では、子供の普段の生活が見られるように、保護者は隠れて窓の外から保育の様子を見る仕組みでした。窓には目隠し用に色画用紙で作られた制作物が飾られ、所々に開けられたのぞき穴から部屋の中を見られるようになっていました。