3.高齢化と人口減の食品需要の違い

 わが国は、近代の世界史上で最初に「需要人口の減少」という事態に直面しています。

 食品の総需要は高齢化では減少しません。65歳以上になっても、1人当たりの食品購入の金額は、20代世帯の2倍、30代世帯の約1.5倍、40代世帯の1.2倍くらいに増加するからです。カロリー摂取量は1日1500キロカロリーに向かって減っていきますが、食べる商品のグラム当たりの単価が上昇していくのです。

 

 一例を挙げれば、20代、30代の世帯では肉ではグラム単価が低い鶏肉(100g:100円~200円)が多い。これが40代世帯になるとグラム単価が中くらいの豚肉(同150円~300円)が増え、50代、60代、70代世帯では牛肉(同250円~500円)が増えていきます。肉以外でも同じ傾向があり、食後の果物の1人当たりの消費金額は、年齢層が上がるに正比例して増えます。

 食品では、グラム当たりで高単価になるのが高齢化ニーズです。衣料では、65歳以上になって退職すると急に購買が減りますが、食品では逆です。

 しかし、地域の人口減になると食べる人の減少ですから、商圏の食品の総需要が減っていきます。2010年代にはまず地方圏から、2020年からは高齢化から人口減に向かう大都市圏でも「商圏の食品需要が減少する時代」を迎えます。これはソ連が崩壊したロシアに事例があるだけの近代の世界史上初めての変化です。

 まだ人口減ではない米国や中国ではインターネット販売と宅配が増えて、既存店売上げは減少する時代に向かっています。わが国ではそうなる前に人口減によって商品需要の全般に減少が起こっているのです。

(注)中国では『一人っ子政策』のため、2018年から生産年齢人口(中国では15歳から、退職が早いので50歳まで)が減り始めました。日本からは20年遅れです。この意味は、中国は今後、1人当たり生産性の上昇分(中国で約2~3%:日本では1%)しか、GDPは増えない時代になるということです

 店舗の売上げが年率3%で減り続けると7年後のそれは元の80%になりますが、人件費と設備費の固定費は80%に減らすことは難しいので、赤字になってしまいます。赤字は数年、続けられないので、店舗は消滅していきます。既存店売上げは前年比では少なくとも0%以上から3%の上昇でなければなりません。店舗の経常利益率も売上対比で3%は必要です。

4.生鮮食品で開発MDが必要な理由

 世界最大の消費市場であるため、小売事情では世界に10年くらい先行する米国では昨年、シアーズとトイザラスの破産が起こっています。

 両社の破産の原因は異なり、シアーズは新商品開発の停滞が主因でした。商品構成の幅の広さでのカテゴリーキラーとされたトイザラスは、有店舗では実現できない1億品目(売場面積換算で330万坪:ウォルマートスーパーセンター6000坪の550店分)の品揃え幅のアマゾンや他の専門的ネット販売の「買物の便利さ」を、ショートタイムショッピングとコンビニエンスの価値と見る顧客が移動したことが原因です。これらネット勢では宅配物流を待つことがなくなり価格も安かったからで、人件費が安い中国では「注文後、数時間で配達する食品店」もネットに登場しています。

▼SMの商品担当の仕事

 わが国のSMでは、大手でも「生鮮はSMのPBである」という認識が薄かった。SMの商品担当は仕入れ販売が仕事という意味のバイヤーであり、商品開発のマーチャンダイザーではなかったのです。

 バイヤー職務の責任は、仕入れ商品の商品構成です。POSで記録される1品目単位の売れた数の発注(=バイイング)は、店舗の売場担当が行うからです。職務名でバイヤーとしても、バイイングは商品構成の変更のときだけです。

 新商品開発が責任であるマーチャンダイザーという職能名の人が、わが国の小売業に存在するでしょうか。

(注)コンビニの本部には存在します。コンビニはNBの仕入れではなく、大手メーカーがない惣菜・弁当・おにぎりでは、商品開発を行わねばならなかったからです。

 職能名は、仕事として何を行い、どんな成果を挙げる責任があるかという業務基準を与えるので、組織において重要です。

【開発商品の商品価値】

 

 開発するPBならネット販売を恐れる必要はありません。自社開発した商品価値が高いPB商品はネット企業が販売しようにもできないからです。

 商品価値は「商品の機能・品質÷価格」です。PB商品はNBよりも商品価値を高めることに開発の意味があります。単なる価格の安さではなく、機能・品質とバランスのとれた価格の安さが必要になっています。家電商品でいえば、ベンチマーク(基準を持った品質比較)でのコストパフォーマンスの優位さが重要です。

【商品価値での比較優位】

 今後の商圏需要が増えない中では、販売する商品に「商品価値での比較優位」がない限り、既存店売上げは増加しません。

 今後の店舗では、商品構成と商品価値の両方での競争優位が必要です。

(注)コンビニは商品種類が2600~3000品目と少ない(SMは1万5000から2万品目)。『コンビエンスの価値(ショートタイムショッピングの便利さの価値)を加えた品目の商品価値の競争優位はあるが、商品構成の競争優位はない』という人がいますが、その考えは誤っています。

「5分のショートタイムで、いつでも気軽に買物ができる便利さを追求する商品群」の中では、商品構成の優位があるからです。コンビニの商品の顧客にとっての商品価値は「見掛け+鮮度+味+便利さの価値」÷価格でしょう。

 メーカーが作るNB商品では、店舗による「機能・品質÷価格=商品価値」の比較優位はありません。販売価格のわずかな違い(数%)があるだけです。

 つまり、NB商品は、人口減から商圏の総需要が減るこれからの時代には店舗の売上増加の役を果たしません。商圏需要が減る中では値下げの競争しかなく、A店が下げるとB店も下げるという競合店カニバリズムになって、両方とも売上増にならないからです。

 チェーンストアが行う本来のディスカウントは、PB商品の価値(=機能・品質÷価格)を上げることでした。

 しかし、マーチャンダイザーの職能がなく生鮮のPB開発が行われない中では、バイヤーはNB商品を安く売ることでしかなかったのです。繰り返し記せば、NB商品の値下げのしあいでは、両方が売上げを減らすだけです。SMが特売と価格を下げるしかないとしてきたのは、PB開発での需要開拓がなかったからです。