タイには、抹茶ドリンクや抹茶デザートを扱う店が多数ある。写真は人気の「京ロール園」。タイ生まれのチェーン店だ。

 抹茶ラテ、抹茶ミルク、抹茶シェイク。東南アジアの国でカフェやレストランに入ると、メニューに抹茶を使ったドリンク類が並んでいることに気付くはずだ。『抹茶=matcha』。今や抹茶は世界の多くの国で通用する言葉となった。

 ここタイも例外ではない。生クリームで飾り立てた冷たく甘い緑色のドリンクはタイ人のお気に入りメニューの1つ。抹茶ドリンクは、もはやカフェの定番メニューといっても差し支えない。

Chahoの人気アイテム、抹茶オレ。甘味の強さ、抹茶の風味、色の鮮やかさがタイ人を魅了する3大要素だ。

 ブームの粋を超え、タイの食生活に定着した抹茶ドリンク。一体いつからタイ人の心と舌をつかんだのだろう。原点を探る上で見逃せないのが、あるカフェの存在だ。2008年に中心部の大型商業施設セントラルワールド内にオープンし、タイで抹茶ブームのトリガーとなった店「Chaho」である。

 抹茶を使ったラテやカプチーノ、餡や皮に抹茶を使った大福など和のスイーツを提供すると同時に、すぐ脇のテーブルでお茶を点てて本場の抹茶を試飲してもらう。同店のそんな試みは、新しもの好きのタイ人に注目され、抹茶は徐々に人気を集めていった。

老舗・中村茶舗との出合いが「Chaho」に

「Chaho」を運営するのは、海外の高品質の食品や添加物不使用の食品などを輸入販売するHEALTHY HO社。同社は、世界各地からさまざまな食材を探し求める過程で、135年もの歴史を持ち、他社に先駆けていち早く海外進出へと動いていた老舗の中村茶舗(島根県松江市)と出合う。両者の連携により実現したのが、タイ初の抹茶ドリンク&デザート専門店の「Chaho」だ。

タイの抹茶ブームの仕掛け人、Chahoが昨年開いた新店舗。洗練された空間で抹茶をアレンジしたデザートやドリンク類を提供している。

 もっとも、オープン当初の人気は芳しくなかったようだ。業務用の食材を手掛けるHEALTHY HO社は飲食店に向けて抹茶パウダーの営業をかけたものの、抹茶パウダーの価格がそもそも高く、飲食店側もこの抹茶パウダーの活用方法が分からない。抹茶の価値そのものが理解されていない中で、どのようにすれば抹茶パウダーを店のメニューに取り入れてもらえるのか。悩んだ末に生まれたアイデアが、抹茶を使ったドリンクを実際に飲んでもらう場所の創出だったのだ。

ソムサワリ王妃らにお手前を披露する機会を得て

 HEALTHY HO社には飲食店運営のノウハウは全くなかったが、中村茶舗の協力を得て、カフェであると同時に、抹茶の普及を図るためのアンテナショップとしての役割を持つ「Chaho」を、セントラルワールドという高い集客力を持つ商業施設に出店した。冷たく甘い飲料を好むタイ人向けに開発した抹茶ドリンクと、中村茶舗の中村寿男社長によるお点前披露による抹茶文化の紹介。この2つが両輪となって「Chaho」は固定客を増やし、抹茶の知名度・認知度がじわじわと上がっていく。

 抹茶人気の決め手となったのが、2009年にバンコクで開催された国際展示会「コーヒー&ティーフェスティバル2009」のオープニングセレモニーだ。中村茶舗はタイ王室のソムサワリ王妃らにお手前を披露する機会を得た。王室の影響力が強いタイでこうしたイベントの効果は絶大だ。

テイクアウト用の抹茶オレとホットの抹茶オレ。タイ人が頼むのはほとんどが冷たくて甘い抹茶オレだ。

 これを機に抹茶は一般にも広く知られるようになり、見事にブレイク。HEALTHY HO社の飲食店開拓も順調に進み出し、みるみる抹茶ドリンクは多くのカフェや飲食店の定番メニューの仲間入りをした。抹茶の価値を最初に認めたHEALTHY HO社と、タイの人々に抹茶文化を理解してもらいたいと尽力した中村茶舗は、タイに抹茶ドリンクを定着させた最大の功労者だ。

 一時は9店にまで増えていた「Chaho」の店舗は一定の役割を終え、現在の店舗数は2店に絞り込まれているが、抹茶人気に陰りはない。「Chaho」の店舗のうち1店は昨年オープンした新店だ。煎茶や抹茶、和菓子を中心にラテやフラッペ、抹茶フォンデュなど新規に開発したメニューをそろえ、抹茶のさらなる魅力をアピールしている。タイにおける抹茶ブームが新しいステージに突入したことを象徴する店舗といえよう。