昨年末、ZOZOが開始した新たなサービス「ZOZOARIGATOメンバーシップ」は、アパレル業界に大きな波紋を呼びました。

 消費者が年額の会員費を支払えば、出店ブランドの都合に関係なく全ての商品を常時10%引きの価格で購入できるこのサービスは、大々的に報じられたオンワードホールディングスの撤退をはじめ、多くの企業がZOZOから離れるきっかけとなったのではないでしょうか(1月末の決算発表時時点で40社強がいわゆる「ZOZO離れ」を表明したということです)。

 ここから1つ得られる教訓があります。

 それは『ZOZOの方針が間違っている』といった類いのことではありません。確かに、「ZOZOARIGATO」に端を発してはいるけれども、ZOZOを離れる決意をしたブランドは、単なるZOZOへの反発心から離脱したわけでは、もちろんないでしょう。

 それよりももっと早い段階から「自社EC」の重要性を見通し、そこへの投資を惜しまず体制を整えてきた企業が、今回の件をきっかけに満を持して撤退している、というのが本当の見方なのではないでしょうか。

 これは、何もファッションECに限ったことではありません。ECの運用を完全にプラットフォーマーに依存している企業は早晩、自社ECへ回帰する道を模索しないといけない時期がきているのです。

 その本質を理解するには、なぜ、今までプラットフォーマーが強みを発揮できていたかと、今、消費者とブランドを取り巻く世界で何が起きているかを正しく把握する必要があります。

そもそも、なぜECプラットフォーマー依存が必要だったのか?

1ECに対する圧倒的な「投資力」の差

 リアル店舗の運営を抱える企業とプラットフォーマーを比べたときの一番の違いはECに対する「投資力」といえます。限られたリソースを店舗の運営とECで分配しなくてはならない企業と違い、プラットフォーマーはモール型ECを成長させるために、惜しみなく人員と資金を投入できます。

 人員でいえば、ECの構築には巨大なシステムを設計・運用できるエース級のエンジニアが必要不可欠ですが、リアル店舗の経営を進めるのと同時にそうした人材確保にコストを割くのは簡単なことではないでしょう。

 資金についても同様です。リアル店舗を持ち続ける以上、限られた経営資源の中からそれらを維持、改善していくためのコストはなくなりません。そのため、仮に自社でECを立ち上げるにしても、プラットフォーマー(EC専門で資金を投じられる)と同等のコストの捻出は不可能でしょう。

 さらに組織の問題としても、売上げの多くを占めている店舗での利益を、まだ売上げインパクトの少ないECへの投資に回すのは、店舗担当の反発を招きます。そのため、プラットフォーマーに対する出店という形でECをスタートせざるを得なかった企業も多数存在するのです。

2)ビッグデータの存在

 当然のことながら、プラットフォーマーには大量の顧客購買データが集まります。彼らはそれらを生かすことで、集客からコンバージョンまでデータドリブンな精度の高い施策を打ち、パフォーマンスを発揮できます。結果を出せば、その結果が欲しい新規出店者が続々と集まり、そしてますますデータの精度が上がっていく。この「正のループ」でプラットフォーマーは加速度的に成長を遂げてきたといえるでしょう。

3)消費者に与えるメリットが築く「経済圏」

 もちろん、消費者サイドにもECプラットフォームから享受できる複数のメリットがあります。特に大きかったのは、商品購入で付与される「ポイント」にまつわるものでしょう。

 ECプラットフォーマーが発行するポイントは、商品購入に限らず、プラットフォーマーが展開する他のサービスでも利用できる流用性の高いものです。

 ポイント戦略に力を入れる『楽天市場』を例に取れば分かりやすいと思いますが、ECプラットフォームの他にトラベル事業や携帯電話サービスなど、消費者はあらゆる場面でそのポイントを利用できます。言い換えれば、消費者はそのポイントを使う場面を自由に選択できるわけです。『楽天市場』はポイント付与率の高さも突出しており、消費者が楽天関連のサービスを積極的に利用することで最大8%の還元率を実現する仕組みを作り上げました。

 これはECプラットフォーマーがある種の経済圏を作れてしまうことを意味しています。事実、楽天が築いた経済圏の規模は流通総額10兆円、会員数11億人を超えています。

4)「ポータル機能」としての利便性

 こうして急激に拡大した巨大ECプラットフォームには、「ポータル機能」(同一カテゴリー内でブランドをまたいだ商品スペックの比較やレビューができる)に期待する消費者が集まり、その消費者目当てに出店するブランドが増え、扱うモノが増えれば増えるほど利便性も高まっていくという図式が出来上がりました。

5)「場所代」が高くても依存せざるを得なかった出店者

 消費者に低価格というメリットを提供し続ける「義務」があるプラットフォーマーは、出店社に対しては「場所代」でもある容赦のない出店手数料(ZOZOでいえば売上げの30%半ばにも達する)を突き付け続けてきました。

 それでも成立してきたのは、冒頭でも記したように出店社側がECの運用や巨額の投資コストを割けない事情があり、集客するノウハウの蓄積もないという実情があったからだといえます。