Walmart Japan/西友 Vice President CIO 白石卓也 氏

 ITなどのテクノロジーを利用し、ビジネスの大変革を起こすデジタルトランスフォーメーション(DX:Digital transformation)の波が小売業にも来ている。小売業でデジタルトランスフォーメーションを実践するための必要条件とはどのようなものなのか。IT業界から流通業の世界に入り、現在、西友でデジタルトランスフォーメーションを推進しているWalmart Japan/西友Vice President CIO白石卓也氏が解説する。

※本内容は、2019年1月23日に開催された「商業界オンライン」主催のリテール・マネジメント・フォーラム、「小売業のデジタルシフトを加速せよ」における、Walmart Japan/西友のVice President CIO白石卓也氏の講演内容をまとめたものです。

「業態」の問題ではなく、変革できる企業が勝ち残る

 まず、デジタルトランスフォーメーションがなぜ、今、必要かということに関連し、私の小売業に対する現状認識からお話します。この10年間、小売業の中で大きな成長を遂げたコンビニは、以前とは売っているモノやサービスもずいぶん変わりました。野菜や果物、揚げ物など売り始めている他、収納代行や郵便などさまざまなサービスを提供するなど、常に工夫をしてきています。同じく成長を続けてきたドラッグストアも高利益率の薬を武器に食品を強化してきました。

 この間、競合の考え方も変わりました。業態の垣根を超えてお客さまは買物をします。もはや、コンビニの競合はコンビニだけではなく、スーパーマーケットやミニスーパーも含まれます。そして、コンビニもこれまでと同様の成長は難しい時期に差し掛かってきていると言えます。

 では、ひどく落ち込んではいないものの成長もしていない、スーパーマーケットはどうでしょうか。私はまるで変っていないという見方をしています。スーパーマーケットは生鮮が強みなのは間違いないですが、それを強化するだけではダメで、どんどん新しいサービスを提供していかなければ、成長は見込めません。

 これから10年先を考えれば、ある「業態」が勝ち残るというのではなく、危機感を持って新しいことに挑戦する「企業」が勝ち残るようになるでしょう。例えば、ドラッグストアで刺身を売るようになるかもしれません。「そうしたことはあり得ない」と思い、変革をしない企業が、負け組になるのです。

 人手不足が深刻化しているとともに、最新鋭のテクノロジーが以前よりずっと手軽に利用にできるようになった今こそ、スーパーマーケットをはじめとした小売業は、デジタルトランスフォーメーションにかじを切るべきです。

デジタルトランスフォーメーションは経営マターで取り組む

 デジタルトランスフォーメーションは、ITなどのテクノロジーを利用するが故に、ITという枠組みの中で捉えられがちです。しかし、その本質はビジネスモデルの変革であり、スピード重視の『アジャイル経営』(顧客との対話を重視した臨機応変なソフト開発の手法)を実現させることであると私は理解しています。そのため、ITに閉じられることなく、経営の問題として全社的に取り組む必要があります。

 また、デジタルトランスフォーメーションを実践するにあたって重要なことが幾つかあります。まず、「テクノロジーを活用して売上げを拡大するとともにコストを削減し生産性の向上を目指すこと」。そして、「データを活用して意思決定のスピードを早め、軌道修正を頻繁に行うこと」「従来のやり方にとらわれずに新しい取り組みを実施すること」「組織や人が変わること」です。

 最も重要なのは、デジタルトランスフォーメーションによって売上げや客数の増加という結果に結び付けることです。それも、短期的にではなく、長期的にビジネスに貢献することが大事です。

デジタルトランスフォーメーション実践における6つの要件

 ここで、デジタルトランスフォーメーションを実践するにあたって必要となる要件を6つ挙げたいと思います

 1つ目は、人や組織の強化です。今後、ITはビジネス部門の要望を聞き、コストを削減するという役割から、ビジネス部門へ提案し、利益を生み出す役割へと変化していく必要があります。そのためにIT人材の採用も進めなければなりません。

 2つ目は、データを活用すること。これは、まずは社内のデータ整備からです。社内データを整備して初めて、さまざまな外部データも活用できるようになるからです。

 3つ目は、ビジネスモデルを長期的に捉えること。その際には、同業他社だけではなく、広告や金融といった異業種も参考にするべきです。

 4つ目は、ビジネスプロセスの見直しです。これはBPR(Business Process Re-engineering)という言葉(企業活動や業務の流れを分析し、最適化すること)で、昔から語られてきましたが、今でも紙ベースや「人についている」仕事というのがまだ残っていると思います。当たり前のBPRを継続的にきちんとやる必要があります。

 5つ目は、オープンイノベーションです。テクノロジーを含めて、世の中の流れが速いため、社内だけでなく取引先を含めてパート―ナーシップを組む必要あります。その過程では、何を頼み、何を内製化するかも決めなければなりません。

 そして6つ目は、確実なプロジェクトマネジメントです。まずは、デジタルトランスフォーメーションのゴールがどこで、どこまで進んでいて、どこからスタートするのかという現状把握も大事です。

デジタルトランスフォーメーションで10年後の「勝ち組へ」

 ITとして必要な視点も押さえておきます。まず、さまざまなテクノロジーを使いこなすことは前提として、基幹システムの見直しが不可欠です。

 いかに基幹以外の周辺システムがインターネットを介してリアルタイムで動いていても、社内では昔ながらの汎用機によってバッチ処理(オンラインではなくまとめて行う処理)を行っているという状態ではダメです。常にシステム全体を最新化し、システムのライフサイクルを管理し続けることは、非常に大変ですが、取り組まなければならないことです。

 また、来店する前から始まり、商品購入後も続く「顧客体験」をITとしてどう一気通貫でフォローするかも、これからますます重要になるでしょう。

 オムニチャネルへどう挑戦するかも重要な視点です。お客さまにチャネルの境界を感じさせずに楽しんで買物いただけるために、テクノロジーを活用できることは多いのです。

 私は、デジタルトランスフォーメーションは小売業の次のビジネスモデルそのものだと思っています。デジタルトランスフォーメーションをやれるかどうかで、今後10年間の勝ち組が決まってくるでしょう。ぜひ、全社的なプロジェクトとして取り組んでいただきたいと思います。

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