最終回となる今回は、いくつかの小売り企業で導入が進む「店頭メディア活用の有効性」の視点から、スーパーマーケット(SM)の可能性について見ていく。第1回「リアルとネットの併用がお財布シェアを高める」でも触れたが、日本国内では人口減少の影響は既に出始め、それに伴う需要減少と人手不足が小売業界を襲っている。縮小するマーケットでリアル店舗という競合に加え、AmazonなどのECの脅威も無視できない。変わらなければならないのは分かっているが、どういう決断をしたらいいか、踏ん切りがつかない。過去の人口増を主因とするマーケット拡大がなくなり、『出店すれば売上げが上がる、働き手も潤沢にいる』といった前提の元に商いをしてきた小売業にとって、事業変革は言うはやすしだ。

 ここで改めてリアル店舗を中心に展開するSMの価値について整理してみたい。

日本のEC化率から見るリアル店舗の価値

 日本のBtoC-EC市場規模および各分野の伸び率(図表①)によると、EC取引額は2017年時点で16.5兆円、市場規模は9.1%と2桁近い成長。そのうち、物販系分野に注目すると、全商取引に占めるその割合(EC化率)は5.79%と2016年の5.43%に対し、微増という状況である。

図表① BtoC-EC市場規模および各分野の伸び率

※経済産業省「平成28年我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備」

 もう少し分解し、物販系分野のBtoC-EC市場規模とEC化率(図表②)を見ると、「食品・飲料・酒類」のEC市場規模は大きいものの、EC化率は2.41%と他のカテゴリーに比べても低いことが分かる。

図表② 物販系分野のBtoC-EC市場規模

※経済産業省「平成28年我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備」

 つまり、SMが主として取り扱う「食品、飲料、酒類」といったカテゴリーでは、まだまだEC化は進んでおらず、リアル店舗での購買比率が高いことがうかがえる。これはSMでの買物の大半は非計画購買が占める(一般消費財を購入する際の店頭決定率は80%といわれている)ことも影響し、画面の中から探索的に買物をするには、まだ課題があるということを示す。

 そう、今時点では、まだまだリアル店舗が生活者にとっての重要な買い場の1つであることは間違いない。店頭を持つリアル店舗小売業は、その価値をもっと最大化していく努力が必要となる。

主婦の悩みから見る店頭でのコミュニケーションの価値

 当社が主婦に対し実施した「普段の買物に関する」インタビューおよびアンケート調査*1の結果、毎日の食事のための買物を1人でする主婦からは、次のような3つの悩みが出てきた。

食事のための買物に対する主婦の悩み

*12017年インテージ調べ 2017年3月24日~27日実施の「買い物基礎調査」(対象:全国男女20~70代)より

 ①「商品選びに失敗したくないから冒険はしない」は、ルーチン化する毎日の食事のための買物で、何らかのチャレンジをして失敗した際の家族からの評価を気にしているということ。つまり、主婦にとっての食事のための日々の買物は、減点法で、店頭で新たな商品との出合いを楽しみ、手を伸ばすことにかなりの心理的なハードルがある。そのため、いつも買っているものの選択が安全策となり、店頭で買物を楽しむことが少ないわけだ。

 ②「商品を価格でしか比較できないのでワクワクしない」は、店頭での商品選びに十分な時間もない(入店からレジ会計終了までの平均時間15.7分*2)中で、商品に関する情報も少なく、吟味検討する時間もないため、分かりやすい価格ばかりの比較になって、買物を楽しめていない。

 ③「毎日1人で購入の決断をするのがつらい」は、夕食の献立を毎日考えなければならない中で、万が一、夫や子供のランチとかぶって不評を買ったらどうしようという不安によるものだ。そのため、週末に家族で買物に行くのは献立を決めてくれるからホッとするという主婦が多かった。

