トライアルホールディングス 取締役副会長・グループCIO 西川晋二 氏

 トライアルホールディングスは、IT企業として1981年に設立(株式会社あさひ屋)、コンピューターシステムの開発とともに、自らも実店舗を持つスタイルで最新のテクノロジーを提供してきた企業だ。現在はスーパーセンターを中心に大型店、小型店を加えて、全国224店舗を展開する。 「デジタルシフト」実践のヒントやITとAIをフル活用した同社の「スマートストア」の中身、それに掛ける想いを、取締役副会長・グループCIO西川晋二氏が語る。

※本内容は、2019年1月23日に開催された「商業界オンライン」主催のリテール・マネジメント・フォーラム、小売業のデジタルシフトを加速せよ」における、トライアルホールディングス取締役副会長・グループCIOの西川晋二氏の講演内容をまとめたものです。

デジタルと実店舗が融合し、顧客の課題を解決

 まず、2019年の全米小売業大会 年次総会で見聞きした米国の流通事情について、お話ししたいと思います。少し前までは「アマゾンに皆やられてしまう」という話をよく聞いていましたが、現在では、約2000の新しいネット店舗が出店し、小売業そのものが成長していて好調だと言います。確かに、米国小売業は300兆円規模の売上げがあり、昨年対比で4~5%以上成長しています。

 この背景には、チャネルの融合や、システムによるお客の購買意欲を高める店づくり、顧客体験の向上に成功してきたことがあるようです。これまで、そのためにしてきた投資が、果実を得るような状況になってきたとのことです。

 中でも、私が印象的だったのは「小売業の実店舗はなくならない、でも同じ姿ではない。デジタルと実店舗が融合し、顧客の課題解決をするのが小売業だ」「小売業は広告業をディスラプト(破壊)する可能性がある」というクローガーのチェアマンの言葉です。クローガーはテクノロジーに関する会社を設立し、現在では棚札の代わりにプロジェクター型のサイネージを用いるような店舗も展開しているようです。

 こうしたことを踏まえ、「デジタルシフト」という課題に取り組むための3つの視点とそれに関連したわれわれの取り組みをご紹介します。

「デジタルシフト」に取り組むための3つの視点

 1つ目の視点は「データ活用」です。われわれの店舗は600万人のアクティブ会員を擁しており、10年以上、ID-POSデータを蓄積してきました。

 そうして蓄積したデータを地図上に「リテールマップ」として表示することで、昨年対比の売上増減や商圏情報、シェア率といったさまざまな情報をビジュアルで表示できるようにしています。また、商品に関するさまざまなデータ分析を行える「MDリンク」は、現在240社のメーカーさまが利用し、月間約4万5000件もの処理リクエストがあります。

 2つ目は「リテールメディア(小売業のメディア化)」です。われわれは、商品のプロモーション手段であるメディアを店舗内でご提供する取り組みを始めました。従来からID-POSデータを利用して、レシート発行時にお客さまに合わせたクーポンを発行する取り組みは実施していました。

 こうしたクーポン情報をお買物時に確認できるようにしたのが、レジにタブレットを搭載した「スマートレジカート」です。お客さまはお薦めの商品やクーポン情報をタブレット画面で確認しながら、お買物ができます。

 店内サイネージもリテールメディア機能を担っています。電子棚札も従来のものより大きなサイズでPOPの役割を果たしています。

 3つ目は、「AI活用」です。実は、前述のデータ活用の取り組みの中で、AIの活用も進めています。例えば、リテールマップではAIによって最適な出店候補地を探索するといった新たな取り組みも実施しています。ブランドスイッチを促すための高度なデータ分析もAIが活躍する分野です。最初は経験のある人間が一つ一つ判断した結果の方が良いのですが、AIの方が進化の度合いが早いのです。

ITとAIをフル活用した「スマートストア」

 ご紹介した3つの視点を踏まえ、最新のテクノロジーを取り入れた店を、当社では「スマートストア」と呼んでおり、2018年2月にオープンした「スーパーセンター トライアル アイランドシティ店」(福岡県)はそれにあたります。

「スマートストア」では人が行っていた作業のうち、機械やAIができることは代替します。スマホアプリで来店誘導されたお客さまは、前述のスマートレジカートのリコメンドやクーポンを活用しながら楽しく買物します。  また、商品をカート内でセルフスキャンし、レジに並ばずに済みます。これを当社では「スマートチェックアウト」と呼んでいます。

 アイランドシティ店には無数のカメラを配置して、棚割りの状態やお客さまの行動を把握しています。この2つに基盤となる顧客データを組み合わせることで、より的確なマーケティングを実施できます。購入された商品の8割は店頭で選択されるというデータがあります。リアル店舗で無意識に行っていたその8割の選択がAIやIoT、ビッグデータによって解明できるようになったのです。

 カメラによって棚の状態を把握し、(補充ができていないことによる)欠品しているスペースがあると警告を発する欠品防止の取り組みも実施しています。さらに、補充、移動といった従業員の動きもカメラで把握し、何にどれだけ時間がかかっているのかという計測を進めています。

リテールAIで流通小売業の在り方を変える

 ご紹介したテクノロジーを利用して従業員がいなくてもお買物ができるという、半無人化(酒やたばこの購入確認などのみ従業員が行う)を実現した小型店舗(クイック大野城店)もあります。同店ではスマホ決済も取り入れました。

 このような取り組みはアマゾンに刺激を受けている部分が大いにあります。例えば、昨年1月にアマゾンの店舗に行った際には、決済に時間がかかる印象でしたが、11月にはそれも非常に早くなっていました。

 アマゾンのようなゲームチェンジャーの取り組みを、われわれは参考にすべきだと考えています。今、AIによる「自動運転」が大きな話題になっていますが、「自動運営」によって、流通業界においても必ず、変革が起こるでしょう。

(AIやIoTを活用した)第四次産業革命を迎えつつある一方で、実際の店舗では1916年にセルフサービスが始まって100年、大きな変化もなく現在に至っています。これでは消費者の期待に応えることはできません。われわれは店舗のデータとAIテクノロジーを駆使した「リテールAI」で流通のムリ・ムダを解消し、流通情報革命を目指しています。

 そうした中、1社だけでは解決が難しい課題に取り組むために、多くの企業や機関が協力する『リテールAI研究会』という活動にも参加しています。正会員 54社 賛助会員 89社に加え、流通会員 13社(2018年11月時点)が加わりました。リテールAIで、日本の流通小売業の在り方を変えたいというのがわれわれの想いです。