富士通の画像認識AI

 さまざまなITを駆使したニューリテールが氾濫する中、実用普及段階のテクノロジー構成はどこに着地するのか、興味津々で「リテールテックJAPAN2019」を1周したキーポイントを報告したい。

ニューリテールの3つの注目点

 ニューリテールの着地点を決めるのは以下の3面のテクノロジーだと思う。それらをないまぜにしては重装備に過ぎたり実用性を欠いたりするから、それぞれを解決する実用普及テクノロジーを見極める必要がある。

1)商品選択とフェイシング管理

 顧客がどの商品を選択したかをつかむのにはバーコードやRFタグによる方法と画像解析AIによる方法があるが、直近では画像解析AIの進化が著しく、必要なカメラの台数も情報処理容量も初期に比べれば格段に軽装備になってきた。通信速度や処理能力の向上に加え、機械学習のアルゴリズムが経験値を積んで洗練されてきたのだろう。

NECの棚管理AI

 棚からの選択だけでなく入店から精算・退店まで連続して購買行動を追えば精算確認も容易だし、手にとって戻したり試着落ちした経緯、データを蓄積していけば購買心理プロセスや仕草の意味するものもつかめるから、レコメンドや陳列の改善、接客タイミングの指示にも使える。加えて、RFIDでも難しい“迷い子商品探し”(客注や店間移動のピッキング、陳列整理に不可欠)も容易にすると期待される。

 画像解析AIはRFタグを要せず顧客の商品選択もフェイシング管理も可能だが、精度を担保すべく棚の重量センサーやRFIDリーダーで補完する仕組みがまだ多い。画像解析AIの加速度的な進化を見ると、いずれ補完の必要は無くなると思われるから、RFIDはIoTなど別の目的で必要性を判断すべきだろう。

NECのロボットKIOSK

 顧客が店内でピッキングする限り面倒な検証の仕組みが必要になるが、顧客が店内に入らない巨大自動販売機的なKIOSK店舗なら販売もマテハンもロボット任せで、画像認識AIもRFIDも不要だ。NECのロボット店舗ではバックヤード側から一つずつでもまとめて放り込んでもロボットが並び替えて正しくバーコードを読み取り、指示位置に棚入れする。顧客はデジタルサイネージで商品を選択し、端末にICカードをタッチすれば決済が完了し、ロボットがピッキングして包装した商品が受け取り口に出てくる。販売はもちろん、マテハンから決済まで完全無人で運用できるから、「Amazon Go」など難易度の高いハイテク重装備な半無人(マテハンは人頼み)運用店舗に比べると格段にシンプルでコスパも高い。

2)個人認証と決済

 顧客の商品選択をピッキング段階とゲートアウト段階のどちらか、あるいは両方でつかんで精算するのと決済は別のプロセスだ。

 銀行口座やクレジットカードと事前にひも付けられたIDを2次元コードや顔、虹彩、指紋や静脈といった身体的特徴で認証する技術が注目されてきたが、いずれもミスも偽造もあり得るし、短時間に多人数が入店すれば処理が遅滞するリスクも指摘される。ID認証を要さず処理速度も圧倒的に速いのはFeliCaなど非接触決済するICカードで、プリペイド決済だけでなくデビット決済にも対応する。

 レジ待ちを避けたいコンビニやスーパーマーケットなどでは多数のアプリが乱立して選択操作に手間取るスマホペイより処理の素早いICカードが好ましいし、単価が高く客数の少ないブティックなどではクレジットカードで十分で、スマホペイがどこまで普及するか現段階では読めない。

 中国でスマホペイが普及したのはECでの第三者決済が先行したことと国策による低決済手数料率(分野によって0.38~0.50%)が背景で、固定電話網の維持責任を負うNTTが決済回線を独占するわが国とは事情が違い過ぎる。スマホペイの普及には決済業者の集約と国策的低手数料率の強制が必要不可欠で、通信業界と金融業界の利害を政治的に調整しない限り、普及の加速は望めない。

