鼻炎治療剤の市場規模が急拡大

 日本気象協会によると、2018年の花粉の飛散量は全国的に例年より多かったようだ。東京ではヒノキ花粉飛散量が例年比約4.9倍と、過去10年で最も多いシズンであった。※1読者の中にも、苦しいシーズンだったと記憶している方は少なくないのではないだろうか。

 2018年の花粉の猛威は市場調査結果からも明らかだ。OTC医薬品(一般用医薬品等)の市場推計を行っているインテージSDI(全国一般用医薬品パネル調査)によると、スギ・ヒノキ花粉飛散量の多い2~4月の「花粉ピーク期」が、花粉症関連薬市場が年間で最も盛り上がる時期となっているが(図表①参照)、2018年「花粉ピーク期」には、鼻炎治療剤の市場規模は前年比で131.0%、目薬は同109.5%といずれも大きく上回る結果となった。

図表① 鼻炎治療剤・目薬の月別市場規模推移
(データソース:SDI/期間:2015年~2018年 各年2月~4月 計/ベース:金額)

 さて、2018年「花粉ピーク期」の花粉症関連薬市場が好調であったことを確認した上で、あらためて鼻炎治療剤に注目したい。2018年同期において、鼻炎治療剤が大きく市場規模を拡大して目薬を上回ったことは特筆に値する(図表②参照)。2015年同期の市場規模は、目薬が200億円と鼻炎治療剤の180億円を上回っていた。しかし、2018年同期の市場規模は、鼻炎治療剤が286億円と目薬の243億円を大きく上回るという逆転現象が起こったのである。

図表② 「花粉ピーク期」における鼻炎治療剤・目薬の市場規模推移
(データソース:SDI/期間:2015年~2018年 各年2月~4月 計/ベース:金額)

 

 2015年から2018年の「花粉ピーク期」における市場規模増加率を見てみると、鼻炎治療剤が4年間で約60%増加、目薬は約20%増加となっている。こうしてみると、両カテゴリーとも好調ではあり、その要因の1つとして花粉の飛散量増加を挙げることができるだろう。ただ、それだけが要因なのであれば、目薬も鼻炎治療剤と同規模の市場規模増加率となっていたとしてもおかしくはない。鼻炎治療剤だけ市場規模が急増したことについては、2015年から2018年の間に行われたOTC医薬品のリスク分類引き下げが原動力となったと考えられる。

市場規模拡大の原動力はリスク分類引き下げにあり

 医薬品業界では、医療用医薬品の有効成分がOTC医薬品へ転用され、リスク分類引き下げによって販路が拡大されることがある。

 医療用医薬品が医師等の診断と処方に基づき使用されるのに対して、OTC医薬品は店頭にて販売を行うことが可能だ。ただし、OTC医薬品の中でも含有する成分によっていくつかのリスク分類が定義されており、それぞれに異なる販売ルールが決められている。高いリスク分類に位置付けられる要指導医薬品や第1類医薬品を店頭販売する場合、薬剤師から消費者への説明が義務付けられているため、取り扱いに対するハードルが高い。

 しかし、リスク分類が第2類医薬品にまで引き下げられた場合、薬剤師だけでなく、登録販売者でも販売が可能になるため、店頭販売のハードルが一気に下がることになる。2015年から2018年の間に、エスエス製薬「アレジオン」や久光製薬「アレグラ」などが、第1類医薬品から第2類医薬品に引き下げられ、薬剤師不在の店舗でも取り扱うことができるようになった。その結果、鼻炎治療剤市場における第2類医薬品の販売が増加し、鼻炎治療剤市場全体の市場規模拡大に寄与することになったのである(図表③参照)。

図表③ 「花粉ピーク期」における鼻炎治療剤のリスク分類別市場規模 推移
(データソース:SDI/期間:2015年~2018年 各年2月~4月 計/ベース:金額)

今後の市場展望:「拡大を続けると見るのが妥当」

 鼻炎治療剤市場は花粉の飛散量や時期によって大きく左右されるものの、長期的な視点で考えると市場は拡大を続けると見るのが妥当だろう。その理由として、以下の2つが挙げられる。

 1つ目の理由は、花粉症患者数自体が増加傾向にあることだ。花粉症患者数の推計についてはいくつか調査が行われているようだが、例えば、東京都が2016年に実施した「東京都花粉症患者実態調査報告書」では、年齢区分別のスギ花粉症推定有病率が全年齢層で前回調査(2006年に実施)より上昇していることが報告されている。※2急激な気候変動などによってスギ・ヒノキの花粉飛散量が激減するといったことがない限り、花粉症患者数の増加傾向はしばらく続くことになるだろう。

 そして、2つ目の理由は、花粉症対策の手段の変化だ。先に記したように、元来医療用医薬品として使われていた成分を含むOTC医薬品を店頭購入することが容易になってきた。それを受けて、通院ではなく、セルフメディケーションへと花粉症対策を切り替える人々の増加が見込まれる。

 以上の2つの理由により、鼻炎治療剤購入者数が今後も増え続け、それに伴い市場規模も拡大すると予測する。

(株式会社インテージ アナリスト 瀧山祥希)

(参考文献)