6.SMでの開発MDの方法と進め方

 SMの売上げのおよそ60%を占めている主力の生鮮部門(青果、精肉、鮮魚、惣菜、弁当)において、

・開発MDが必要であること、

・商品担当は、顧客にとって使用価値の高い商品の開発品目数を目標として仕事をするマーチャンダイザーでなければならないことを示しました。

 グロサリー、飲料、日配でも、家具・ホームファッションのニトリや基礎衣料品のユニクロのように開発MDが必要です。開発商品により、総需要額が減る中で売上げを増やした代表が、この2社です。衣料品と家具・インテリアの総需要は1980年代の半分に減っています。家具・インテリアは3兆円から1.5兆円へ、衣料品は20兆円から10兆円へ。その中で仕入商品ではないSPAのユニクロとニトリの売上げは30年で数十倍に増えたのです。

 現在のSMでの必要度合いでいうと、急務なのは生鮮部門です。そこで、ここでは生鮮部門での開発MDの方法を具体的に示します。

 今まで商品開発は、仕様書(=商品設計書)の発注として抽象的にしか示されておらず、小売業のマーチャンダイザーの職務は明らかにはされていなかったからです。

▼開発MDの方法

【①開発すべき商品のイメージを作る段階】

 SMで加工度が最も高いのは、需要額が10%ほど増えている惣菜・弁当なので、最初に、この部門での開発MDの方法を示します。

 最初に課題になるのは、どのような商品を開発するかというイメージです。これが開発目標(あるいは比較モデル)になります。

 開発目標づくりは、類似または競合品目(MD用語ではファインライン:最小商品枠)を販売している店舗の観察から始めます。市場で作られ、提供されているもの以外は、まだ売れていないものです。顧客の潜在ニーズは推測しても外れるあやふやなものであり、商品が市場に登場した後でないと分かりません。

 アップルがiPhoneを市場に出した後、人々にiPhoneというスマホが欲しいというニーズが生じたのであり、形がなかったiPhoneに潜在ニーズがあったのではないのです。一般化して記せば、3年後の2022年であっても市場の商品ニーズは分かるものではありません。1年後の新商品すら需要ニーズは分かりません。

 商品観察では、商圏内・外にかかわらず、時には全国から自店の現状より商品価値が高いと思われる商品を探すことが目的になります。漫然と他店の商品構成を見学するのではありません。

【重要なものは食べる顧客にとっての商品価値の高さ】

 商品価値は「機能・品質÷価格」です。家電やエレクトロニクス商品でいうと、コストパフォーマンス(CP)が商品価値です。

 客観的な評価軸を持った数値での比較をベンチマーキングと言います。ベンチが基準になるものです。商品価値の『ブルーオーシャン戦略』でもベンチマーク方法を使っています(チャン・キム)。

「安い・高い」は曖昧な言葉です。商品提供する側からは機能・品質と比較して、価格が評価されねばなりません。1000円の弁当が400円のものよりおいしいのは当たり前のことです。1000円としておいしいかどうかは、他の1000円の類似品目と食べた結果の商品価値の比較をするしかないでしょう。

 世界的なチェーンは世界中の同業店や競合店から、価値の高い商品を探してモデルにしていますが、SMでは国内レベルでいいでしょう。食品は国民・国家の食文化で違いが大きいからです。メキシコの食と日本の食は比較できません(衣料、機械、エレクトロニクスは比較できます)。

 生鮮部門での商品価値は「(見掛け+鮮度+味)÷価格」でしょう。開発MDでは市場の商品より、商品価値を高くした開発モデルが重要になります。

 そのため、商品担当の狭い経験からくる商品イメージでは不足しています。経営者の持つ商品イメージでも不足しています。県内、県外を飛び回って開発すべき商品のイメージを探すのです。

 食品では買って食べなければなりません。食べ歩くのは商品担当での仕事です。当方が知っているおいしさで評判の寿司屋の主人は、休日に顧客からの評価が高い寿司屋を回り、お客として食べて、寿司、材料、調理、皿、内装の研究を怠りません。料理店の内装も味のうちです。SMでは内装、什器、盛り付けのクリンリネスも鮮度と味のうちです。

 商圏内・外で、顧客にとっての商品価値でナンバーワンと判断できるものを探すことが重要です。

 顧客の生活を向上させるという使命(共通ビジョン)を持つべきチェーンストアの商品担当は、顧客の代理購買者でなければなりません。テキトーに仕入れたり、作った商品を、顧客に販売促進あるいはポイントや特売割引をして売り込むのではないのです。

 商品担当、つまり商品開発の責任者がポピュラープライス帯で商品価値ナンバーワンのものを探すことの必要が、ここからも分かるでしょう。

【バイヤーという職能の意味】

 米国チェーンストアの初期(1960年代)では、商品価値の高いものをメーカーや卸で探して買うという意味から、販売員ではなくバイヤーとされていたのです。

 新商品を開発し続けているメーカーは、リバース・エンジニアリングとしてこれを行っています。先行する商品価値の高い商品を買って分解し、どの部分を改善すれば、価値がより高いものを作れるかを考え、新しい部品発注書と組み立て設計書を書くためです。このように開発の目標となる設計書は、競合商品の分解によるベンチマーキングから得られています。ニトリは中国でこれを行っていました。開発者の経験的な知識からイメージしたものでは、買って食べる顧客の立場からの客観的な商品価値が高くなるとは言えないからです。

 商品価値が評価され、つまり市場の80%の顧客に商品価値の高さが分かって多く売れる商品のチェーンストアでの開発は、芸術作品の創作のようなものではなく、市場に新しく出たまたは存在してきた具体的な商品に基づくものでなければならないのです。

 この点が、まだ市場にないハイエンドを作る専門店や専門メーカーの高額な商品開発と、80%の顧客の日常生活を向上させるミッションを持つチェーストアの商品開発の違う点です。

【チェーンストアが行うリバース・エンジニアリング】

 売価の価格帯は、市場の80%が買う価格帯のポピュラープライスでなければなりません。「なだ万」や「吉兆」の惣菜と弁当はおいしくても、チェーンストアのリバース・エンジニアリングの対象にはならないのです。

(注)家人は、セブン-イレブンのスイーツはおいしいと言っています。ローソンはその点、ダメだといって車を止めません。市場の80%の顧客と共通する商品価値の評価でしょうか。当方、スイーツはあまり食べないので、分からない。2000円のゴディバより、200円のグリコのアーモンドチョコを、脳が疲れたと感じるときに食べると、甘さも適度でおいしいと感じています。

 ユニクロ等では、事業目標としているZARA(売上高253億ユーロ:3.4兆円)やH&M(売上高251億ドル:2.7兆円)の新商品を分解し、今期の新商品開発の材料にしています。

 昨年の夏、ゴルフの練習のために通販で買った『錦織モデル』は素材がよく、軽く柔らかく涼しくて、商品価値が優れていました。価格は5000円と安くはなかった。ユニクロは繊維メーカーと共同で布の開発もしています。コースでのプレーにはカジュアル過ぎて不適ですが……。