7.試作して、社内で評価し合う

 開発モデルを決めた次の段階は、商品の具体物をプロセスセンターに持ち込み、加工担当が

・商品価値を高くする要素を加え、

・顧客にとっての商品価値からは無駄な部分、味を悪くしているところは省いて、試作開発をする

 これが商品開発です。

 

 販売価格の基準はモデルの25%安です。15%安も許容されるでしょう。売価に対する原材料費の比率は、一般に下げるのではなく、商品価値を高めるためになら上げます。売価から原材料費と加工費を引いた値入率が開発モデルで50%、試作品で35%であっても、その品目が「50÷35=1.5倍」販売できると、実現する荒利益額は同じになるからです。

 加えて、売上数が増えて、売場で廃棄される売れ残りが減ると、原材料比率の高さによって下がった値入率は、売れて実現した荒利益として回復します。1品目当たりの売上数量が2、3倍になると、標準偏差の偏差である売れ残り在庫も、数量は同じでも売上げに対して1/2、1/3に減ります。

 以上が、顧客の生活を向上させることが経営目的であるべきチェーンストアが実行する義務を持つ開発商品のディスカウントです。

 加工、調理された食品の原材料費率が競合商品より高いと、商品担当は販売数を自信を持って売場に展示でき、店舗の担当も自信を持って販売推奨してPOPを書けるでしょう。

8.試作品の商品価値評価の方法

 プロセスセンター(工場)の製造担当と、商品担当(マーチャンダイザー)の間で、「目標とした競合商品より30%(後述する評点で13×4=52点以上)は商品価値が高いものが製作できた」と判断できたら、次は社内で8人以上を選んで試食会を開催します(BSスカパー!の「モノクラ~ベ」のイメージです)。

 重要なことは、モデルとした他社商品と試作した自社商品を横に並べて、観察し食べることです。こうした比較法なら、誰でも評価ができます。

【常時開く試食会(これは仕事です)】

 昼食や会議の機会も利用する試食会では、開発モデルと自社試作品を並べて、「見掛け、鮮度、味、価格」の各要素でモデルを10点として、試作品が何点か評価してもらいます。評点化できない感想も書いてもらいます。

 試行錯誤があってもいいのです。試食とベンチマークを繰り返せば、全員ができるようになっていきます。

 試食会の際に守るべきは、商品担当に忖度(そんたく)や遠慮をしないこと。顧客の役目を務める試食者は意見を言う義務があるとします。SMでの「開発商品の品質管理」という重要な仕事をしているわけです。

 食品メーカーでは品質管理のために、製造担当に指示・命令ができる権限を与えています。商品担当1人では、開発商品の顧客の立場での品質管理を誤るからです。

 試食者、つまり顧客の立場での品質管理の代理者の合計をした平均点が45点くらいを上回ったものを、試食会での改善の意見を取り入れた新しい試作品を、新商品として最終的には役員の試食を経て商品化します。

 欧州のSMでは品質担当の役員がこれを行っています。

(1)商品モデル探し、

(2)商品価値を高める試作、

(3)社内評価が生鮮の商品価値の高い新商品をつくる開発手順です。

 重要な点は「商品価値の高い」新商品であることです。これがSMにとって攻めて市場シェアを高める武器になります。

【生鮮の商品価値の高さはデスティネーションになる】

 店舗PBである生鮮の高い商品価値はデスティネーション(目的来店)になります。

 小商圏店舗の増加が多いドラッグストアのグロサリーとコンビニの加工食品がSMの売上げを侵食しています。顧客のデスティネーションになるPB生鮮の高い価値はそれを奪回させるでしょう。

 

 既存の商品でも順次、試食会を行い、商品価値を高める意見を取り入れて、改善を続けていきます。SMの生鮮は商品価値の進歩を続けなければなりません。今は大手になっているカップ麺のメーカーは定期的なサイクルで、既存品目に対する試食評価による改善を、全社で継続しています。カップ麺も数カ月単位で中身が変わっているのです。これはロングセラー作りのコツです。改善が停滞すれば、売上げは減ります。他社もベンチマークして競合商品を作るからです。比較商品価値は常に動いています。

 木村屋總本店のあんぱんも変化を続けて超ロングセラーになっているものです。551蓬莱の豚まんも同じです。SMの開発生鮮も、こうでなければなりません。対抗の新商品が次々に生まれるため、究極という限界はないのです。

【顧客の商品価値の評価基準は年々高くなる】

 食べる専門家である顧客の評価は、多数のメーカー、店舗、飲食店、旅館、ホテル、パーキングエリアの食品を、自分にとっての新商品として、普通は1日に3食買って食べる経験が重なり、日々進歩しています。2010年ころからのパーキングエリアの一部レストランの食の進歩は目覚ましい。ファミレスのロイヤルも真っ青でしょう。一部の温泉旅館の食事も年々、おいしくなっています。

 商品価値の顧客評価は相対的です。日々、変化を続けています。半年前は商品価値が高いと顧客から評価されたA商品も、同じ価格帯でもっと商品価値の高いB商品を買って食べると、A商品の物理的な価値は同じでも顧客が評価する価値は下がります。

