「支」の表示、最近よく見掛けませんか?

 最近、コンビニやドラッグストアで青地に「支」という字を白抜きにした表示を見掛けることはありませんか? これはスマートフォンで「QR決済のアリペイ」が使用できるというマークです。

 アリペイは、アリババグループの「タオバオ」(C2C〈個人対個人〉ネットショッピングサイト)の支払いツールとして、2004年に生まれました。これがスマホの普及に伴い、オフラインでの買物の主力支払いツールとなり、現在の中国人の生活に欠かせないものになったのです。

 アリババグループの発表によると、アリペイの2018年7~9月のアクティブユーザー数は7億人で、前年度比約35%増とのこと。日本でも中国人旅行客の増加に伴い、アリペイが使用できる店が増えてきたため、このマークをわれわれが目にするようになったわけです。

「アント」の名に込めた中国社会へのメッセージ

 今回ご紹介する2冊の本『アントフィナンシャル 一匹のアリがつくる新金融エコシステム』(以下、「アント」と略)と『アント・フィナンシャルの成功法則』(以下、「成功法則」と略)は、 このアリペイの運営企業であるアントフィナンシャル(以下アント社と略)について書かれた書籍です。

『アントフィナンシャル――1匹のアリがつくる新金融エコシステム』廉 薇(著)、辺 慧(著)、蘇 向輝(著)、曹 鵬程(著)、永井 麻生子(翻訳) みすず書房
『アント・フィナンシャルの成功法則:アリペイを生み出した巨大ユニコーン企業』由曦(著)、永井 麻生子(翻訳) 中信出版日本

 実はこの2作品、原題はどちらも『螞蟻金服(アントフィナンシャル)』で、それぞれ違う副題が付いており、「成功法則」の方は中国で10万部を超えるヒット作になっています。

 内容を簡単にご説明すると、「成功法則」は緻密な分析よりも、アント社が人事面や技術面でいかに課題を克服してきたかというエピソードや裏話が多くなっています。一方、「アント」は北京大学デジタル金融研究センターが「新金融叢書」シリーズの第1弾として出版したもので、副題の通り、アント社を取り巻くエコシステム全体について記述しています

 では、そのアント社はどういう企業なのでしょうか。

 アント社はアリペイを中心に成長し、2013年「阿里小微金融服務集団」として独立、2014年に「アントフィナンシャル」に改称しました。初代CEOのLucy Peng(彭蕾)によれば、アント(アリのこと)という名には「小さなことを皆で力を合わせて行い、目的を遂行する」という意味が込められています。このことからも分かるように、アントフィナンシャルは一貫して「小さい」金融を追求していて、少額融資、少額投資を専門に扱い、サービス対象も中小・零細企業や個人に限定しています

 そのアント社ですが、規模は決して小さいものではなく、「世界最大のユニコーン企業(評価額10億ドル以上の未上場企業)」と呼ばれ、2018年の中国IT企業の評価額・時価総額ランキングではアリババ、テンセントに次いで3位につけています。

 では、同社は具体的にはどのようなサービスを行っているのでしょうか。

「芝麻信用」と「余額宝」も注目の理由

 アントフィナンシャルが注目を集めている理由は、アリペイの躍進だけではありません。

 芝麻信用(個人の信用度を点数化したもの)、余額宝(アリペイアカウントの残高を用い、1元からMMFに投資可能)、網商銀行(英語名:マイバンク 中小企業向け融資専門銀行)などはニュースなどで聞いたことがある方も多いでしょう。ここではアリペイ、芝麻信用、余額宝について触れたいと思います。

アリペイ:導入で店舗の販売効率上昇の例が多数

 アント社の業務の中で最も日本人になじみがあるのが、このアリペイでしょう。読者の中にも業務などで実際にアリペイを使用している方もおられるのではないでしょうか。日本のアリペイの加盟店舗数は2018年3月末時点で約5万店。2017年初頭では2万2000店だったので、1年で倍増したことになります。

 日本でこのように利用店舗数が増加している背景を見るために、「アント」の「第2章 アリペイの野心」(107頁)で紹介されているアリペイ利用による店舗の効率化の事例を紹介します。

・ケンタッキーフライドチキン(KFC)では、2015年までに中国に5000以上ある全ての店舗でアリペイを導入し、1年強でKFCのモバイル決済比率を20%超、顧客1当たりの生産時間を8秒短縮した

・外食チェーンの「金鼎軒」では、2016年に店舗内の全てのテーブルにQRコードを設置し、それを読み取ることで注文できるようにした。その結果、同チェーンの北京財富センター店では従業員を25%削減でき、年間20万元(320万円)の人件費を削減、テーブル回転率を30%近く上昇させた

・北京の「西単大悦城」というショッピングモールでは、モバイル決済により3カ月でほぼゼロコストで40万人の会員を集め、その消費データにより、施設内の調整を行ったところ、店舗1平方メートル当たりの1日の利益が200%上昇した

 このように、アリペイを導入したことにより、店舗での販売活動の効率が上昇している例が多数見られます。3例目に見られるように、アリペイの強みはデータの蓄積にあります。アント社の生みの親であるアリババグループのジャック・マー会長は、今後はITではなくDT(データテクノロジー)の時代であり、これまでの石油のような存在にデータがなると言っていますデータを蓄積できるツールを顧客に提供できる者が市場を制するということです。今後も蓄積したデータを用い、アント社は顧客のニーズに適応した施策を打ち出してくると思われます

 昨今、日本でもスマホ決済サービスが台頭してきていますが、大掛かりなキャンペーンで注目を集めたPayPayはアリペイと提携しており、アリペイユーザーはPayPay加盟店でアリペイによる決済が可能です。