 このように、毎日の食事のための買物に主婦たちは多くの悩みを抱えている。特に、「毎日のこと」であるが故に、そのルーチン作業に苦しみ、献立や商品選びに対する家族からの評価に苦しんでいる実態がある。

 つまり、これらの悩みの克服で、生活者の心をつかめる可能性があるということ。こうした店頭での行動はかなり無思考に近い形で行われている一面もあるため、店頭でのコミュニケーションの取り方にはまだまだ工夫の余地があるともいえるのだ。

*2「財団法人 流通経済研究所 「食品スーパーにおける高齢者の購買の計画性」の各年代の買上げ点数、買上げ金額、滞在時間 に関する調査結果」

「店頭の価値をいかに最大化するか」の現実は甘くない

 生活者から見た買い場としてのリアル店舗の位置付け、店頭でのコミュニケーションの重要性は分かったものの、小売業側としては現実問題、人手がなく、既にやることも多く、手が回らない。ある政令指定都市に展開する大手SMの主力店に平日の夕方4時に訪店した際、エンド商品が欠品したままであったことがある。その後、その企業の営業担当役員に話を聞く機会があり質問したところ、「そこまで人が回らないのが現実」「それほど人手不足がきている」という回答を頂いた。店舗の従業員からも「本部からやることが次々飛んできて、あふれる作業指示をこなすこともできていないのが現実」という声すら聞く。極端な例ではあるが、今のままでは、これ以上の店頭オペレーションに負荷をかけることは困難だ。

 さらに小売業の従業者1人当たり付加価値額(労働生産性)を他の業界と比較(図表③)してみても、小売業における労働生産性の課題は大きく、そう簡単に改善できるものではない。これまでも多額のシステム投資をしてきたはずだが、そこもかなり限界にきているともいえる。

図表③ 従業者1人当たり付加価値額(労働生産性)

出典:総務省・経済産業省「平成24年経済センサス・活動調査」 ※付加価値額とは、企業の生産活動によって新たに生み出された価値(付加価値額=売上高-費用総額+給与総額+租税公課)

 では、甘くないといって諦めるかというと、そういうわけにもいかない。この“小売業界の戦国時代”での生き残りに時間的猶予はなく、待ったなし。この人手不足の中では、やることを増やすのではなく、やらないことを決め(生産性の向上)、効果を最大化する(付加価値の向上)施策が必要となる。

お客さまからどう見られたいかに立ち戻る

 生活者から求められていることと、小売業が叶えたいが、叶えられない現実とのギャップをどう埋めていくか。ここが当面の勝負を決める一因となりそうだ。そのために、”やらないことを決める→やることを絞る”といっても、これがかなり難しい。日々、次々と新しい指示が本部から飛んでくる。品出し、売場づくり、バックヤード作業、そして顧客対応などやるべきことにキリがない。「もし、これをやらなかったら、何か問題が起きるのではないか?」と不安になってしまう。やらないことを決め、やることを絞るにしても、頼りにする指針がない。

「お客さまからどういうチェーンだと思われたいか」。頼りにする指針は、この問いへ答えることから始まる。そして、このありたい姿を実現するために、戦略を組み、4P(Product:商品政策、Price:価格政策、Place:チャネル政策、Promotion:販促政策)として、例えば、『こだわり商品をそろえる』『価格を徹底的に安くする』『体験型売場を作る』などといった施策に落とし込んでいく。さらにその具体的な中身については、多様化するお客さまのニーズを読み解き、狙いを定め、調整・修正していくことで、そのチェーンが目指す姿に近づいていく。

 店頭には多様なニーズを持ったお客さまが来店されるため、多くの小売業がお客さまを絞り込むことを嫌う。しかし、全方位を狙うことが判断の指針を見失わせ、対症療法的な作業を増やしているのも現実だ。日々の売上げに追われ、対症療法的な施策を打つことも重要だが、お客さまのどのようなニーズに応えていくことで、ありたい姿を実現するかに、ぜひ今一度立ち戻ってみてほしい。