 キャッシュレスがやかましく言われるが普及の要は信頼性と処理速度、決済手数料率に尽きる。ならば中国のようにスマホペイ一辺倒になることは期待できず、むしろ銀行系デビットも乗ったICカードが主役となるのではないか。FeliCaはわが国で確立された信頼度も処理速度も群を抜いた技術であり、乱立するスマホペイに対応する技術に注力するメリットは薄いと思われる。

3)サプライチェーン総体の追跡管理

 店頭だけでなく物流段階や生産段階まで一貫して制御するIoTにはRFIDテクノロジーが不可欠だ。画像解析AIは購買行動や作業行動など各段階の動きを解析して活用するには最適だが、いくつもの段階を一貫して制御するのは難しい。

サトーのアクティブ型RFタグ

 RFタグには手軽なパッシブ型と高機能なアクティブ型があって、前者はRFIDリーダーの発する電波を受けて反応するだけだが、バッテリーを備える後者は自ら発信することができる。パッシブ型には低単価の使い捨て型と書き換えできる反復使用型があって、後者はやや高価になるがEAS(防犯タグ)として使うこともできる。

 パッシブ型はタグが重なったり、金属があると読み取りミスが生じるし、“迷い子探し”やピッキングに使うにも限界がある(それを補完するレーダーアプリもある)。電波を発するアクティブ型は信頼度が高く探索も的確にできるが、ボタン電池を内蔵するからタグや襟ネームに封入するのは困難で単価もパッシブ型より2桁高い。

 そんな壁を超えるのがイスラエルの軍事技術から発したWiliot社の環境発電型RFタグで、Wi-Fiなど電波を捉えて発電・蓄電するバチスタ回路を内蔵してバッチアクティブに作動する。電池を内蔵せずバチスタ回路もプリントシールだから薄くて軽くタグに封入でき、単価も量産段階では反復使用パッシブ型程度になると期待される。

Wiliot社の環境発電型RFタグ

 生産段階で製品に組み込むマイクロチップ型なら生産工程から物流・販売段階はもちろん、販売後の再流通までトレースできる。ブランド品の再流通では真贋の判定に手間取り100%の精度は難しいが、マイクロRFチップ内蔵なら即時完璧な真贋判定ができる。グローバルな高級ブランドの採用が広がって量産効果で単価も数十円と手頃になっており、急速な普及が期待される。

 RFタグを読むのもバッヂなリーダー読み取りだけでなく、帝人のRecopicのように電波を飛ばさず(病院での使用では重要)2次元アンテナで非接触読み込み(FeliCaに近い電磁誘導)するならリアルタイムなフェイシング管理が可能で、顧客の購買選択掌握のみならずフェイシング管理や賞味期限管理にも活用できる。

 RFIDはQRコードと同じく80年代に確立された古い技術だが、近年の通信技術の加速度的進化でさまざまなRFタグや通信方法が開発され、必ずしも「単価の壁」に捉われない使い方が広がりつつある。販売管理だけの採算は難しいにしても、サプライチェーンを通貫するIoT利用ならコストに見合う使い方が見つかるのではないか。

「Amazon Go」はネアンデルタールだ

 ITは個別のニューテクにとらわれると技術のための開発に陥って『リープフロッグの罠』にはまってしまう。ZOZOSUITSやベータなどその典型で、高度な先端技術が勝ち残る技術になるとは限らない。開発が競われるさまざまな技術の中から、進化の壁に当たって絶滅してしまうネアンデルタールと生き残って進化するホモサピエンスを見極める必要がある。

 それには技術開発ではなく実用普及段階の使い勝手とコストパフォーマンスから逆算してスクリーニングするべきだ。使い勝手がよければ普及してコストが下がるし、コストが下がれば普及が加速する。決定打となるのは使い勝手であり、QRコードのように古い技術が新しい通信技術で一気に普及するケースもある。

「Amazon Go」は時代を開くインパクトがあったが、使い勝手もコストパフォーマンスもネアンデルタールにしか見えない。ホモサピエンスに進化し明日のデフェクトスタンダードになるのは別の技術体系だと思われる。技術は使い勝手で価値が決まり、使い勝手が進化を加速する。実用普及段階の使い方を先に構想して子細にプロセスを検証すれば、生き残る技術が見えてくるのではないか。