 これは生鮮だけでなく、グロサリー、衣料、家電、耐久財、エレクトロニクス、車の全商品分野に共通したことです。

 いくら時間を使っても惜しくない、私の趣味のオーディオでは、中国製(SMSL)のDAC(デジタル・アナログ変換器)を買うかどうか、ネットの英語を見て試案しています。14万円と6万円のものがある。どちらがいいか。日本のONKYO製(技術者が生真面目で優秀なメーカー)のDAC-1000は買って6年たち、時々、小さくキーンという超高域(たぶん7000HZ以上)の雑レビュー音が出るからです。始末に困るのは、電源を抜いてクリアすると完全に直ることです。症状が出るのは数日に1度。長時間聞いた日に1度のこともあります。数百個はあるどこかの回路の小さなコンデンサの劣化でしょうか(分かりません)。中華製DACは、ここ数年で商品価値が高くなっています。価格では日本製の約50%です。今も、「平均率」を私にとってはピアノの神に思えるリヒテルの演奏で聴いています。

【百均は新規商品投入の連続】

 大創産業(100円ショップ)には、1980年代のPOSレジ導入と共に始まった「陳列定番の補充発注」という概念はなく、全商品が中国の多くの工場でバイイングしたコンテナ単位の新規商品です。新規商品は新商品ではなく、店舗に新しく入れる商品という意味のものです。

 新規商品の導入MDが大創産業を成功させたノウハウでしょう。チェーンストアの国の米国人の評価が高い店舗でもあります。

【メーカー】

 あらゆるメーカーが毎期(3カ月)コストをかけて新商品を出し続けているのは、顧客にとっての商品価値は常に動いていて、旧商品の売れ行きは少数のロングセラー(普通、全品目の5%以下)を除き、例外なく落ちるからです。

【現代資本主義は商品価値の差異化競争である】

 小売業で商品価値の差異化競争を最もよく知っているのがコンビニの商品本部です。このため、新商品の導入サイクルが速いのです。新商品の投入に終わりはありません。世界の資本主義の現在は、商品価値の差異化競争だからです。

【堤清二氏】

 20世紀末からの商品競争はブランド化ではなく「価値の差異化」であることを見抜いていたのは、西武グループの総帥、堤清二氏でした。

【ジェネリック商品の開発が無印良品】

 商品仕入れによる商品価値の差異化が弱かった西友では、ダイエーとイトーヨーカ堂との差異化が弱いことで最終的に失敗しました。しかし、ブランドのムダな価値を否定して差異化した無印良品では成功しています。

 その方法は、医療用医薬における1/2から1/3の価格のジェネリック商品の開発・販売に似ていたのです。この商品開発法を踏襲したのが、ユニクロとニトリです。

【実行できれば売上げのV字回復も】

 ユニクロやニトリも毎シーズン、多くの新しい開発商品を投入しています。一方、伝統的な自然素材の生鮮部門での、新商品による商品価値競争を最も知らないのが、SMでしょう。

 商品価値の高い新商品開発は、意識して方法的には行われていません。そうだからこそ、商品価値を高くした継続的なPB新商品が顧客から高い評価を受ける素地があります。この方法で作られた商品の売上げは保証ができます。

 1980年代の日本型GMSでは、『自店のパートで働く主婦が、自分たちが売っている商品を夕食用に買わなくなったときがつぶれるとき』と言われていたことがあります(ダイエー)。主婦パートは買って食べるSMの顧客でもあり、顧客にとっての商品価値を知っているからです。

 小売りPBである生鮮では、自店の商品を仕事からの義務ではなく、顧客として自由に心から薦められるSMは例外なく繁盛するでしょう。商品価格を上げることが難しい時代のマーケットは「供給>需要」の買い手市場です。単に安価な商品ではなく、顧客にとって商品価値の高いものが必要です。

 目覚ましく店舗業績(=売上げ、営業利益、人的生産性の3要素)を向上させるには、今まで行ってこなかったような量の新商品のPB品目数(商品種類)を開発しなければならないのです。

 以上、ここで示したことを実行できるSMは、人口減や商圏需要が減少する中で、競合店の増加による既存店の売上減が進んでも、売上げをV字型に上昇させていくことを保証します。

 売上げがV字回復のトレンドに転じれば、社員の生産性は高くなり、小売・流通業の低い賃金水準を上げ続けることができます。賃金が上がる中では、社員の過重労働感はなくなり、仕事は楽ではなくても楽しくなるのです。賃金が上がらないトレンドのときに過重労働感は強まります。「これだけ働いているのに賃金は安い」というのが過重労働感でしょう。当方、1日平均13時間は働いている感じですが、過重労働とは思いません。

コンビニの経営統合には意味がある

 開発MDの必要性を、コンビニの本部は知っていても、SMは知らないので、その開発の方法を示しました。

 サークルKサンクスとファミリーマートの経営が統合されました(2016年)が、これはセブン-イレブンやローソンより、顧客にとっての商品価値の高い商品を多く開発するために必要な1品目単位での合計販売数の多さという基盤条件を作るためのものです。